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Think outside the box

Unus pro omnibus, omnes pro uno

過大評価されるフランスの少子化対策

人口・少子化

最近、少子化対策として「フランスを見習え」という言説をよく見かけます。

business.nikkeibp.co.jp

国が本気を出して、出産・育児に関する選択肢を増やしたのです。これによって、フランスは出生率が1994年の1.66から、わずか10年で2.0前後まで上昇して、安定しました。

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しかし、以前の記事でも指摘したように、これは事実認識として不正確です。1970年代以降の合計出生率の低下は、戦後世代が出産時期を遅らせるようになったためで、最終的な出産数はほとんど変化がありません。

不均衡という病 〔フランスの変容 1980-2010〕

不均衡という病 〔フランスの変容 1980-2010〕

出生率の情勢指標は、1966年には女性1人当たり子ども2.9だったのが、1975年には1.9、1990年には1.6へと低下したが、その後また上昇し、2010年頃には2で安定する。女性が作る子どもの数が減ったということも多少はあるが、その主な原因は、女性が子どもを作る時期が遅くなったことである。[…]情勢指標の低下が華々しい様相を呈し、出産奨励主義者の間に一時パニックを引き起こすほどであったのは、とりけ女性が母となる平均年齢が上昇したためである。実際はいかなる時点においても、子どもを作る者としての生涯の全期間にわたって女性が産む子どもの最終的な数が、2人より下に落ちたためしはない。 

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つまり、出口が称賛する「シラク3原則」の効果は、あったとしてもそれほど大きなものではなかったと考えられるのです。森田も慎重な見方をしています。 

森田:人口問題の研究者によると、少子化というのは本当にさまざまな要因が関係しているんだそうです。だからこそ、こうすれば子どもが増える、と言える特効薬はないのが正直なところ。それはおそらく、「シラク3原則」についてもそうなんじゃないかと思います。

フランスで注目すべきは、1960年代後半からの男女同等化の「革命」が、非婚化(事実婚を含む)→少子化につながらなかったことですが、これは政策の結果というより、文化的要因の影響が大きいと考えられます。

なぜフランスでは子どもが増えるのか -フランス女性のライフスタイル (講談社現代新書)

なぜフランスでは子どもが増えるのか -フランス女性のライフスタイル (講談社現代新書)

かつての「社交」に「仕事」が代わった現在、一度は消えた「乳母」が復活して、高学歴高収入の母親たちを支えている。今日の「乳母」は、乳をやったりはしないが、出産後間もなく職場復帰していく女性の子どもたちの世話をしているのである。

「〈恋愛大国フランス〉に子どもが増える」というロジックを、私なりに説明するのであれば、「母より女のフランスでは、逆説的に女が産むことに抵抗が無く、従って子どもが生まれる」ということになるのではないか。

totb.hatenablog.com

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見習うのであれば、最近の風潮には逆行しますが、「性に対する寛容」でしょう。

出口は「ジェンダーギャップ指数」の低さにも苦言を呈していますが、 

先進国で100位以内にも入れないというのは、どうなんだろうと思うのです。この指数は、女性の地位を経済、教育、政治、健康の4分野で分析しているのですが、日本は女性の労働参加率が低く、男性との賃金格差が大きいことが、順位を大きく下げる要因になっています。

6位ルワンダ、7位フィリピン、17位南アフリカが日本よりも素晴らしい国というのでしょうか。54位のシンガポールも、合計出生率は日本を下回っています。

www.straitstimes.com

totb.hatenablog.com

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単純化すると、日本のジェンダーギャップ指数の低さは、日本の男が真面目に働くことの反映です。政治や経済を男に任せても安心だから、日本の女はわざわざ面倒なことをやらないということです。*1

totb.hatenablog.com

フランスやシンガポールの経験が示しているのは、政府の少子化対策の費用対効果は微々たるもの、という残念なことなのです。

不治の病に罹った人が怪しげな民間療法にすがるように、少子化問題でも希望的観測から「解決策」「特効薬」と称するデマを簡単に信じてしまう人が多くいますが、男女同等化を前提とする限りは「打つ手がありません」という現実を直視することが必要でしょう。*2

www.j-cast.com

totb.hatenablog.com

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フランス全体のおよそ8パーセントがムスリムであり、パリの20歳以下においては45パーセントがムスリムであるとされる。これらの値は今後も増加する一方だろう。

↑ この実態もお忘れなく。

服従

服従

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追記

この記事も同じ誤りを犯しています。

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例えば、1993年に1.66だった出生率を2012年に2へ引き上げることに成功したフランスはこの間、思い切った政策を実行した。子供の数が増えるほど所得税が軽減される税制や、第3子以降は育児給付をより手厚くする制度などを整備。さらに個人宅で子供の保育を請け負う「保育ママ」の認定数を増やし、雇用する親を補助したり、育児休業制度も拡充したりした。

このような政策が格差拡大にもつながることにも要注意です。

シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧 (文春新書)

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中等・高等教育のコストの大部分を国家が負担してくれるから、「管理職および知的上級職」が将来における自分たちの社会的自殺を覚悟することなしに子作りができるわけで、その階層の人口学的な堅調さはそのように説明できる。そうとも、フランスでは福祉国家が今日も生き延びている。しかし、それはまず、中産階級福祉国家になったからなのである。

失業率10%の脅威の下で生きる庶民層に、管理職層の子女の教育費を負担させるようなやり方には臆面のない反社会性が指摘されてしかるべきだ。

*1:異論がある人も多いでしょうが、外国との相対的比較です。

*2:この記事もデマかもしれないので、批判的に読んでください。