▲内部構造がわかる、ケースを外した状態の本体も展示されました
レノボ・ジャパンが2月9日から発売したThinkPad X1シリーズ。それぞれに人気の出そうな3モデルにあって、とくに新規性が高いモデルが『ThinkPad X1 Tablet』。12インチ、縦横比3:2の2160×1440解像度液晶とインテルの第六世代(Skylake)Core mを搭載する、高性能Windowsタブレットです。
ThinkPadのフラッグシップとなるX1シリーズ、さらに完全新規設計モデルということもあり、力の入った製品のため、ThinkPadシリーズを通しての新技術も多数導入されています。ここでは、それらを説明するべく、レノボ・ジャパンが開催した技術説明会で語られた特徴を紹介します。
なお、ThinkPad X1 Tabletの基本的な特徴などは、下記の発表時記事を参照ください。
モジュール合体式Core mタブ『ThinkPad X1 Tablet』日本版は18万8000円から、キーボード付きで1.07kg
まずは最大の特徴である拡張モジュール合体式デザインなどを絡めて、「画期的なデバイスで自在な使い方を」という製品コンセプトを紹介。
続いて基本的な特徴として、ThinkPadとしては初の仕様となる縦横比3:2の液晶パネルや本体のみ(タブレット)時では厚さ8.45mm/767gという薄さと軽さ、そして2048段階の筆圧検知レベルに対応したThinkPad Pen Proへの対応を述べます。
さらにUSB PD(Power Delivery)仕様に対応したタイプC端子の45W ACアダプタといった先進的仕様の導入、指紋認証(オプション)やセキュリティーキーホール(いわゆるケンジントンロック)といった、企業向けとして重要な仕様も盛り込んでいる点を紹介。
ただしこのスライドにあるLTE(SIMフリー)通信機能は、残念ながら企業向けカスタムモデルのみで、個人向けとしては販売予定なしとのコメントもありました。
合わせて同時発表された「プロダクティビティ」「プレゼンター」「3Dイメージング」という3種のモジュールについて紹介。これらの拡張性により、「(一般的な)PCを超えた幅広い使い方が可能」になる点をアピールしています。
さらに本体下側から開く構造のキックスタンドについて紹介。同時に発表されたIdeaPad Miix 700やSurface Proとは異なり、本体中央ではなく下側から開く理由について、本体底面へのモジュールの装着時/非装着時に関わらず柔軟な角度調整が可能な点、そして天面側を手前に倒して置くことでペン入力に適した「スタイラスモード」が使える点が理由、と解き明かしました。
続いては、X1 Tabletの製品ビジョン(目標)についてアピール。従来モデルに共通する「ThinkPadとしての品質や、ビジネスプロフェッショナルに向けた製品である点」を継承しながら、「ThinkPad史上もっとも最適化されたビジネスツールであり、もっとも拡張性を秘めたデザイン、そしてもっとも斬新なユーザー体験をもたらすモデルである」点を紹介。
合わせて(ハードウェア設計の)デザインチャレンジとして、新設計の本体であるため、将来的な拡張性を見据えた新たなコンセプトデザインを確立する点や、ファンレスながら高いシステムパフォーマンス(処理性能)を発揮することが目標、とアピール。
とくに拡張性には力が注がれており、ThinkPadとしては初のUSB タイプCコネクタの採用や、後日登場するカスタマイズモデルで選択可能なWiGig(802.11ad)の採用などを前面に押しだしました。
WiGigは最大10mと短距離ながら最大7Gbpsのデータ転送が可能なワイヤレス通信規格。本機ではその速度を活かして、DisplayPortやHDMI、有線LAN、USB 3.0×3基+2.0 2基といった高速な端子をワイヤレスで使えるドッキングステーションを用意します。
また本体側のアンテナ配置も、様々なテストにより、置き方にかかわらず安定した通信が行える位置を探りだして搭載した点を合わせて紹介しています。
ここからは、より詳細な技術について踏み込みます。モジュールの合体機構に10kg重の力でロックするフックが使われている点や、ThinkPad名物の耐久力試験テスト『トーチャーテスト』を合体時にも同条件で実施している点(もちろんパスしています)、さらにスタンドの開閉なども他機種の液晶面蓋と同様のテストを行なっている点をアピールしました。
▲マザーボードのCore m(CPU)搭載部周辺。やや左、中央付近にある灰色の板が熱伝導シート、その底にあるのがベーパーチャンバーです
そしてとくに技術的難度が高かったのが、TDP(発熱と消費電力の目安)が低いCore mとはいえ、ファンレスで動作させる点。そのため、同じくCore mファンレスだった第二世代ThinkPad Helixで採用された熱拡散ユニット『ベーパーチャンバー』をさらに強化。内部を三層構造にした点などで、薄型化をしながら冷却効率向上が実現できた点を打ち出しています。
さらに他のX1シリーズやT460s、X260などで採用した新冷却ファームウェア『インテリジェントクーリング』も搭載。ただし、他のモデルでは膝上時やカバンの中では冷却を優先する設定が中心ですが、本機は机上+キーボード装着時などではCPU側のTDPを規定よりアップし、より速度を上げる設定となっています。
次にUSB PDによりACアダプタ兼用タイプとなったUSB タイプC端子について解説。端子にはDisplayPortの信号も含まれているために、DisplayPort端子として使うのみならず今後のデバイスへの対応度も考慮している点などを強調。
さらに「USB PDに関するファームウェアはアップグレード可能にしている。これは市場に機器が少ないため、まだ仕様が成熟しておらず、またスペック上で曖昧な点も多い。アップグレード可能なため、もし問題が発生してもある程度はファームウェア側で対応できる」という、興味深く、また頼もしい発言も。
そして、もう一つ解説に熱が入っていた(そして参加者からの注目が高かった)のがキーボード。厚さ約5.2mm、重量298gでありながらスティック型ポインティングデバイス『TrackPoint』を搭載し、さらにキーの底付き感なども減少すべくデザインしたと紹介。
この目標を達成するべく、薄型ながら押し込み感のしっかりとしたラバードームを設計するため20種類以上の試作を重ねた点や、ベースプレートに穴を開けてパンタフラフ(キーを支える機構)の底打ちを防ぐ『ソフトランディングデザイン』を導入した点を解説。
▲キーボード部の厚みは全体としてもこの程度です
さらにTrackPoint薄型化のため、ベースプレートに基板を取り付け、高剛性化しつつ高さを下げる構造を導入。加えて薄くなると感度が鈍くなる(テコの原理で圧力を感知するため、より強い力が必要となる)デメリットを防ぐため、キャップの構造やファームウェアのチューニングで違和感の少ない操作感覚を実現した点などを紹介しました。
そしてまとめとして、X1 Tabletはこれらの新技術の開発・導入により、難しかったデザインチャレンジを高いレベルでクリアできたと結論づけました。
▲マザーボードを取り外した状態。右上にあるのが開発ポイントの一つであるUSB タイプCコネクタ
実際にX1 Tabletに触れてみると、こうした点の中でも、相反する仕様へのバランスの良さやThinkPadシリーズに共通する本体剛性、そしてキーボードの操作性の良さは、短時間でも実感できるもの。一見するとSurface Pro対抗モデルにも見える設計ながら、その実それだけに留まらず、ThinkPadのフラッグシップシリーズとして重要な点は確実に引き継がれているモデルである......と実感できる、非常にアツい解説でした。