朝鮮半島の緊張が高まっている。北朝鮮は、核・ミサイル問題をめぐる韓国の独自制裁に対し、「対決と戦争に追い込む宣戦布告だ」と反発している。

 経済協力の象徴だった開城工業団地を「軍事統制区域」だと宣告し、軍部隊を配置する可能性を示唆している。南北間を結ぶ直通電話も通じなくした。

 緊張を高めた末に、譲歩を引き出そうとする「瀬戸際戦術」に新味はない。そんな常套(じょうとう)手段は問題の解決につながらない。北朝鮮は行動パターンの愚かさを早く悟るべきである。

 一方、最近では新たな動きとしてむしろ目立つのは、韓国政府の反応の方だ。朴槿恵(パククネ)大統領はじめ韓国政府高官からは、いささか穏当さを欠く言動が相次いでいる。

 朴大統領は1月の核実験のあと、北朝鮮に対し「核保有か、生存か」の選択を迫るような発言をして、さらなる緊張を生んだ。

 加えて韓国国防省はきのう、北朝鮮からの攻撃に備えて、すでに韓国軍の態勢を万全に整えていると強調した。ソウル近郊では早速、戦車などを使った最大級の訓練に踏み切った。

 地域の平和と安定を乱す北朝鮮の暴挙に対し、一定の行動で対処するのは当然だ。日米と足並みをそろえ、核・軍事技術関係者や経済を対象に制裁を科すことは政治的に有効だろう。

 しかし、北朝鮮の「生存」を否定するかのような発言を繰り返せば、挑発にみすみす乗って緊張を高め、北朝鮮の術中にはまるだけだ。

 韓国と北朝鮮は「国と国との関係」ではない。四半世紀近く前に発効した南北基本合意書にあるように「統一を志向する過程で暫定的に形成されている特殊な関係」である。

 その経緯を踏まえたうえで、朴政権は発足以来、新たな政策である「韓(朝鮮)半島信頼プロセス」を掲げ、南北の信頼づくりを唱えてきた。

 その流れと異なる最近の強硬発言は、制裁に慎重な中国向けのアピールという側面もあるかもしれないが、過激になれば説得力は逆に薄まる。

 歴代の韓国の政権も、北朝鮮の戦術には悩まされてきた。だが、ともに南北首脳会談を実現させた金大中(キムデジュン)、盧武鉉(ノムヒョン)の両政権は、抑えた厳しさと柔軟さを賢明に使い分けることで、関係進展の道を開いた。

 冷静さを保ちつつ、特殊な関係をふまえて北朝鮮を対話の席につかせる。そんな韓国のつらく長い取りくみを、日米両国も積極的に支えたい。