内気だったり人見知りだったり、理由や事情は人それぞれ。しかしいずれにしても、「人に話しかける」のが苦手だという人は決して少なくないはず。
とはいえ社会人として日常的に他者と接している以上、話しかけることを避けて生きるのは不可能だともいえます。
ところが、決してそうではないというユニークな角度から話を進めているのは、『話しかけなくていい! 会話術』(木村隆志著、CCCメディアハウス)の著者。
コミュニケーションに関するさまざまな相談を受けている「人間関係コンサルタント」だそうですが、ここでは「無言」か「ひとこと」のみで会話を盛り上げ、「相手から好かれる」テクニックを明かしているのです。
■「話す自信がない」のは仕方ない
自分から話しかけられない人は、「うまく話す自信がない」「嫌な顔をされたくない」と口を揃えるようにいうもの。しかし、それは仕方がないことなのだと著者はいいます。
なぜなら、そもそもほとんどの人は「自分から話しかけるよりも、相手から話しかけられたい」「そのほうが気楽だし、うれしい」と思っているから。
いまは簡単な手続きや安価で希望が叶いやすく、多くの人がそれに慣れてしまっている時代。
だから同じように人間関係においても、「話しかけられるのを待つだけ」という受け身のスタンスをとる人が増えているというのです。
だとすれば、「話しかけられやすい人」になりさえすれば多くのことを解決できるということになります。
では、そのためにはどうしたらいいのでしょうか?
■話しかけられ上手は「5S」上手
著者は、“話しかけられるのが上手な人”には5つの特徴があるのだと考えているそうです。
それによると、人が思わず話しかけたくなるのは、スマイル(smile=笑顔)、サイト(sight=視線)、サイン(sign=合図)、サルート(salute=会釈)、スキンシップ(skinship=接触)がある人。
なぜならこれら“5つのS”がある人には威圧感がなく、そればかりか相手に対して親近感を与えることができるかた。
つまり、必然的に話しかけられる機会が増えるというわけです。
ここで注目すべきは、“5つのS”はいずれも「声を発しない」ノンバーバル(非言語)コミュニケーションであり、会話に苦手意識がある人も問題なくできるものであるという点。
裏を返せば、「声を発しないところで、自分の印象が上がったり下がったりしている」ということだというわけです。
実際、アメリカの心理学者、アルバート・メラビアンの実験結果によれば、「人の印象が形成されるのは、話の内容(言語情報)が7%、声の質やテンポ(聴覚情報)が38%、見た目(視覚情報)が55%」なのだとか。
つまりはそれほど、話すこと以上に目から入る情報が重要だということです。
もし“5つのS”のなかで欠けているものがあったとしても、それはスキルがないということでも、できないということでもなく、「ただやっていない」だけ。だからこそ、ぜひ実践してみてほしいと著者は提案しています。
■赤ちゃんに声をかけたくなる理由
たとえば人は赤ちゃんを見ると、つい声をかけたくなるもの。それも、この“5つのS”を感じるからなのだといいます。
赤ちゃんのニコニコ笑い、無垢な目でじっと見つめ、顔や手足をバタバタさせる仕草は合図や会釈に近いもの。また、手を出すとつかんでくれます。
つまり、本来ならこれくらい無防備なほうが、人間同士のコミュニケーションは活性化しやすいものだというのです。
だから“5つのS”を上手に使える人は、どんな人にも好印象を与えることが可能になるということ。
そしてなかでも特に効果が大きいのは、恋愛面なのだそうです。
「好き」という直接的な言葉よりも、笑顔を見せ、視線を送り、手を振るなどの合図を出し、ていねいな会釈や自然な接触ができるほうが、チャンスは広がっていくというわけです。
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こうした基本的な考え方を軸として、本書では以後もさまざまな角度から「話しかけさせる」ためのテクニックを明かしています。
表情のつくり方はもちろんのこと、話しかけられやすいファッションなども紹介されているだけに、「なるほど!」と思えることがたくさん。
コミュニケーションの仕方で悩んでいる人には、きっと役立つことでしょう。
(文/書評家・印南敦史)
【参考】
※木村隆志(2015)『話しかけなくていい! 会話術』CCCメディアハウス