【サンパウロ=宮本英威】ロシア正教会で最高位のキリル総主教とカトリック教会の頂点に立つローマ法王フランシスコは12日、キューバの首都ハバナで会談した。11世紀のキリスト教の東西分裂以来、ローマ法王と東方正教会で最大勢力のロシア正教会トップの会談は初めて。両者は共同宣言で、イスラム過激派が台頭する中東でのキリスト教徒の保護で結束すると強調。対立から融和へ歴史的な一歩を踏み出した。
会談はキリル総主教のキューバ訪問と法王のメキシコ訪問の合間を縫い、ハバナの国際空港で行われた。会談の冒頭で両者は互いのほおを重ねて抱擁。法王は「ようやくだ。我々は兄弟だ」と述べ、総主教は「これからは物事が容易になる」と応えた。
会談後に署名した共同宣言では「キリスト教徒がこれ以上追放されるのを防ぐため、国際社会は緊急に行動する必要がある」と指摘した。中東や北アフリカで「イスラム国」(IS)や「ボコ・ハラム」などのイスラム過激派組織が台頭。「キリスト教徒が殺害され、教会は残酷に破壊されて強奪されている」との危機感が会談の実現につながった。
キリスト教は教義の違いなどから互いを破門する形で1054年、ローマ・カトリック教会と東方正教会に分裂。現在のロシア正教会は各地の正教会の中でも信者の約3分の2を抱える最大勢力だが、カトリックがウクライナなど東欧で勢力を拡大することを警戒し、トップ会談は実現していなかった。
ローマ法王庁(バチカン)は1960年代に他の宗教や宗派との対話路線を打ち出し、2013年に選出された法王も積極的な外交活動を展開。法王は15年7月に実現した米国とキューバの国交回復に向けた交渉を仲介した経緯から、キューバのカストロ国家評議会議長にロシア正教会との対話に協力するよう求めたとされる。
ロシア正教会が会談に応じた背景には、ウクライナ問題やシリアでの空爆などに対する欧米からのロシアへの批判を緩和する狙いがあるとの見方もある。キリル総主教は歴代の総主教に比べプーチン大統領に近いことが知られており、大統領の働きかけが影響した可能性もある。
共同宣言の署名式にはキューバのカストロ議長も参列した。キューバは米国との国交回復に続き、今回の会談の舞台となっただけでなく、南米コロンビア内戦で政府とゲリラの和平交渉も仲介している。法王は「キューバが結束の中心地になる」と述べた。
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