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 安倍政権の経済政策「アベノミクス」が大きな試練を迎えている。株高・円安をテコに企業の賃上げを実現し、デフレを脱却するという狙いに、金融市場の混乱が立ちはだかる。米国など世界経済の先行き不安の広がりに、日本銀行の金融緩和策も効果が薄く、世界的な政策協調による対応が頼みの綱になってきた。

 「マイナス金利政策が影響しているとは全く考えていない」。日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁は12日の衆院財務金融委員会で、この日の東京市場でも株安が進むなか、日銀の新政策との関係を否定する答弁に追われた。

 先月末に決めた新たな金融緩和策による株高・円安効果は、海外を主因とする市場の混乱ですでに帳消しになった。それでも黒田総裁は「(新政策の)効果は明瞭に出ている」と、世の中の金利水準が押し下げられて投資や消費が増える効果を強調。「直接に国民生活に大きなマイナスになるということは考えられない」などと言い切った。

 一方、米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は11日の米議会公聴会で、「世界経済や市場の動向は金融政策のスタンスに影響を与えうる」と、3月の会合を前に利上げのペースを遅らせる可能性を改めて示唆したが、市場の混乱は収まっていない。利上げを強行すれば米景気を冷やすが、見送ったとしても「それほど米景気が弱いのか」との市場の思惑を招く。みずほ総合研究所の高田創氏は「2008年のリーマン・ショックのような大きな企業破綻(はたん)はないだろう」としつつも、「世界経済を先導する国がなくなってしまった状態」と指摘する。

 東京都内の証券会社のディーラーはこぼす。「投資家は怖がって株に手が出せない。株安が止まる気配が見えず、車で言えば完全にスピード違反だ」(山下龍一、ワシントン=五十嵐大介)