産経ニュース

【衝撃事件の核心】女性消防士にプロレス技、期限切れ卵を口に… 子供じみたパワハラで後輩を退職寸前に追い込んだ57歳・消防副士長の“言動”

【衝撃事件の核心】女性消防士にプロレス技、期限切れ卵を口に… 子供じみたパワハラで後輩を退職寸前に追い込んだ57歳・消防副士長の“言動”

 人命救助に向けて結束が不可欠なはずの消防士の職場で、耳を疑うようなパワハラが常態化していた。東京消防庁は11月、後輩の消防士8人に賞味期限切れの温泉卵を無理やり口に押し込んだり、首を絞めるプロレス技を掛けて気絶寸前に追い込んだりしたとして、赤羽署の男性消防副士長(57)を停職6カ月の懲戒処分にした。周囲からは「面倒見のいい人」との評価もあり、“親分肌”の気質が行き過ぎた指導を招いてしまったようだ。

顔に粘着テープや包帯巻かれ写真撮影

 「退職したいんです」

 今年8月、赤羽署の20代の女性消防士が思い詰めた表情で上司に訴えた。上司が理由を尋ねると、4月以降、副士長から度重なるパワハラを受けていたことを明かしたという。

 同庁によると、女性消防士は副士長と同じ勤務班で、「目を閉じろ」などと命令されて、賞味期限切れの温泉卵を3回にわたり口に入れられたり、顔に粘着テープや包帯を巻き付けられた状態で写真を撮影されたりしていたという。

 だが、被害者は1人ではなかった。同庁が詳しく調査した結果、平成21年以降、女性消防士を含めた20~27歳の消防士ら計8人にパワハラを行っていたことが明らかになった。

「LINE消せ」と証拠隠滅を指示

 8人はいずれもパワハラを受けた当時、副士長と同じ勤務班で、プロレス技をかけられたり、火薬入りのおもちゃのピストルを口の中に入れられたりしていた。実際に背中や脇腹を撃たれた職員もいたという。業務上のミスなどパワハラのきっかけになるようなことはなかったが、突然、「給料泥棒」などと怒鳴られることもあった。

 副士長は署に同庁の調査が入ると、「(無料通信アプリの)『LINE』での自分とのやり取りを消せ」などと“証拠隠滅”を指示。頭から清涼飲料水をかけられ、「何も言うなよ」などと脅された男性消防士もいたという。 

「コミュニケーションの一環で悪ふざけが過ぎた」

 同庁によると、副士長は昭和53年に入庁し、平成18年から赤羽署に配属。普段の勤務態度に問題はなく、積極的に後輩の指導に当たっているという評価だった。一方で、自分になつかない後輩には目をかけないなど、自己中心的な一面もあったという。

 調査には「コミュニケーションの一環のつもりで、悪ふざけが過ぎてしまった」などと説明。「職を辞して責任を取る」として、懲戒処分が出た11月20日付で依願退職した。

 赤羽署の榎本暁署長は「職員による暴力行為は誠に遺憾で、信頼回復に向け、さらなる職員教育・指導の強化を図る」とコメントした。

 東京消防庁関係者は、ため息混じりにこうつぶやいた。「都民の命を守る消防士は都民の模範になるべき存在。パワハラだけで言語道断なのに、内容も悪質極まりない。再発防止に努めるほかない」

消防署でのパワハラは全国で…人命守る存在なのに

 全国の消防では今年に入り、同様のパワハラ事案が相次いでいる。

 長崎県佐世保市の中央消防署では2月、20代の男性消防士が約1年にわたり、上司から訓練中に殴られるなどのパワハラを受けた後、自殺していたことが分かり、市消防局は上司の50代の男性消防士長を停職1カ月の懲戒処分とした。

 同月には、石川県羽昨市の羽昨消防署の男性消防士(23)が後輩に体当たりや平手打ちなどを繰り返していたとして、戒告の懲戒処分に。福岡県飯塚市の飯塚地区消防本部は3月、職場で同僚に暴言を繰り返した40代の男性消防司令を停職1カ月とした。

 6月には、徳島県鳴門市消防本部が、部下を平手打ちするなどのパワハラを繰り返したとして、ともに鳴門市消防署の30代の男性消防士長2人を1カ月と3カ月の停職、監督責任者4人を戒告とするなど計12人を処分。消防士長2人は23年から25年、同じ班の部下8人に対し、勤務中に通信指令室で歌を歌わせようとしたり、深夜勤務時に仮眠室で頭をたたいたり、頬を平手打ちするなど断続的にパワハラをしたという。

 和歌山県で7月に起きたケースは、刑事事件に発展した。同県消防学校の学生寮で、初任科生の男性消防士(18)の右肩に熱したアイロンを押し当て、やけどを負わせたとして、傷害容疑で橋本市消防本部の消防士の男(21)が逮捕された。男は5月ごろから7月にかけて、男性消防士の体を殴ったり、太ももを蹴ったりするいじめ行為を繰り返していた。

 男は懲戒免職処分となったが、男のいじめ行為をあおったとして、県消防学校は入校中の橋本市消防本部の男性消防士(20)を謹慎3日の懲戒処分としたほか、18~22歳の男性消防士7人についても、いじめ行為や暴力行為を止めず、教職員に報告しなかったとして厳重注意処分とした。

 刑事事件となった和歌山を除き、いずれのケースも「厳しい指導」がエスカレートしてパワハラに発展したとみられる。人の命を救う厳しい現場だからこそ、上下関係や指導の厳しさは必要不可欠だが、消防士を自殺や退職に追い詰めるようなパワハラが相次ぐ現状を、消防当局は重く受け止める必要がある。

©2015 The Sankei Shimbun & SANKEI DIGITAL All rights reserved.