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これまでの放送

No.3551
2014年9月16日(火)放送
復興コンパクトシティ
~被災地が描く未来のまち~

津波で住宅が流された被災地の沿岸部。
そこから内陸に2km。
今、新たなまちづくりが進められています。
自宅を失った人などが移り住むこの町。
学校やスーパーなど、さまざまな機能を集約した「コンパクトシティ」です。
震災から3年半。
深刻な人口流出にあえぐ被災地が、存続を懸けてまちづくりを進めています。

被災自治体 町長
「自治体機能の維持が困難となり、存続の危機に陥る。」

被災地の苦渋の選択。
全国の自治体から注目を集めています。

「人口減少がありますから、参考にさせていただけたら。」

被災自治体 町長
「人口が減少することが、いま現実としてあらわれているし、1つの答えになるような町をこの復興を通じてつくりあげていかないとならない。」

復興を懸けた被災地の取り組み。
これからのまちづくりを考えます。

復興コンパクトシティ 人口減少を食い止めろ

仙台市から車で1時間。
宮城県山元町です。
震災の津波で町の面積の3分の1が被害を受けました。
震災前に比べ、人口は20%以上減少。
一刻も早くそれを食い止めようと、まちづくりを急いでいます。
津波で自宅を流された、嶋田博美さんです。
今も町を離れて避難生活をしています。

嶋田博美さん
「ここが私の自宅だったんです。」




震災前に暮らしていた海沿いの笠野地区では、ほとんどの住宅が流されました。
嶋田さんは去年(2013年)地区の住民34世帯の意見をまとめ、津波の心配がない高台に集団で移転しようとしました。


嶋田博美さん
「絆が強いので、そういうものを大事に守っていければいい。」




嶋田さんは移転にかかる費用などを支援してほしいと町に求めましたが、認められませんでした。
町が進める計画に合わない要望だったからです。

震災前の山元町の映像です。
沿岸部には特産品のイチゴのハウス。
周辺に住宅が点在していました。



このエリアは再び津波のおそれがあるため、町は震災の年の11月に住宅の再建を制限しました。
人口流出が進む中、町の規模を縮小せざるをえないと移転先を内陸の3か所に限定したのです。


このうちの1つ、縦1km、横400mのエリアに550の住宅を整備します。
駅を中心に歩いて10分圏内には商業施設、小学校保育所などの子育て施設をそろえます。
このエリアに移転してくる人には補助金を出すなど優遇する一方で、嶋田さんのようにそれ以外の土地に移転する人には自己負担を求めました。

宮城 山元町 齋藤俊夫町長
「3つの市街地という方向性、これをなし崩しにしたのでは、山元町の置かれた状況を見据えた町づくりはとてもとても無理があるなと。」


町がコンパクトシティを選んだもう1つの理由。
それは厳しい財政事情です。

山元町 職員
「こちらは山元町の町内全域の配管を示した(水道の)配管図になります。」

町じゅうに張り巡らされた水道。
人口が減る中、維持費が大きな負担となっており、震災前と同じ規模で維持し続ける事は難しくなったのです。

山元町 職員
「震災前と比べれば、コンパクトシティ化することで効率的な水道経営ができるものと考えている。」



コンパクトシティの完成を期待している岩佐公子さんです。
仮設住宅からスーパーや病院までは5kmほど離れているため、車を持っていない岩佐さんはタクシーを使わざるをえません。
1か月の交通費は多い時で2万円に上ります。


岩佐公子さん
「うれしいです。
そこで買い物できたら最高ですよね、遠くに行かなくたっていいから。
私たちみたいな年金暮らしは、あまりお金つかいたくないし。」

人口流出を食い止めるためのコンパクトシティ。
ところが今、思わぬ事態が起きています。
移転を希望する人が想定の3分の2にとどまっているのです。

町の特産品、イチゴ栽培を手がける渡辺成寿さんです。
新しい町は今年(2014年)5月に再建したハウスから4km離れています。
町はそこから車で通うよう求めていますが、渡辺さんは天候の急な変化にも対応するためこの近くで暮らしたいと考えています。

渡辺成寿さん
「いざという時にもすぐに駆けつけられる。
やっぱり、ほ場から自宅が近いというのは何事があっても便利なのかな。」


渡辺さんは新しい町には移らず、イチゴハウスの近くに自力で再建する事を選びました。
しかし道路をつくるのに町から補助は出ず、自分で整備しなければなりません。

渡辺成寿さん
「いくらくらいかかる?
道路だけで。」

工事業者
「1,000万円ちょっと。」

住民の合意を得る難しさを抱える山元町。
1年半後の完成を目指し、コンパクトシティの建設を急ピッチで進めています。

宮城 山元町 齋藤俊夫町長
「無為無策であれば、予定している時期よりも早い人口減少と、地域からは活力やにぎわいが消えうせてしまう心配が出てくる。」

コンパクトシティ まちづくりの難しさ
ゲスト姥浦道生さん(東北大学准教授)

●住民の意見を聞き、その声を反映させる難しさ どう感じている?

被災者の方々もご意見は1つではなくて、さまざまな背景やご意見を持っていらっしゃるわけですね。
ただ作らなければならない計画というのは1つですので、そこにどうまとめていくのかというところが非常に難しいですね。
我々がやっぱりつくらないといけないのは、長期的に見て、数十年後に「あの時大変な震災があったけれどもこういう復興をしたんだ」という、長いスパンで見ていいまちづくりだったなと言えるようなものをつくれるかどうかがポイントで、その意味ではその第一歩である今の住民の方のご意見も非常に重要ですし、それから長期的に見てどうなるのかという客観的な視点も必要ですし、その辺りのバランスをどうとるのか。
ですから今の住民の方のご意見をまとめる事も重要ですし、長期的な観点も重要という事で、さまざまな観点を含めなければならないというところが難しいところです。

●自治体が抱える大きなジレンマ

住民の方の意見を聞きながらゆっくり丁寧にというのが本来のまちづくりの在り方なんですけれども、被災地の復興ではやはり一日も早くという声が非常に強いです。
特に被災直後はその声が非常に強かったですね。
ですから行政の方も一日でも早くつくるという事で、なかなか住民の意向を丁寧に聞くというプロセスが難しかったですし、それからそのプロセスを経ようとすればするほど、どんどん住民の人たちの意向が時間によって変わってきますので、その辺りを丁寧に押さえる必要が出てくるわけです。
特にその住民の方々が、今まで現地で再建しようと思っていた方々が、時間がたつにつれなかなかそれが難しいという事が分かってきたりだとか、ちょっと思うような計画ではなかったという事もあって、別の所で再建しようと思われる方も出てきているわけでして…。
そのような方々のご意見を含めようとするとまた時間がかかってしまうという事で、どんどん悪循環に陥る可能性もあるわけでして、その辺りをどこで見極めてどこでつくるのかが非常に難しいところですね。

●計画に乗らず自己負担が大きい人は、耳を傾けてほしいと思うのでは?

行政の側からするとコンパクトの町をつくりたいと。
これは、行政の支出をどれだけ減らすのかという観点から非常に重要な観点です。
行政の支出を減らすという事は、これは将来的な住民がメリットを受けるという事ですので、住民にとっても非常に大きな事ですね。
そういう事がある一方で、コンパクトな町、そこに全てつくればいいのかというとそうではなくて、さまざまな産業を維持するという事も当然重要なわけです。
産業というのはこれは支出を減らすという意味ではなくて、むしろ自治体の収入を増やすという意味で非常に重要で、コンパクトなまちづくりというのはどうしてコンパクトなまちづくりをするかといいますと、住民の人たちが幸せに暮らせる、長期的に幸せに暮らせる町をつくるわけでして、その意味では産業をちゃんと再生させるという事も非常に重要なわけですね。
ですからその辺りのバランスをどうやってとっていくのかという事が非常に重要で、ある程度コンパクトな町をつくるために濃淡をつけざるをえないと。
自治体をこちらにはかなり補助はするけれども、こちらに補助はちょっと少ないですよというのは、やはりしかたのない事だと思うんですけれども、それを産業という観点から、もう少し別の観点から、そこでの生活の質を保っていくために行政ができる事もいろいろあるでしょうし、それから住民の側から自分たちでできる事もいろいろあると思いますので、その辺りをどうバランスをとっていくのかという事が今後の課題かと思います。

復興コンパクトシティ 住民参加のまちづくり

中心部の大半が津波に襲われた宮城県女川町。
ここでもコンパクトなまちづくりが進められています。
町の中心となる駅の周りに役場病院学校更に商業施設を集めます。
その周辺に1,000戸余りの住宅を造る予定です。

女川町は、まちづくりに住民の意向を積極的に取り入れようとしています。
特に重視しているのが、将来の町を担う若い世代にとってどれだけ魅力ある町をつくれるかという事です。

女性
「歩道がないんだよね。」

女性
「歩くのさえ怖い。
ベビーカー押せないもん。」

女性
「やっぱり、あって欲しいのは公園ですよね。
親も安心して(子どもを)出してあげられる。」

澤田洋美さん
「自分の子どもが過ごす町なので、やっぱり自分たちが住みやすい町になるように自分たちの意見を取り入れてもらえることは、すごくありがたい。」


女川町は、住民の意見をまちづくりに取り込む独自の仕組みを作っています。
まちづくりの会議には町長や全ての課長だけでなく、住民も参加します。
町は住民から出た意見を採用するかどうかの結論を先送りにせず、その場で判断します。
更に工事業者も同席しています。
住民の意見をどう実現できるか、技術的な課題もその場で検討します。
住民参加を形だけにせず、主体的に考えてもらおうとしているのです。

女川町 復興推進課 我妻賢一課長
「住み続けていただけるかどうかというのは、やっぱり自分たちの力でつくったとか、意見を出して自分の町をつくったんだよって思うのか、行政がつくったのかでは、全然違うと思うんですよね。」

コンパクトシティをつくるにあたり学校の統合を提案したのも、子どもを持つ親たちでした。
震災前町には3つの小学校と2つの中学校がありましたが、それぞれを1つにまとめようと町に働きかけたのです。


後藤茂夫さんです。
後藤さんをはじめ住民の多くが、当初、学校の統合には反対でした。

後藤茂夫さん
「やはり学校がなくなるっていうことは子どもがいなくなることだから、(地域の)将来の不安を感じるわけですよね。
やはりお年寄りの皆さんがね。」

その後、後藤さんたちは全ての学校の保護者と定期的に集まり、話し合いを続けました。
そして、町全体の将来を考えると統合せざるをえないと町に提案したのです。

後藤茂夫さん
「やはり人数減少に伴って、町民がバラバラな気持ちとか考えでいたのでは、やはり復興につながらないと思うんですよね。
学校統合は復興の第一歩だと思っているんです。」


町は、学校の運営についても後藤さんたちと話し合いを続けています。
小規模でも充実した教育を受けられる小中一貫校をつくる事を検討しています。

後藤茂夫さん
「すばらしい学校教育があれば、(女川を)出ていった親御さんなんかも、もう一回女川に戻ってというような考えを持っていただくためにも、より充実した教育を受けられるように切に願っています。」

しかしさまざまな住民の意見に耳を傾ける事は手間も時間もかかり、時には復興の遅れにもつながりかねません。

町の中心を流れる女川。
川を管理する宮城県は2年前、津波防災のため河口から上流まで護岸をコンクリートで固める計画を示しました。
これに対し住民からは、上流では子どもが水遊びできるようにしてほしいと意見が出されました。
町はこの意見を取り入れようとしていますが、設計の変更に時間がかかり、工事が始まるめどは立っていません。
女川町の人口減少率は30%に達し、被災地で最も高くなっています。
住民の意見を取り入れ、時間をかけてでも町民が残りたい町をつくる事ができるのか。
難しい課題を抱えながら、女川町のまちづくりが続いています。

宮城 女川町 須田善明町長
「新しい町づくりですから、いろんな思い、皆さん持っていると思うんですね。
ひとつでも多く形にしていく。
いまは苦労するかもしれないけど、将来それが町にとって良いものになる。
財政的なものも含めて(良いものに)なるのであれば、そこは手間暇かけてでもやるべきだ。」

どう作る? コンパクトシティ

●学校統合に反対だった保護者みずから統合を提案した、この変化をどう見る?

住民の側も行政に任せていられないという部分があったのかもしれませんし、それだけ被災によってせっぱ詰まってきている状況もあるのかと思いますけれども。
いずれにせよ当事者意識というものを非常にお持ちになって…それで、自分たちの問題だと。
どうしようという事を積極的に提案するという形になってきたと。
ですから単純に「反対反対」とか「何をつくって下さい」という話ではなくて、行政にお願いするというだけではなくて、自分たちの問題としてそれを捉えて、自分たちの問題として解決していこうというこの部分は、非常に積極的な動きとして評価できるのではないかというふうに思います。

●まちづくりは行政だけではできない?

そうですね。
今までのまちづくりというのは、どちらかというと行政が何か箱物を造ると。
それは出来た段階で住民が初めて見るという事もしばしばあったわけですけれども、そうではなくて住民と行政が早い段階でタイアップしながら信頼関係をつくっていくと。
それで一歩ずつちゃんとお互いに情報交換をしながら共通の認識を持ちながら進んでいくというところがまちづくりでは非常に重要ですし…。
そもそもまちづくりというのは、やっぱり行政に任せていてうまくいったまちづくりというのはないわけでして、やはり住民の側がどれだけ自分たちの問題だというふうに捉えてこのまちづくりを行っていくのかと。
これは被災地でも当然重要な問題ですし、それから今後のほかの日本の全体でも同じ問題かと思います。

●丁寧な聞き取りも大事?

そうですね。
行政の側が待っていて、それで住民の側から言って下さいというのではなくて、行政の側からは住民の側に話を聞きに行くと。
それから住民の側も行政の側に話を聞きに行くと。
お互いがそういうやり取りをするという事が非常に重要でして、お互いが壁をつくっていては、うまいまちづくりはできないという事ですね。

●本当の意味の住民参加とは?

非常に難しいところですけれども、単純に意見を聞いて、それで話を聞きましたのでおしまいというのではなくて、やはり早い段階から住民と行政が一体となる。
単純に参加するのではなくて一緒につくっていくという、そういう実質的な参加というものをしていくという事が非常に重要だと思います。

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