ムンバイの国内線空港に行けば、米アップルがインドに特別な愛情を注いでいることが誰にもわかろうというものだ。手荷物受取所からの通路に「iPhone 6s」のスタイリッシュな大広告が掲げられている。出口を出てすぐのスペースにもまた大広告がある。
■製品価格の高さがネックに
インドは発展度が低く市場として小さすぎるとアップルが考えていたのは、もう昔の話だ。
中国での販売減速をめぐる懸念に直面しているアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は、1月の投資家に対する収支報告の際にインドでの事業計画を「信じられないほどエキサイティング」だと表現した。明らかに興奮した口ぶりだった。
「我々はインドにますますエネルギーを注いでいる」とクック氏は言い、先の四半期に売上高が38%も増加した要因として人口構成の若さと経済の急成長を指摘した。
インドのスマートフォン(スマホ)市場は急拡大しているが、12億人の国民のうちスマホ利用者は2億5000万人で、まだ大きな伸びしろがある。第4世代(4G)の高速モバイルインターネットも徐々に広がりつつある。アップルは直営店の開設準備も進めている。さらに重要なのは、インドのスマホ利用者の大半がまだ基本的な廉価モデルを使っており、iPhoneはまだほんの一部を占めるにすぎないという点だ。つまり、いずれ多くのユーザーが機種変更することが見込まれる。
となると、アップルの次の成長はインドにあると思いたくなる。気持ちはわかるが、そう思うのは間違いだ。
まず数字を見てみよう。アップルは2015年10~12月期、インドに過去最高となる80万台のiPhoneを出荷した。調査団体のコンバージェンス・カタリストによると、17年には販売台数が500万台に達する可能性がある。かなりの増加ではあるのだが、先の四半期だけで7500万台を販売した会社にとっては、四捨五入による誤差とほとんど変わらないような程度の増加でしかない。
アップルは国別のiPhone販売台数を公表していないが、輸入統計データから7500万台のうちの約2400万台が中国で販売されたと考えられる。これは、中国でのごくわずかな販売減がインドに見込まれる販売増をかき消してしまうことを意味している。
インドと中国には重要な違いがある。インド経済は中国経済と比べて規模がかなり小さく、都市化も進んでいない。モバイル通信インフラのエリアカバー率も低い。アップルは激しい競争の中にあるインドで拡大を目指している。特に手ごわいのが自国市場での減速に懸念を強める小米(シャオミ)などの中国勢だ。
また、直営店にふさわしい場所を見つけ出し、開設に必要な手続きを官僚主義の中で終えることも簡単ではない。
アップルがインドで直面している最も厄介なジレンマは、それに比べてはるかに単純だ。すなわち価格である。この問題は、インドネシアなど他の潜在的な有望市場にも共通する。
インドにおけるスマホの平均価格は約120ドルで、中国での平均価格のほぼ半分にすぎない。通信事業者は利用者の端末購入を補助しないため、ムンバイの空港の広告に出ているiPhoneの入門機種でも価格は700ドルを超える。
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