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【首都圏】

生き抜いて短歌で伝え セーラー服の歌人・鳥居さん、不登校経験など語る

定時制高校で短歌の魅力について話す歌人の鳥居さん=横浜市の神奈川県立希望ケ丘高校で

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 親の自殺など、自らの過酷な境遇を歌に詠み込んでいる歌人の鳥居さんが一月下旬、横浜市の神奈川県立希望ケ丘高校定時制で「出前授業」をした。三年の生徒二十三人に短歌の魅力や不登校になった過去を語り、同様の経験を持つ生徒たちを励ました。 (岩岡千景)

 鳥居さんは母子家庭だった小学五年の時に母が目の前で自殺。その後、児童養護施設で暮らしたが、いじめや虐待に遭って不登校に。その後もホームレスになるなど過酷な半生を送ってきた。

 定時制高校には、いじめや不登校などつらい経験をしてきた子が多い。同校では、舟知敦教諭(53)が「鳥居さんがひどい経験を重ねてもなお生きて、義務教育を学び直す機会などを求め声を上げている姿を知ってほしい」と昨春、鳥居さんの半生や短歌を紹介した本紙夕刊文化面連載「鳥居〜セーラー服の歌人」を授業に採用。三年の現代文二クラスの授業で読ませたところ、生徒が引きつけられ「生き抜いていることがすごい」「共感した」など、さまざまな感想が出たという。ネットを通じた舟知教諭からの報告で、そのことを知った鳥居さんが「生徒さんに会ってみたい」と話し、今回の出前授業が実現した。

 授業で鳥居さんはまず、その日食べた物を「美味(おい)しそうに百四十文字以内で書く」ことで生徒たちに「表現」を体感させ、それから自作の短歌「長靴をどろんこにして帰る道いくつも空の波紋をまたぐ」を紹介。水たまりの波に映った空を「空の波紋と表現した」ことなどを説明した。

 さらに寺山修司の短歌「海を知らぬ少女の前に麦藁(むぎわら)帽のわれは両手を広げていたり」を挙げて「女の子はなんで海を知らないのでしょうか」などと質問。想像する楽しさや、一首の中に無限の世界が広がる短歌の面白さについて語った。

 最後に、親と友達を自殺で亡くし、自らも不登校だった過去を語り「(残された者が)悲しいので自殺だけはやめて。短歌はお薦めだが、アニメやゲームでもいい。つらいことがあっても何か自分の好きなことをして、生きてほしい」と呼びかけた。生徒たちは静かに耳を傾け、授業後、生徒の一人は「不登校や親の自殺が自分や友達の経験と似ていて、話をひとごとではなく感じた」「短歌には普段言えない深いことも書けるのかなと思った」と話した。「自殺しないでほしいっていう思いはすごく伝わった」という生徒もいた。

 

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