いま欧州系銀行の株価をみると、ドイツ銀行だけじゃなく、下がっているところが多いです。
ドイツ銀行はココ債(CoCo)で自己資本をお手軽に増強した「原罪(original sin)」を背負っているので、今後もその冤罪のための苦悩は続くと考えています。
今日はその話ではなくて、普通、このようにメガバンクが傷を負った場合、誰がそれを癒し、健康回復するまで面倒を見るか? という、いわば金融界のナイチンゲールの話です。
私事で恐縮ですが、僕がこのナイチンゲールにはじめて逢ったのは、今から25年ほど前です。当時、アメリカの銀行は南米に対する貸し込みが焦げ付いたのと、クレジットカード・ローンの焦げ付きの増加で、自己資本を増強する必要に駆られていました。
そこで当時は圧倒的に世界最大のメガバンクだったシティコープはPERCS(Preferred Equity Redemption Cumulative Stock)という優先株を発行しました。キャピタルゲイン機会が少ない代わりに、たっぷりと配当がもらえる(=たしか8.25%と記憶しています)仕組みになった株です。
これを……世界のどこかの投資家に買って貰わねばならない、、、もしそれが失敗すれば、シティコープの経営がグラつく……
まあ、そういう状況だったわけです。
それで僕は駆け出しの銀行株のアナリスト、トミー・ファッチオラ君と二人でPictureTelに登場し、某シンガポールのソブリン・ウエルス・ファンド(SWF)とテレカンファレンスし、PERCSをハメ込んだ、、、
(その後、トミーはリーマン・ブラザーズに転職し、ファニー・メイなどの、いわゆるエージェンシーのNo.1アナリストに出世します)
僕が言いたい事は、その昔から、金融株で「なにか起こったとき」、頼りになる「最後の買い手」はSWFだったということです。
下は世界のソブリン・ウエルス・ファンドのうちトップ10を示したグラフです。

このうち黄色が石油や天然ガスで豊かになった国です。これに対して中国やシンガポールは輸出で豊かになりました。
ひとくちにソブリン・ウエルス・ファンドといっても、いろいろな種類があります。それらは……

です。
安定化基金は為替や原油価格などの変動のショックを吸収するのが目的です。
市況の変化に応じてすぐに対応できるようにするため、普通、流動性の高い債券に投資しています。
彼らは、普段から投資リスクを取りません。
日頃から常に安全弁としての調整機能を果たしているので、今回のオイルマネーの売りのような相場の材料とはみなされていません。資金量は比較的小さいです。
次に貯蓄基金は石油で得た富を他のセクターや人々に移転することが目的です。具体例ではアブダビ、リビアなどがこれに相当します。
ハイリスク・ハイリターンを目指すため、株式の保有比率が高いです。資金量は多いです。オイルマネーと言った場合、主にこれを話題にしています。

いま日本株などに怒涛の売りが来ているのは、おもにこの貯蓄基金の売りです。
貯蓄基金は「どの国の株式や国債を買うか?」を決定する際、基本的には輸入元の国の通貨とマッチングします。なぜなら長期での輸入購買力を維持するためです。
次に年金準備基金はオーストラリア、アイルランド、ニュージーランドなどです。年金は遠い将来の支払い義務を全うする事を主目的とするため、長期投資が主体で、ドタバタしません。資金量は比較的小さいです。
次に外貨準備投資基金は輸出主導型経済の国が設立するSWFで、シンガポールのGICならびにテマセック、中国のCICなどを指します。
彼らは外貨準備の負のキャリーコストを少しでも挽回する目的で投資します。ポートフォリオは貯蓄基金型に似ています。資金量は多いです。

外貨準備投資基金は石油で豊かになったのではありません。だから最近のように原油価格が下落してもその影響は受けません。
しかし現在の中国のように外貨準備がどんどん減り始めると、ポートフォリオの運営にはプレッシャーがかかっていると想像できます。
ソブリン・ウエルス・ファンドはその国の政治と独立している場合もありますが、そうでない場合もあります。独立している例としてはシンガポールのGICが挙げられます。独立していない例としてはSAMAやCICが挙げられると思います。
独立していない場合、おうおうにしてSWFは国の政策を実現するための道具として駆り出されます。SAMAの場合、財政赤字の穴埋めに利用されています。東京マーケットでサウジの売りが話題になったのは、これでした。
この他、SWFをプロシクリカリティーのバッファーとして使用することが考えられます。プロシクリカリティーとは乱暴に言えば経済が「貧すれば鈍する」状態になることを指します。
一例としてギリシャ危機では2009年に政府の赤字が実際は報告されているより巨額だということが暴露されました。そのときギリシャ国債の信用は失墜したので政府は慌てて財政を引き締め、投資家からの信頼を取り戻す必要が生じました。でも財政を切詰めると公共工事なども止めないといけないので、それは不況をまねきます。
プロ・シクリカルとは、このように景気下降サイクルを余計に酷くしてしまうような効果を指す言葉なのです。
その場合、SWFが財政出動することで、不足を補うことが出来ます。同様にSWFによっては為替変動のバッファーとして使用されているものもあります。
つまり何が言いたいか? と言えば、産油国のSWFも、外貨準備投資基金型のSWFも、いまはお家の事情が忙しく、ドイツ銀をはじめとする「問題児」をベイルアウトしている暇はないということです。
われわれ投資銀行界の人間にとって、SWFは時としてありがたい「ゴミ箱」の役目を果たしてきてくれました。PERCSやCoCo債みたいな残飯を引き受けてくれる存在です。
いま負傷して戦場に横たわっているドイツ銀クンは、ナイチンゲールたちの優しさを思い出している局面だと思うのです。でもSWFの多くは今、「火の車」で、ドイツ銀を助けるどころじゃないと思うのです。
たしかにココ債の問題なんて、たいした問題じゃありません。でもIBの人間なら、SWFの不在はセイフティー・ネットを取り払った状態で綱渡りをしなければいけないことを意味することを、ひしひしと感じているはず。
ドイツ銀行はココ債(CoCo)で自己資本をお手軽に増強した「原罪(original sin)」を背負っているので、今後もその冤罪のための苦悩は続くと考えています。
今日はその話ではなくて、普通、このようにメガバンクが傷を負った場合、誰がそれを癒し、健康回復するまで面倒を見るか? という、いわば金融界のナイチンゲールの話です。
私事で恐縮ですが、僕がこのナイチンゲールにはじめて逢ったのは、今から25年ほど前です。当時、アメリカの銀行は南米に対する貸し込みが焦げ付いたのと、クレジットカード・ローンの焦げ付きの増加で、自己資本を増強する必要に駆られていました。
そこで当時は圧倒的に世界最大のメガバンクだったシティコープはPERCS(Preferred Equity Redemption Cumulative Stock)という優先株を発行しました。キャピタルゲイン機会が少ない代わりに、たっぷりと配当がもらえる(=たしか8.25%と記憶しています)仕組みになった株です。
これを……世界のどこかの投資家に買って貰わねばならない、、、もしそれが失敗すれば、シティコープの経営がグラつく……
まあ、そういう状況だったわけです。
それで僕は駆け出しの銀行株のアナリスト、トミー・ファッチオラ君と二人でPictureTelに登場し、某シンガポールのソブリン・ウエルス・ファンド(SWF)とテレカンファレンスし、PERCSをハメ込んだ、、、
(その後、トミーはリーマン・ブラザーズに転職し、ファニー・メイなどの、いわゆるエージェンシーのNo.1アナリストに出世します)
僕が言いたい事は、その昔から、金融株で「なにか起こったとき」、頼りになる「最後の買い手」はSWFだったということです。
下は世界のソブリン・ウエルス・ファンドのうちトップ10を示したグラフです。
このうち黄色が石油や天然ガスで豊かになった国です。これに対して中国やシンガポールは輸出で豊かになりました。
ひとくちにソブリン・ウエルス・ファンドといっても、いろいろな種類があります。それらは……
です。
安定化基金は為替や原油価格などの変動のショックを吸収するのが目的です。
市況の変化に応じてすぐに対応できるようにするため、普通、流動性の高い債券に投資しています。
彼らは、普段から投資リスクを取りません。
日頃から常に安全弁としての調整機能を果たしているので、今回のオイルマネーの売りのような相場の材料とはみなされていません。資金量は比較的小さいです。
次に貯蓄基金は石油で得た富を他のセクターや人々に移転することが目的です。具体例ではアブダビ、リビアなどがこれに相当します。
ハイリスク・ハイリターンを目指すため、株式の保有比率が高いです。資金量は多いです。オイルマネーと言った場合、主にこれを話題にしています。
いま日本株などに怒涛の売りが来ているのは、おもにこの貯蓄基金の売りです。
貯蓄基金は「どの国の株式や国債を買うか?」を決定する際、基本的には輸入元の国の通貨とマッチングします。なぜなら長期での輸入購買力を維持するためです。
次に年金準備基金はオーストラリア、アイルランド、ニュージーランドなどです。年金は遠い将来の支払い義務を全うする事を主目的とするため、長期投資が主体で、ドタバタしません。資金量は比較的小さいです。
次に外貨準備投資基金は輸出主導型経済の国が設立するSWFで、シンガポールのGICならびにテマセック、中国のCICなどを指します。
彼らは外貨準備の負のキャリーコストを少しでも挽回する目的で投資します。ポートフォリオは貯蓄基金型に似ています。資金量は多いです。
外貨準備投資基金は石油で豊かになったのではありません。だから最近のように原油価格が下落してもその影響は受けません。
しかし現在の中国のように外貨準備がどんどん減り始めると、ポートフォリオの運営にはプレッシャーがかかっていると想像できます。
ソブリン・ウエルス・ファンドはその国の政治と独立している場合もありますが、そうでない場合もあります。独立している例としてはシンガポールのGICが挙げられます。独立していない例としてはSAMAやCICが挙げられると思います。
独立していない場合、おうおうにしてSWFは国の政策を実現するための道具として駆り出されます。SAMAの場合、財政赤字の穴埋めに利用されています。東京マーケットでサウジの売りが話題になったのは、これでした。
この他、SWFをプロシクリカリティーのバッファーとして使用することが考えられます。プロシクリカリティーとは乱暴に言えば経済が「貧すれば鈍する」状態になることを指します。
一例としてギリシャ危機では2009年に政府の赤字が実際は報告されているより巨額だということが暴露されました。そのときギリシャ国債の信用は失墜したので政府は慌てて財政を引き締め、投資家からの信頼を取り戻す必要が生じました。でも財政を切詰めると公共工事なども止めないといけないので、それは不況をまねきます。
プロ・シクリカルとは、このように景気下降サイクルを余計に酷くしてしまうような効果を指す言葉なのです。
その場合、SWFが財政出動することで、不足を補うことが出来ます。同様にSWFによっては為替変動のバッファーとして使用されているものもあります。
つまり何が言いたいか? と言えば、産油国のSWFも、外貨準備投資基金型のSWFも、いまはお家の事情が忙しく、ドイツ銀をはじめとする「問題児」をベイルアウトしている暇はないということです。
われわれ投資銀行界の人間にとって、SWFは時としてありがたい「ゴミ箱」の役目を果たしてきてくれました。PERCSやCoCo債みたいな残飯を引き受けてくれる存在です。
いま負傷して戦場に横たわっているドイツ銀クンは、ナイチンゲールたちの優しさを思い出している局面だと思うのです。でもSWFの多くは今、「火の車」で、ドイツ銀を助けるどころじゃないと思うのです。
たしかにココ債の問題なんて、たいした問題じゃありません。でもIBの人間なら、SWFの不在はセイフティー・ネットを取り払った状態で綱渡りをしなければいけないことを意味することを、ひしひしと感じているはず。