個人的には冷え込む夜に、提灯や店の看板がほんのり光る小さな居酒屋にふらりと寄って、少量の美味い刺身や煮物なんかと一緒に飲みたくなる「燗酒」(雪なんか降っていると尚風情があって良いだろう)。その「燗酒」の中で、1999年2月号の「danchu」でお燗日本一に選ばれたのが「大七純米生もと」だ。今回、運良くその製造元である「大七酒造株式会社」の蔵を見学させていただく機会をいただいた。
酒蔵見学自体、二回目(一回目は宮城県の「男山本店」。)で、どのような蔵であのお酒が造られているのか、という事に興味があるのはもちろん、きっと美味しい日本酒にたくさん出会えるのだろうなあ、という都合の良い期待と一緒に新幹線に乗りこみ、東京からは約1時間、福島駅に到着した。
大七酒造に向かう前に、『今、福島で最も熱い酒屋さんの1つ』と伺った「橘内(きつない)酒店」へ寄らせていただいた。
全国有数の酒どころ東北。熟練の杜氏が精魂こめて造る日本酒は、日本国中にその名をとどろかせています。しかし、それはほんの一部。この地には、隠れた銘酒がまだまだあるのです。そんな素晴らしい地酒を、私どもの地元、福島を中心にご紹介します。なお、当店は店頭販売をメインとしております。ここにご紹介する商品はごく一部ですので、実店舗にもぜひお越しくださいませ。
店内には日本酒が好きなら思わず興奮してしまうようなお酒が数多く並んでいて(品揃えは是非実際にお店に行って見てみてほしい。)、その1つ1つの特徴を店主が丁寧に教えてくれた。〜はこういう特徴があって、〜との違いはこうで・・。話を聞いていると本当に福島のお酒を愛しているんだなあというのがまっすぐ伝わってくる。素敵だ。憧れる。
なんと、『せっかく東京から来てくれたから』と予算3,000円でお土産を頂けることになった。自分が行きたかっただけだから、と申し訳なくなりながらも、お言葉に甘えてみることにした。が、・・迷う。普段は酒屋さんで『これだ』ってすぐに決められるのに、どれもこれも魅力的なお酒が並び、またここでしか買えないような見たことがないお酒が数多くあるもんだから、選ぶのも大変だった。冷蔵庫を真剣に約10分以上見て、悩みに悩み、最終的に頂くことにしたのが真っ白な美しいラベルが気に入った「山の井 白」の一升瓶。福島県の「會津酒造」のお酒で元々好きな山の井の新酒。(ちなみに最後まで迷ったのは同じく福島の白井酒造店「風が吹く」。)
嬉しいお土産と共に橘内酒店を後にして、酒蔵へ向かう途中に、軽い食事をということで「うまか亭」へ。ここらへんではちょっと有名な回転寿司屋さんらしく、昼間から活気良く賑わっていた。ちょうど節分だったので恵方巻きをいただきながら、好きな寿司を皆でつまんだ。
「回転寿司のレーンに「写楽」が流れている・・」というのが衝撃的。さすが福島。皆、日本酒が好きなので、昼から少し飲んだ。
「えんがわ」は好きな寿司ネタの1つ。
とろのセットもまた美味かった。
日本酒を飲みながら、美味い寿司を満喫しているうちにちょうど良い時間となり、「大七酒造」がある福島県の二本松へ向かった。福島駅からは車で約30分程。二本松は初めて来たけれどこの街の雰囲気、好きだなあ。
福島県を代表する城下町のひとつに数えられ、多くの観光資源を有する。二本松城は、福島県内の若松城(会津若松)、白河小峰城(白河)と共に、日本100名城にも選定されている。その城下で執り行われる「二本松提灯祭り」は、福島県内で行われる神社例大祭の中でも、群を抜く規模と参加者の威厳を肌で感じられる祭りである。
二本松市は菊の城下町と称され、日本最大級の菊人形展「二本松の菊人形」が行われている。市の西方には二本松市のシンボルでもある安達太良山があり、温泉地として岳温泉が知られている。
福島県内で会津と並ぶ、古くからの日本酒酒造メーカーを多く抱えている地域でもあり、市を代表する産業のひとつである。
そして今回の目的地、「大七酒造株式会社」。2005年に新しくしたという社屋。
2005年、大七酒造は新社屋を竣工した。この新社屋のコンセプトは「酒蔵は微生物にとって自然環境そのものである」ということ。これまで受け継がれてきた環境を大事に、さらにその環境をこれから先もずっと守るために、頑強な建物をつくりあげた。そして、古い蔵から新しい蔵への移行には5年の歳月を費やした。決して酒造りの工程を機械化したり、簡略化することはせず、より酒造りに適した環境を整える。そこにも生もとづくりを守り続ける大七の、酒造りへのこだわりが窺える。
大七酒造(だいしちしゅぞう)は、福島県二本松市の酒類の製造・販売業者。 「生もと造り」にこだわっており、醸造している全商品が生もと造りとなっている。 商標は『大七』である。
受付のすぐ横には大七を代表するお酒が並ぶ。
そしてこの雰囲気。下記記事にあるように「シャトーのようなたたずまい」という表現が個人的にもしっくりとくる。ここは日本か、本当に日本酒を作っている場所なのか、と思わざるをえない。
蔵の見学の前には太田社長より大七酒造の説明をして頂いた。
私は“二本松人”である:大七 太田英晴──偏差値エリート4人の酒づくり|メンズファッション、時計、高級車、男のための最新情報|GQ JAPAN
この動画のように、本当に物腰柔らかく非常に1つ1つ丁寧に話して頂けたのを覚えている。とにかく笑顔が素敵で、格好が良かった。
そして、その後は酒蔵見学。酒蔵入口にあるステンドグラスは、二本松在住のステンドグラス作家「千代豊子」さんの作品。
酒造りの工程に沿って、案内をしていただいた。基本的な流れは知っていたけれど、実物を見るとその規模、迫力に圧倒される。日本酒が好きで、酒蔵行ったことがない人がいたら、試しに一度行ってみて欲しい。そのお酒ができるまでの地道な苦労や熱い想いを知り、さらに、日本酒好きになってしまうはずだろう。
「三尊様」から蔵へと向かう石畳の歩道の途中に広がる中庭には、花梨の木があります。今から150年以上昔、大七四代目の太田七右衛門定安がお殿様から貰い受けた特別な木です。お殿様のお庭にあったとき雷が落ちて真っ二つに裂けたのですが、同じ木にもう二度と雷は落ちないだろうから雷避けになると考え、大七に運ばれて今もちゃんと大切にされて生きています。今はありませんが、当時は玄関の前に樫の木もあったそうで、この花梨の木には「金は借りん」という意味を込めて、「外に樫(貸し)、内に花梨(借りん)」という大七の家訓が託されているのです。
蔵見学の後には試飲をさせていただいた。
今回飲ませていただいたお酒。代表的な純米生酛から、皆伝、箕輪門まで・・。これ無料で試飲させてもらってしまって良いのか、という贅沢さ。
お酒毎の想いを社長から聞きながら。お忙しい中、本当ありがとうございました。ただただ感動。貴重な時間だった。好きな東北、福島のお酒を飲みながら、そのお酒を作っている社長のそのお酒に対する考え方、こだわり、好きなポイントを聞けるって、こんな幸せなことがあるのだろうか。ちなみに社長はプライベートの晩酌では純米生もとが多いよね、と言っていてより好きになってしまった。
ずっといたかったくらいに居心地の良かった「大七酒造」を後にして、夜は福島の街へ飲みに行った。夜の寒さ、街並みが以前住んでいた仙台に少し似ていたから歩いているだけで楽しくなってくる。通り過ぎる居酒屋、居酒屋、どのメニュー見ても写楽、飛露喜が並び、東京で飲んだら高くなりそうなこれらのお酒がなんと400円台〜。福島、最高すぎるだろう。そういえば、中田英寿氏も「今、福島のお酒が特に面白い」と言っているようだ。確かに面白い。そして、なにより個人的にめちゃくちゃ好きな街だ、福島。
今回紹介していただいたのが「ふた夜の月」というお店。飛露喜、ロ万、写楽といった福島の日本酒から伯楽星、陸奥八仙、出羽桜等福島以外の東北のお酒もある。黒龍、而今、〆張鶴なんかも。
カウンターに座り日本酒を飲みながら、美味い料理を食べる。刺身も絶品だし、何よりこの時期のおでんは、ずるいくらいに美味い。福島で福島のお酒を飲んで、好きな日本酒についてただただ語るだけという、楽しすぎる夜。
やっぱりこの時期っていったら燗酒だ。
今回の酒蔵訪問は、上記記事を書いた、id:aliliputさんがTwitterで「誰か一緒に行こうぜ! / “大七酒造の取材に同行してくれるブロガーを大募集!」という投稿をしていたので、スケジュールを確認してみると奇跡的に休みだったので思い切って「行きたい」と言ってみたら、幸いにも行かせてもらえることになったのがきっかけだ。貴重な経験をさせていただき、感謝。色々調整いただいた、「福島日本酒定期販売プロジェクト実行委員会」の小笠原さんもありがとうございました。また、日本酒飲みましょう。活動も応援しています。これからもよろしくお願いします。
社会人になった年から、日本酒にはまり、好きで好きで、飲み歩いてブログでも飲み歩いた記事を書いていたら「日本酒ライター」的な仕事もいただけることになり、来月からは各地の酒蔵へ行かせてもらえそう。日本全国の美味い日本酒と出会えるのが楽しみでしかたがない。「自分の好き」が仕事に繋がるって、幸せだなあ。ってことで、これからまた山の井の白、飲もっと。その後は大七の純米生酛をぬる燗でいただこうか。
大七酒造
住所:福島県二本松市竹田1丁目66