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2016-02-12

[]漢字と「ことばの正しさ」と国語教育についてちょっとだけ

 下記の記事について、文字・表記はあまり専門ではないので(いつもの言い訳)誰かが詳しい説明を書いてくれたらいいなと思っていたのですが、やはり少し気になったので少しだけ書いておきます。理念的なお話が主です。

違和感と正しさ

 正確なところは文化庁から詳細な情報が出てみないと分かりませんが、

学校のテストなどでは、指導した字形以外の字形であっても、柔軟に評価するよう求めている。

はねても、とめても正解…漢字の細かい違い許容 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

ということがはっきり示されているのは(それが本当なら)、非常によいことだと思います*1

 以前、

言語学や日本語学の授業では必ず規範の話をすることにしている。その中の1つに、ことばの規範や「正しさ」というのは自動的にことばの方で決まっていることはなくて、(どこかで)誰かが決めているという話があるのだが、その「誰か」には国やメディアや専門家の他に「みんな」も入る。

三点リーダーの話とことばの規範性 - dlitの殴り書き

と書きました。これは文字・表記についても同じで、資料を調べていくと「ど(ちら)の使い方・書き方・表記法でも良い」となっているものに対して、どちらか一方でないとダメと思われている例はけっこう多いです。その一端を担っているのが教育だというのは、当たり前のように感じる人もいるかもしれませんが、実は怖い話だと思います。

 まだそれほど主張として固まっているわけではないのですが、私自身は「ことばに関する規範性は、人がある程度集まると自然に求め(られ)てしまう傾向があるので、寛容である方向に意識しておく方が生きやすい社会になるのではないか」と考えています。いやいやことばについては厳しい方がいいだろと思う人は、ことばの使い方について厳しさを求めることが必然である場面、ケースがどれぐらいあるか考えてみて下さい。評価方法の話など、実はその他のことで代替できるものではないでしょうか。

 自身が厳しく“躾け”られ、教育され、評価され、その評価によって人生に影響があったと感じている人にとって、その対象になったものが実はどっちでもよいと言われるのが嫌だという感覚はわかります。ですが、(もしこの方針がうまく反映されれば)次の世代が理不尽なことで評価されたりそれによって人生が左右されることがなくなる(かもしれない)ということを喜ぶわけにはいかないのでしょうか。

 あと、ついででよいので、違和感と「正しさ」は即つながるものでもないということも合わせて考えてもらえれば。

私は動詞「まなざす」への違和感、気持ち悪さそのものを否定しているのではないということです。(中略)ある語・表現が嫌いなら「嫌い」と言う・表明することもおかしなことではありません。しかし、「嫌い」「気持ち悪い」から「日本語としておかしい」「日本語ではない」と言ってしまうのは、ずいぶんな飛躍に感じます。

動詞「まなざす」は“日本語として”おかしいか - 思索の海

国語教育との関連

 国語教育の方でこれからこの指針がどのように受け止められそうなのか、という話は国語教育の専門家に任せるとして、ここでは次の本から重要な引用を一つ紹介して終わりにしたいと思います。国語教育以外にも面白い・重要な話が簡潔に紹介されていますので、日本語研究だけでなく、広く日本語にまつわる問題について興味のある方にはおすすめです。

 一方で、国語教育のような教育の世界では、学ぶべき内容として、さしあたっての「正解」が求められます。授業でいきなり「答えはないので自分で考えましょう」といっても混乱するだけなので、学習者にとって一番参考になるような、規範としての「正解」を示すわけです。

 しかし、残念ながら、本来は「混乱しないように、一つの指針として示す」ための「正解」が、絶対的に「正しい」答えとして流通してしまうことがあります。例えば、「漢字の書き順はこれが正しい」「国語辞典に載っていない使い方は正しくない」「擬音語はカタカナで書かなければならない」といった主張です。日本語は本来的に多様な姿をしているものなのに、「これが正しい」という暗記タイプの学習をしてしまうと、自分が覚えた答えから外れるものに出会ったとき、寛容な態度を取れなくなりやすいのかもしれません。

(茂木俊伸 (2015)「母語話者に教える」定延利之(編)『私たちの日本語研究ー問題のありかと研究のあり方ー』p.63、強調はdlit)

*1:漢字をはじめとした表記に関する他の様々な問題はまた別に考える必要があるとしても。

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