『オデッセイ』 - 愛したら火の星
オデッセイ
THE MARTIAN
2016(2015)/アメリカ/G 監督/リドリー・スコット 出演/マット・デイモン/ジェシカ・チャステイン/クリステン・ウィグ/ジェフ・ダニエルズ/マイケル・ペーニャ/ケイト・マーラ/ショーン・ビーン/セバスチャン・スタン/アクセル・ヘニー/キウェテル・イジョフォー/他 原作/アンディ・ウィアー/『火星の人』
70億人が、彼の還りを待っている。
アクシデントから火星に置き去りにされたマット・デイモンが救援が来るまでがんばるお話。そげな状況にいざ自分が置かれてみたらばもういいから殺せとなってしまいそうなものであるが、マット・デイモン演じる宇宙飛行士ワトニーのバイタリティは凄まじかった。何せじゃがいもの自給自足から居住モジュールのメンテナンス、地球との通信に至るまでがんばってこなすのである。ここらがSFの勘所を押さえていますね。悲劇に見舞われ生死の狭間にあるいちエリートからマーシアンへ、その希望と生命力に満ち満ちた転身はコントラストと渋面にあふれたリドリー・スコットのフィルモグラフィの中でも異彩を放つもので、全世界が見守る中軽口を叩いてしまうワトニーの姿には何故か自分の肩の荷が下りたような気持ちになってしまう。彼は前を向いているのです。とは言い条、その前向きさがサスペンドを少々軽減してしまっているのもまた事実で、何も深刻ぶって後ろと下を向いてサバイブしろとは言わないが、乃公のごときSF音痴からしてみればもっとケレンと苦味を味わいたかった。が、そんな不満も実益と半ば暇潰しも兼ねた火星DIYを眺めていれば「不満の方向が違うだろう」と脳内の小人さんに説得される事必至で、大事、小事を問わず目の前のやるべき事をひとつずつこなしていく尊さ、喜び、達成感の如何に得難きことか、自分の部屋を見渡しながら得心が行くのである。ローバーで疾走する火星の荒野の荒涼たる美しさも特筆すべきであろう。どこに踏み出そうが、どの丘を登ろうが自分の一歩が人類にとって初めての一歩であると豪語する、否、素朴にこぼすワトニーの心情たるや察するに余りある。今この時間、彼は仮性の、じゃなかった、火星の王なのだ。開拓者(あまり開拓してないけど)が王になった恍惚と絶頂。だがその美酒に酔い痴れる事なく自分の置かれている立場を認識し続けているのが本作のバランス感覚というもので、神に祈ることを放棄したその現実主義と、NASAの同属たちの現実主義が乗算されてそこが可笑しくもあり逆説的な祈りのように感じられもする。それらが結局のところ、極限状況下に於ける死の匂いや絶望の虚を取り除いて、ちょっと口角を上げながら言うヒューマニズムに口語や仕草を収斂させて行っているのだから、火星の赤い砂漠に希望の轍を刻んでいくというよりも習慣で一歩々々踏み出す日常を大切にし給へよ、地球に居られるだけ君たちは幸福だ、と諭されているような気持ちにもなるのである。火星に征く予定はしばらくのところありませんが。
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20160213 │ 映画 │ コメント : 0 │ トラックバック : 1 │ Edit