「頭の良い人は差別をしない?」—北米最新研究で論争
人種の坩堝であるアメリカは、アフリカ系、ラテン系、アジア系に対する差別がいまだに根強く残っていると言われています。2014年に白人の警官が18歳の黒人青年を言い争いの末、射殺した事件が大問題になったことは記憶に新しいところです。そんなデリケートな背景を背負うアメリカで「頭の良い人は差別をしない」という大胆な研究結果が発表されました。
言語能力の高い人は差別に寛容的?
2016年科学ジャーナル誌Social Problems で“知能と差別についての関連性”についての研究が発表されたと米Journalists Resourceが報じています。
この研究をおこなったのはトロント大学の研究者ジェフリー・ヴォトケ(Geoffrey Wodtke)氏。
ヴォトケ氏は社会学の専門で「知的レベルが高い人は差別する人が少ない? 言語能力、反黒人主義の人種差別、原理主義パラドック」という研究テーマで、言語能力分析の観点から論文を書きました。
1972年〜2010年までの総合的社会調査(GSS)※のデータを抽出して分析しています。
対象者は44,873人のアメリカ在住の白人で、主に黒人に関してのアンケート調査をおこなったものです(※GSSとはアメリカ合衆国の居住者を対象として、人口統計学的特徴や意識についてのデータを収集する目的でおこなわれている社会学的調査のこと)。
この研究でわかったことのポイントは、ざっくり分けると以下の4つになります。
(1)言語能力テストでスコアが高かった人は、黒人の知性や職業倫理に対してネガティブな見方をする人が少ない。一方、テストのスコアが低かった45.7%の被験者は「黒人は怠け者」という見方をしている。
(2)スコアが高かった人は、黒人と白人同士が結婚することや、隣人に黒人がいることに対して反対する人が少なかった。
(3)全体的に白人の参加者は「人種優遇措置」よりも、黒人コミュニティにおける「住宅開放政策」や、ビジネスの「税優遇措置」のようなチャンスを広げるような政策を支持する傾向にある。
(4)人種隔離や人種差別に対する見方は、すべての能力レベルにおいて、共通のズレがあり、その問題を是正しようとする政策を支持する傾向にある。例えば、88.8%の参加者が、黒人と白人の学生が同じ学校に通うべきだと回答しているが、23.2%が人種別の学校に通うことへの支持を回答している。
イメージは結果をもとに編集部作成
米国大手のワシントンポストによると、「一般的に研究者はこれまで知的レベルの高い人は“自分はリベラル”だと表現する人が多い傾向にあるが、新しいこの研究でも彼らは“黒人は差別待遇を受けている”と主張し、愚か者や怠け者とは呼ばない人が多い」と報じています。
ただ例外もあるようです。
1950〜60年代にかけておこなわれた「公民権運動」は黒人の基本的人権を訴えた運動ですが、この運動が始まる前に育った世代の参加者に関しては、能力のレベルによる考え方の相違は明確ではないようです。
スコアが低い高いに関わらず、20世紀初頭に生まれた人たちは時代遅れの差別的な態度が見られるとのことでした。
また面白い結果が出ています。
知的レベルが高い白人は、黒人差別に関連する質問ではよりリベラルな回答をして人種の平等性を支持しましたが、“人種の不平等を排除するような政策”をつくることに関しては、必要以上にリベラルな態度を出しませんでした。
この研究結果にユーザーたちの中では反対意見が勃発しています。
「言語能力が高いからといって、それが知性とイコールになるとは限らないよ」「なぜ人はこのようなことを記事にするの? 差別はすべて好みの問題なんだよ。知的だろうが、愚かだろうがそんなの関係ないんだ」「それで、頭の良い人は無知な偏屈者ではないって? 全然驚かないけど」「分析すること自体がバカみたい。これはすべて偏見で、リベラル理論と知性を同一視している」「賢くなったり、差別主義者になったりするのは関係性があまりないんじゃないかな。知的な人はもっと人間らしくて、親切な心を持っているといってるのと同然。ナンセンスだよ」
ただでさえ「差別」に対してナーバスになっているアメリカでは、一般市民をも納得させるような別の見地からの研究が求められそうですね。
image by: Shutterstock
source by: Journalists Resource , ワシントンポスト
文/MAG2 NEWS 編集部
投稿ありがとうございます。
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