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Business特集

“ぼっち家電”で変わるモノ作り

2月12日 13時50分

山田賢太郎記者

かつて「日本のお家芸」と言われた電機業界。しかし、「シャープ」にしても「東芝」にしても、どうにも元気がありません。その一方で、ベンチャー企業が家電を企画製造して、ネットなどで販売する動きが広がっています。必ずしも1人で作っているわけではありませんが、“ぼっち家電”とも言われています(「ぼっち」は「ひとりぼっち」から)。
中澤優子さん(31歳)が代表を務める「UPQ」(アップ・キュー)もその1つです。去年8月、1人でスマートフォンやスピーカー、アクションカメラなど24の製品を世に出しました。製品の企画から販売まで僅か2か月というスピードです。
今では家電量販店でも専用のコーナーが設けられています。なぜ、こうしたモノ作りができるのか。経済部の山田賢太郎記者が取材しました。

カフェ経営から再びモノづくりに

中澤さんは、大学卒業後、2007年に「カシオ計算機」に入社。携帯電話の企画や新製品のプロジェクトの責任者を5年間務めた後、退社しました。 その後、秋葉原でカフェをオープン。オーナーとして店頭に立つ毎日を過ごしていましたが、再びモノ作りの世界へと戻ることになりました。

Q:家電ベンチャーを立ち上げたきっかけは何ですか。

中澤:以前はメーカーで携帯電話を作っていました。5年の間に、すごくいい時代からどん底まで全部見てきました。会社が携帯電話事業から撤退したのは、私が辞めた翌年です。私は携帯電話が作りたくて会社に入ったので、会社にいる意味もなくなってしまいました。

様子を見ようと、いったんこの業界を離れて、秋葉原でカフェを始めることにしました。おととしになって、家電ベンチャーの代表と知り合いました。その人が「どうもこの人はモノが作りたそうだ」ということになって、去年の4月ごろからそのベンチャーのプロジェクトに携わるようになりました。

でも、やっぱりスマホが作りたい!携帯を作りたいのに作れなくて会社を辞めたので。多くの人が手に入る価格で、機能もなるべく削ってシンプルにして安く出したい。名もないブランドでもみんなが楽しめるものを出せれば食いついてくれるんじゃないかなと思って、6月から準備を始め、7月に自分で会社を興しました。

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企画に特化 2か月で24製品

立ち上げた会社の名前は「UPQ」。モノや暮らしの「Quality(質)」を「UP(上げる)」という意味が込められています。準備から僅か2か月で、24の製品を発表した中澤さん。それを可能にしたのは、モノ作りの仕組みが根本から変わったことです。

かつて日本の大手電機メーカーは製品の企画から生産までを下請けメーカーも活用しながら、一貫して手がける「垂直統合」モデルで、製品を市場に送り出しました。こうした「自前主義」は高コストとなるため、その後は、企画は自社で行い、開発から製造までは外注する「水平分業」モデルが主流となりました。

低価格で簡単に部品を購入し、組み立てを発注できるようになったのです。これまで大手しか作れなかったようなモノを1人で製造・販売することも可能になりました。中澤さんは、製品の企画は一手に行っていますが、開発から製造までは、外部の人材や企業に委託しています。

Q:モノ作りの垣根は低くなっているのでしょうか。

中澤:すべて1人でできるわけではありません。企画は私がやりますが、開発や工場には山ほど人がいます。ただ、簡単に試作品ができ、プレゼンして、資金を集めて、量産することができるという意味では、モノ作りの垣根は低くなっていると思います。
個人で作って売るというのは身近になっていると感じます。ちょっと前だったら名前が知られていないものだと、特に電化製品なんて買わないわけですよ。

でも今は、ベンチャーみたいな小さな規模でも、おもしろければ消費者は買います。またネットで簡単に買えるようにもなっている。売る場所が増えたから作りやすいというのはあると思います。

ただ、体力もそうだし根性もそうだし、スキルも必要なのでそんなに簡単ではありません。誰もやっていなかったということは、難しかったからだと思っています。私と同じスピード、レベルでやりくりしないとUPQみたいな企業は作れないと思っています。

既存メーカーに一矢報いる

中澤さんが、去年8月に発表した24の製品は、今までの家電にはないような青緑色が基調の統一感のあるデザインとなっています。
スマートフォンのほかには、ガラス製の透明なキーボードやモニターの液晶画面が一体型のアクションカメラ、USBで充電できるアウトドア用の懐中電灯、スマートフォンやカメラの充電ができる小型バッテリーを内蔵したスーツケースなどがあります。

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Q:どんなところで製品の企画を考えているんですか?

中澤:カフェでパンケーキを作りながらだったり、歩きながら、寝ながら。必死になって考えるというのはないですね。「考えなければ」と思えば思うほど、世の中に出ているようなアイデアしか出てこないので。また、書き留めなければならないようなアイデアはアイデアではありません。作りたかったら覚えているし、忘れてしまうなら作らないほうがよいと思っています。

Q:今、東芝やシャープといった大手のメーカーは元気がありませんが、どうしたら魅力的な製品を生み出すことができると思いますか。

中澤:変なしがらみが多すぎて動きが鈍いというのはあるかもしれませんが、メーカーの新規事業部のほうが予算がつくので、メーカーではチャレンジできないということはないと思います。
ただ、大手の人と話をしていて思うのは、「大企業で守るべきコンセプトってある?」と聞くと、「うちは安全安心」とか言い出します。それでは新しいものが出ない。それは当たり前の部分であってプラスアルファが大事です。既存のブランドにとらわれすぎて、会社の名前にとらわれすぎて一歩前に出ない。どこの会社にいても変なことをやってもよいのだと思います。

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Q:今後、どういうブランドに育てたいですか?

中澤:UPQではスマートフォンを作りたいというところからスタートしましたが、既存の電化製品へのカテゴリーにも一矢報いたいということで作り上げたブランドでもあります。 なので、どこでも手に取れる商品にするつもりはなくて、ネットで話題になっているけれども売り切れていて、でもいくつかの家電量販店には置いてあって触れるというような感じで、ユーザーをワクワクした状態にさせてあげられるようなブランドにしたいと思っています。

取材を終えて

中澤さんを再び、モノ作りの世界へと引き戻したのは、生産の仕組みや資金調達の手段が多様化し、個人レベルでモノを作り、販売する動きが一般的になってきたことでした。彼女の製品は、生活必需品と言うよりは、いわば「電子雑貨」のようなもので、家電のカテゴリーは広がっています。
いかにユーザーが手に取る製品を作れるかは、知恵の出し方しだいだと思います。大手メーカーからなかなかヒット商品が出ないだけに、中澤さんのような家電ベンチャーのスピードやアイデアにヒントがあるかもしれないと感じました。

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