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竹中平蔵のポリシー・スクール

2012年11月21日 長期政権と短命内閣

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日本経済研究センター研究顧問 竹中平蔵
 いよいよ解散総選挙だ。12月16日の投開票を経て、新しい政権の枠組みが決まることになる。とにかくこの数年、毎年のように総理が入れ替わり、腰の据わった政策を展開できなかった。またその短い内閣の間に、政局を考慮した内閣改造が何度も行われ、各担当大臣が半年ごとにコロコロ変わるという異常な状況が続いた。今回の選挙を経て、長い期間にわたって政権を担当し十分な政策を行えるような本格内閣が出現するのか、大きな関心事となっている。

長期政権の好循環

 世界の主要国を見渡すと、ほとんどの国でそれなりに安定した政権が存在し、その政治的基盤の上に立って、政策を展開していることがわかる。米国は4年の大統領任期を定め、2期8年まで政権運営が可能である。中国は特殊な政治形態の国ではあるが、江沢民・胡錦濤主席とも約10年と、やはり長期政権を実現した。また隣国韓国は、大統領の任期を5年(ただし一期のみ、再選なし)と定めている。

 これに対し、日本はどうか。歴代首相のなかで在任期間が長い10位までを示すと、表の通りである。最長の桂太郎総理でも7.9年。過去50年についてみると、米国大統領の1期にあたる4年を上回って在任したのは、佐藤栄作、小泉純一郎、中曽根康弘、池田勇人の4総理だけであった。

 こうした日本における長期政権を振り返ると、それぞれに沖縄返還(佐藤内閣)、郵政民営化(小泉内閣)、国鉄・電電公社民営化(中曽根内閣)、所得倍増計画(池田内閣)と、歴史に残る業績を残していることが分かる。さらに、そもそも長期政権においては、短命政権に比べて成長率など経済のパフォーマンスが相対的によかったことが、過去の調査でも明らかになっている。要するに、長期政権だからこそ、政府は思い切った政策を実行することができる。また思い切った政策を実施するからこそ経済が活性化し、その結果国民支持を得て長期政権が可能になる。こうした“長期政権の好循環”が生まれるのである。

※図表をクリックしていただくと、拡大してご覧いただけます。



ホット・チームと戦略的アジェンダ

 新政権には、以上のような好循環を自らの手で作り出し、長期政権の安定基盤を背景にした思い切った政策で日本経済を活性化してもらいたい。長期政権の好循環を生むために、以下の2点を指摘しておきたい。

 第一は、総理を支えるインフォーマルなサポートチーム、いわば志を共有する”ホット・チーム“の形成だ。過去50年で、4年以上在任した総理は4人だったと述べたが、実はそのすべてに共通しているのが、こうしたチームの存在だ。佐藤内閣には、米国・ワシントンの専門家がよく使うCPU(コミュニケーション&ポリシー・ユニット)が存在していた。鈴木崇弘「日本に『民主主義』を起業する」によると、ジャーナリストで後に総理秘書官となる楠田實氏を中心に、佐藤総理に直結する運命共同体のようなサポートグループがあった。これがあったから、沖縄返還という歴史的な政治イベントが可能になったのだ。池田総理には、ブレーンとしての下村治氏と宏池会事務局長の田村敏雄氏がついていた。こうした人々の活躍と結束ぶりは、沢木耕太郎「危機の宰相」に詳しい。また中曽根内閣には、公文俊平・佐藤誠三郎・香山健一といったブレーン・チームがいたことが知られている。そして、実は小泉内閣にもこれと類似したチームがあった。筆者も参加したそのチームは、官房長官とともに毎週日曜日の夜9時に、5年半の間欠かさず集まった。そしてストラテジー・ミーティングを繰り返し、時々の情勢分析と必要な対応を決定した。日本でも、長期政権となった政権には、こうした“ホット・チーム”があったことに注目すべきだ。

 第二は、内閣が取り組む大きな課題、いわゆる戦略的アジェンダを明確にすることだ。元参議院議員の田村耕太郎氏は、最近のロシアでのスピーチで次のような趣旨のことを述べている。

 「政党内部の人間関係より国民との対話の姿勢を重視せよ。国民の声を聞いても国民に迎合する必要はない。国民のためだと思ったら、政党や自らの政治生命を失う覚悟でぶれずに自説を貫け」

 要するに、自らが必要と考える政策を明確に掲げ、反対に臆することなく堂々と国民に訴えろ、ということに尽きる。これは、先の歴代長期政権がそれぞれに時代を画する政策を実現したプロセス、そのものとも言える。その政策が何であるのか、時代背景、国民意識、経済環境など、さまざまな要因を勘案して決められるものだ。こうした戦略的アジェンダを明確にできるかどうかに、新政権の当面の課題が凝縮されよう。

 選挙は政治上の大戦(おおいくさ)だが、選挙に勝っても短命政権なら志は果たせない。長期政権を可能にするような政策上の大戦は、ホット・チームと戦略的アジェンダをいかに構築するかで決まる。選挙が終わった瞬間から、次のリーダーの戦いが始まっている。

(2012年11月21日)


(日本経済研究センター 研究顧問)

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