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<長崎原爆の日>「平和への誓い」被爆者人選、突然の変更

毎日新聞 2月13日(土)8時30分配信

 長崎原爆の日(8月9日)の平和祈念式典で、自らの被爆体験を踏まえて「平和への誓い」を読み上げる被爆者代表の人選を巡り、長崎市と被爆者団体の溝が深まっている。市はこれまで被爆者5団体に推薦を依頼していたが、今年から外部委員会による選考に変更することにし、19日開会の2月議会に関連条例案などを提出する予定だ。これに対し、45年間代表者を出してきた団体側は「誓いの中で、政府批判が続いたことが影響しているのでは」と疑念を隠さない。

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 市が団体代表者に変更を打診したのは昨年12月下旬。5団体による持ち回り推薦を見直し、市や5団体からの推薦、公募などで候補者リストを作成し、有識者らによる「選定審査会」が選ぶ方法に改める、という内容だ。変更理由として被爆者の高齢化を挙げ、5団体に所属しない被爆者にも「門戸を広げたい」と説明した。

 2月議会での関連議案提出という急な動きに、団体側は「時間をかけて話し合うべきで、突然変更するのは不自然だ」と反発し、今月1日には田上富久市長に変更拒否を申し入れた。田上市長は被爆70年を「一区切り」とし、「今後10年を見据えた変更なので理解してほしい」と求めたが、議論は平行線に終わった。

 「平和への誓い」を巡っては、昨年の代表者だった長崎原爆被災者協議会(被災協)会長の谷口稜曄(すみてる)さん(87)が、安倍晋三首相も式典に参列する中、当時国会で審議中だった安全保障関連法に強く反対の意思を表明。2014年は集団的自衛権の行使容認、13年は核拡散防止条約(NPT)再検討会議の準備委員会で核兵器の不使用を訴える共同声明に日本政府が賛同しなかったことを、各年の代表者が厳しく批判した。

 そうした中での人選変更について、5団体側は「外部から市への圧力があったか、政府など批判を嫌がる側の思いを市が忖度(そんたく)したかのどちらかでは」と疑う。田上市長は「圧力は一切ない」と否定するが、保守系のある市議は毎日新聞の取材に「公然と政府批判をしておきながら、国に予算をくださいと言うのは無理な話。(政府側は)内心面白くは思わないだろう」と言う。

 昨年は、田上市長が読み上げた平和宣言文の起草委員に、集団的自衛権の行使容認などに批判的な意見を示していた識者が選ばれなかった。この識者は前年まで15年間委員を務めており、被爆者らでつくる市民団体が抗議した。県平和運動センター被爆者連絡協議会の川野浩一議長(76)は今回の変更についても「同じ流れだと感じる」と話す。

 5団体は来週にも変更に対する抗議声明を出し、選定審査会にも協力しない方針。被災協理事の田中重光さん(75)は「誓いは、被爆体験を話すだけでなく、二度と被爆者をつくらないため戦争への動きに『ノー』を突きつけるべきだ。式典が形骸化しないか心配だ」と語る。【大平明日香】

 ◇広島は「こども代表」

 広島原爆の日(8月6日)にある平和記念式典では、長崎のように被爆者代表が読み上げるものはない。広島市長の「平和宣言」のほか、広島市内の小学生2人の「こども代表」が「平和への誓い」を読み上げる。

 市長の平和宣言については、松井一実市長が2011年に就任してからは、被爆者や有識者で構成する懇談会で内容を議論したうえで、座長を務める市長が文案を作成する仕組みになっている。昨年の懇談会では安保関連法に関する議論はなく、平和宣言では直接言及されなかった。【加藤小夜】

 【ことば】平和への誓い

 長崎市長が読み上げる「平和宣言文」とは別に、被爆者代表が自らの被爆体験を語り、核兵器廃絶や世界平和を訴える。1970年から被爆者3団体(2006年から5団体)が持ち回りで代表を推薦してきた。広島市の平和記念式典では毎年、市内の小学生2人が誓いを読み上げている。

最終更新:2月13日(土)9時22分

毎日新聞