北朝鮮は、日本人拉致問題を含む包括的な調査を全面的に中止し、そのための特別調査委員会を解体すると表明した。

 深刻な人権問題である拉致問題を政治の駆け引きに使うような北朝鮮の態度に、強い憤りを感じる。

 今回は、核と事実上のミサイル発射の実験に対し日本政府がとった制裁への対抗措置だとしている。しかし、国際社会から非難され、日米韓の独自制裁を科されるような暴挙を働いたのは北朝鮮自身である。

 北朝鮮による拉致は、人道に反する犯罪だ。約束通り、北朝鮮は拉致被害者らについての調査を続け、明らかになった真実を包み隠さず速やかに報告するよう求める。

 北朝鮮は2年前、スウェーデンのストックホルムで、拉致被害者や遺骨問題などの調査を包括的に進め、最終的に日本人に関するすべての問題を解決する意思を表明した。

 その後、特別な権限をもつとされる特別調査委が設けられたことに伴い、日本はそれまでの独自制裁の一部を緩めた。

 北朝鮮側は調査期間について当初は「1年程度を目標」と説明したが、昨年夏には報告の延期を伝えてくるなど、まじめに調べているとは思えないような返答を繰り返してきた。

 ストックホルムでの合意後も日本外務省は中国の大連や上海などで、頻繁に北朝鮮側と非公式に接触を続けた。

 だが、日本政府が認定した12人の被害者については今も「8人は死亡。4人は入国していない」との従来通りの主張を変えていない。その不誠実な態度に問題があることは明らかだ。

 一方で、日本政府の対応にも理解に苦しむ点がある。

 北朝鮮側は昨年来、訪朝した関係者らに対し、拉致問題の再調査を終え、報告書は完成したが、日本政府が受け取りを拒んでいると主張している。

 安倍首相は、再調査について「重い扉をこじ開けた」と成果を強調してきた。北朝鮮が調査の打ち切りを明言した今、これまでの協議で分かったことを、被害者の帰りを待ち望む家族らに説明する必要があろう。

 日本政府は、将来的な国交正常化と経済支援など、独自に持つカードをうまく使いながら、二国間協議の再開を今後も粘り強く探るべきだ。

 同時に国際社会との連携も欠かせない。北朝鮮は最近、国連で人権問題が取り上げられることに敏感になっている。指導層に責任が及ぶのを警戒してのことで、有効な圧力となりうる。