文/伊勢﨑 賢治
PKOに対する日本人の体感のズレ
刷り込み、というのは恐ろしい。
連日、メディアの取材を受けているが、ほとんどの記者が、何のためらいもない。
「自衛隊が送られるのはPKO(国連平和維持"活動")で、PKF(国連平和維持"軍")ではないんですから…云々」と。
保守系メディアではなく、リベラル系のが、である。
PKO(国連平和維持"活動")は、例えばある国で内戦がおこり、このまま放っておけない、国連としてみんなで何とかしなきゃ、ということで、安保理が全国連加盟国に参加を呼びかけ、その内戦に介入する活動の総称である。
国連というのはUnited Nations ("連合国")。第二次大戦の戦勝5大国(米露中英仏)が安保理常任理事国になり、日独伊のような不埒な侵略者を二度と出さないように、加盟国全ての「武力の行使」を統制しようとするシステムである。
一加盟国の国民を脅かす侵略者が現れたら安保理の号令の下、そいつを全員で叩きのめす。これが「集団安全保障」という考え方だ。
でも、「内戦」は一加盟国内の内輪揉めである。つまり、国民の安全を脅かすのは侵略者じゃなくて、その国内の反乱勢力。でも、放っておけない。どうするか? ここで編み出されたのがPKOである。
国連憲章で軍事介入を規定するのは第七章の「強制措置」しかない。これは当事者の同意なくできる措置。つまり国連としての最終手段である。「内輪揉め」にこれを使うのは、ちょっと無理がある。なぜなら、内政不干渉の原則があるからだ。
もし、国連に加盟したら干渉するもんね、ということだったら、国連創生期に加盟国を増やすことは困難だったろうし、そもそもチベット問題のように安保理常任理事国だって脛(すね)に傷をもっている。
だから、内戦には、強制措置としての軍事介入ではなく、その内戦当事者の同意の上での軍事介入しかない。というわけで、PKOは、同意をベースとする平和的介入手段を謳う第六章との間をとって、苦し紛れに"六章半"と言われる。
同意があろうがなかろうがPKOは軍事介入である。だから、Peace-Keeping ‘Operation’。「作戦」なんである。
もし国連として一加盟国の内輪揉めに入り込んで(それも武装して)、もし、その武力を使う羽目になったら、それも、使う相手がその政府だったら……。つまり、国連が、侵略者でもない一加盟国と戦争する羽目になったら……。でも、介入しなければならない。そのギリギリの選択がPKOという軍事作戦である。
でも、日本ではこれを"活動"と訳した。なぜか。9条の国の自衛隊が参加するのが軍事作戦じゃ、困るからである。
PKOに対する、歴代政府によって恣意的に作られた日本人の体感のズレは、まず、ここから始まる。
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