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製品開発ストーリー #19:ローランド JC-01 〜 ボスの社長と開発者に訊く、JAZZ CHORUSデザインのBluetoothスピーカーはいかにして誕生したか 〜

by ICON / 2016.02.11 20:00

先月のNAMM Showでお披露目され、大きな話題を呼んだ新製品、ローランド「JC-01」がいよいよ明日(12日)発売になります。「JC-01」は、ギター・アンプの名機、JAZZ CHORUSのデザインを採用したリスニング用スピーカー。スマートフォンやパソコンなどをBluetoothで接続し、JAZZ CHORUSらしい高精細かつクリアなサウンドで音楽を楽しむことができるアンプ内蔵スピーカーです。横幅約19cmの超小型サイズなので、机の上や棚などにちょこんと置くことができ、リチウム・イオン電池内蔵により、電源が無い場所でも使用することができます。その他、3バンド・イコライザーやBluetooth/ライン入力のミックス機能など、多くのフィーチャーを備える「JC-01」ですが、一番の特徴は何と言ってもそのルックスでしょう。JAZZ CHORUSをデフォルメしたデザインはとても可愛らしく、ギタリストならずとも物欲をそそります。

そこでICONでは、メーカーの担当者にインタビュー。その開発コンセプトや回路設計について、じっくり話を伺ってみることにしました。取材に応じていただいたのは、ボス株式会社代表取締役社長の池上嘉宏氏と、同じくボス株式会社アンプ開発部担当課長の山手弘氏のお二人です(ローランド・ブランドで発売される「JC-01」ですが、開発を手がけたのはボスとのことです)。ちなみに「JC-01」、現在Amazonのスタジオ・モニター・カテゴリーで1位になるほど注文が殺到しているようなので、欲しい方は急いだ方がいいかもしれません。

Roland - JC-01

楽器好きの人って、それに関わるものを身近に置いておきたい。それだったら机の上に置いておけるBluetoothスピーカーがいいなと

——— 発表直後からネットを中心に話題になっている「JC-01」ですが、まずはJAZZ CHORUSデザインのBluetoothスピーカーを作ろうと思ったきっかけからおしえてください。

池上 2013年からローランドとボスは、“ブランドの再構築”ということを強く意識して製品開発を行っています。例えばBlues Cubeは、“ギター・アンプ・メーカーとしてのローランド”を改めて定義しようと開発した製品で、お陰様でお客様からはかなり良い評価を得ることができました。昨年はJAZZ CHORUS 40周年を記念したJC-40という製品も発売し、Blues CubeJAZZ CHORUSという両輪で、ギター・アンプ・メーカーとしてのブランド・イメージもかなり上がってきたのではないかと思います。

一方で楽器とは異なる新しいタイプの商品、例えばガジェットのようなものにも前々から興味はあったんですが、ブランディングがしっかりしていないときにそういうものに手を出してしまうと、メインの楽器までガジェットっぽく見られてしまう。しかし今お話ししたようなここ数年の取り組みで、ブランドの再構築はある程度できた感じがするので、そろそろ新しいタイプの製品にチャレンジしてもいいんじゃないかと。それが去年の頭くらいの話ですね。

Roland JC-120

ギター・アンプの名機、JAZZ CHORUS(写真はJC-120)。そのクリーンでソリッドなサウンドは、数々の名演を生み出した

——— ひとくちに楽器以外の商品と言っても、いろいろなアイディアがあったと思うのですが、Bluetoothスピーカーに行き着いたのは?

池上 楽器好きの人って、何かそれに関わるものを身近に置いておきたいという感覚がありますよね。例えばギター好きの人ですと、ポケットの中にピックを忍ばせておいて、仕事中なんとなく触ったりとか(笑)。それでリスニング用スピーカーだったら、自宅のリビングはもちろん、会社のデスクにも置いておけますし、いいんじゃないかなと思いました。JAZZ CHORUSのデザインにしたのは、昨年40周年を迎えた我々のアイコンと言ってもいい製品ですからね。ギターを弾く人ならパッと見てJAZZ CHORUSと分かりますし、リスニング用スピーカーをやるのであればこのデザインがいいなと思ったんです。

——— JAZZ CHORUSはローランドのアイコンという話がありましたが、そもそもあのソリッドな筐体はどのようなコンセプトでデザインされたものなのでしょうか。

池上 私が入社する前の話になるんですが(笑)、“頑丈なギター・アンプ”というのがデザイン的にもコンセプトだったようです。トランクとか千両箱のような感じで、コーナーを鋲で止めていますが、これが見た目的なアクセントにもなっている。実はJAZZ CHORUSって、デザイン的にもよく考えられているんですよ。例えば前面のネットの上下には、シャイン・トリムという銀色のバーが付いていますが、それを外してしまうと締まらない見た目になってしまう(笑)。デザインは社内のデザイナーが手がけたみたいなんですが、かなり時間をかけて細かいところを詰めていったようです。

——— JAZZ CHORUSデザインのBluetoothスピーカーを作ろうということになり、大きさに関してはどのように決めていったのですか?

山手 机の上に置ける大きさというアイディアは最初にあったので、目立ちすぎないというか主張しすぎないサイズ感にしようと思いました。机やテーブルの上で鳴らして、ほどよい音量を出せる大きさというか。

池上 それとギター・アンプを感じさせる最低限の高さ。もっと高くすると、よりギター・アンプっぽくなるのですが、机の上にマッチしなくなる。その辺りのバランスにはこだわりましたね。

山手 サイズ感やデザインのバランスを確認するため、紙でモックのパターンをいくつも製作してどれが良いかとかなり試行錯誤しました。

——— 縦横比は、JCシリーズのどのモデルに近いのでしょうか?

池上 少し横長になっています。JC-120を縦横同じ比率で縮めてしまうと、小さくなり過ぎてしまうので、JAZZ CHORUSっぽさを残しつつ横長なデザインにしました。それとパネルのツマミなどはかなりデフォルメされた感じになっています。

山手 ツマミの直径と奥行きもかなり悩みましたね。操作しやすく、なおかつチープな印象がないように。“R”マークのバッジも、最初の試作時はもっと厚みがあったのですが、ちょっと野暮ったく見えたので少し薄くしたりとか。本当にデザインにはこだわっています。

——— 筐体の材質は?

山手 本物は木の上にレザーを張っているんですが、今回はABS樹脂を採用しました。

——— 表面の仕上げの質感がすごくいいですね。ABS樹脂には見えないです。

山手 そこもこだわった部分です。表面の仕上げは部分部分で変えていますね。

Roland JC-01

豊かな低域を得るため、カスタム設計したパッシブ・ラジエーターを搭載した

——— アンプ内蔵のスピーカーと言っても、楽器用とリスニング用では内部の設計はかなり違ってくるのではないかと思います。「JC-01」のアンプやスピーカーは、リスニング用にゼロから開発したものなのでしょうか?

山手 すべて「JC-01」用に新たに開発したものですが、とはいえJAZZ CHORUSなどのアンプ製品で培ってきた技術は継承しています。楽器用アンプで培ってきた技術をリスニング用にモデファイして搭載したというか。

池上 実は過去にリスニング用スピーカーを開発した経験はありましたし、PA用のスピーカーやベース・アンプなどはリスニング用ではないのですが、フラット・アンプという点では似ている要素があるんです。

——— 「JC-01」で狙ったサウンドというと?

池上 オーディオ的な観点で優れたスピーカーというのは、既に市場にはたくさんあると思うんです。そこで普通に勝負するのはおもしろくないと思ったので、我々は楽器メーカーだからこそできることをやろうと。具体的にはデザインだけでなく、サウンド的にもJAZZ CHORUSをイメージしていただけるようなチューニングを施しました。

——— JAZZ CHORUSというと、クリーンでソリッドなサウンドが特徴なわけですが、それは「JC-01」にもしっかり受け継がれていると。

山手 はい。例えば中高域の伸びときらびやかさは、みなさんが持っているJAZZ CHORUSのイメージを上手く踏襲できたのではないかと思っています。

池上 あとはオーディオ用スピーカーとは違う、もっと元気な音に仕上がってますね。

——— 設計でこだわった部分は?

山手 アナログ回路の設計と、「JC-01」のためにカスタムで製作したスピーカー・ユニットですね。3バンド・イコライザーもこだわりのアナログ回路で組んでありますし、スピーカー・ユニットに関しては何度も試作を繰り返して、チューニングにも時間をかけました。スピーカー・ユニットは5cmのものを2発搭載しているんですが、やはりこのサイズですと低域が少々もの足りなかったんです。普通だったらそこで2.1chを考えたりするんですが、チャンネル数を増やすともう1基パワー・アンプを搭載しなければならない。しかし「JC-01」はバッテリー駆動に対応した製品ですし、なるべく長時間使用できるようにしたかったので、いろいろと検討した結果、今回は背面にカスタムで製作したパッシブ・ラジエーターを搭載することにしました。パッシブ・ラジエーターというのはボイス・コイルを持たない物理的な振動子なんですが、これによりサイズ以上に低域が出るようになっています。やはり、いくらJAZZ CHORUSをイメージさせるサウンドと言っても、現代の音楽を再生したときにもの足りない感じがしてしまうようではダメですからね。そこのバランスはかなり苦心したところです。

Roland JC-01

背面に取り付けられたパッシブ・ラジエーター。サイズからは想像できない豊かな低音を生み出す

——— 先ほど音を聴かせてもらったんですが、見た目からは想像できない豊かな低域に驚きました。それでいて高域もしっかり伸びていますし、音楽が楽しく聴こえるスピーカーだなという印象です。

山手 パッシブ・ラジエーターやエンクロージャーの構造の調整には相当時間をかけましたね。それから、カスタムで作り上げたスピーカー・ユニットとパッシブ・ラジエーターの性能をしっかり発揮できるように、ゴム足の素材・大きさ・取り付け位置には、かなりこだわりました。

——— アンプの出力はどれくらいあるんですか?

山手 これくらいの部屋(註:取材は16畳くらいの部屋で行われました)であれば十分に鳴らせるパワーになっていると思います。

すぐに操作できる3バンド・イコライザーによって、好きな音楽を自分好みのサウンドで聴くことができる

——— リスニング用スピーカーなのにも関わらず、本物のギター・アンプのような3バンド・イコライザーを搭載したのは?

山手 やはり3バンド・イコライザーというのはJAZZ CHORUSの大きな特徴ですし、それに音楽を自分好みのサウンドで聴くためにも、あったら絶対に便利な機能だと思い搭載しました。

池上 オーディオを設計される方からすると邪道な機能だと思うんですけどね(笑)。けれども楽器を演奏される方や音楽を制作する方たちって、自分で音を作りこみたいという気持ちが強いと思うんですよ。原音忠実というよりも、自分好みのサウンドで聴きたいのではないでしょうか。

——— リスニング用スピーカーの中にも、ボタンで高域と低域を調整できるものはありますが、実際は面倒でほとんど触らなかったりします。しかしこうやってツマミで表に出ていると、ちょこっと高域を持ち上げたりするのも簡単なので、思わず調整してしまいますね。

山手 そうですね。3バンド・イコライザーの周波数とQは出音を聴きながら何度も調整しました。Qに関しては、MIDDLEをなだらかにしてしまうとTREBLEとBASSに引っかかってしまうので、本当に絶妙なカーブになっています。イコライザーの調整は、開発の最後の最後までやっていましたね。

——— サウンドはJAZZ CHORUSを踏襲していて、本格的な3バンド・イコライザーまで搭載している。ここまできたらギター入力が備わっていてもおかしくないと思うのですが、そういうアイディアはありませんでしたか?

池上 もちろんありました。でもこのサイズですと、ギター・アンプとしてはやっぱり限界があるんです。我々が納得できるサウンドにはどうやっても辿り着けない。しかしギター入力を付けてしまったら、メーカーとしてそのサウンドに言い訳することはできません。そんな中途半端なものだったら、最初から無い方がいいのではないかという判断ですね。やはりギター・アンプとリスニング用スピーカーを両立させるのって難しいんですよ。でも、ギターを接続することを否定するものではありません。マルチ・エフェクターなどを接続して鳴らしていただければ、それなりの雰囲気でギター演奏を楽しんでいただけると思います。

山手 「JC-01」は、Bluetoothで受信した音とライン入力(註:ステレオ・ミニのライン入力端子を装備)の音がミックスされる仕様になっているんですよ。ですからスマートフォンなどでバッキングを再生しながらギター演奏を楽しむこともできます。

——— 何か隠れた便利機能などはありますか?

山手 実はこの製品、ハンズフリー通話にも対応しているんです。例えば、スマートフォンとペアリングして音楽を聴いているときに着信があると、音楽は自動的に一時停止して着信音がスピーカーから鳴り、電話マークのスイッチを押すことでそのままハンズフリーで会話できる。音楽を楽しんでいるときに電話の着信に気づかないことってよくあると思うんですが、その点「JC-01」なら安心です(笑)。通話が終わったら、電話マークのスイッチを押すことで、再び音楽を再生することができます。

Roland JC-01

結局、我々自身が欲しいと思えるものを作らないと、お客様も欲しいと思わない

——— 開発にあたって苦労した点というと?

山手 やっぱりデザインですね。JAZZ CHORUSというのは、我々が40年以上かけて築き上げてきたブランドでありアイコンですから、それを汚すようなことがあってはならないと。誰が見てもJAZZ CHORUSで、なおかつデスクトップ・スピーカーとしてちょうどいいデザインにするのに本当に苦労しました。

——— 現在市場にはたくさんのBluetoothスピーカーが出回っているわけですが、「JC-01」のセールス・ポイントは?

山手 JAZZ CHORUSを継承した元気のあるサウンドに加えて、3バンド・イコライザーが備わっている点でしょうか。これによって自分の好きな音楽を、自分好みのサウンドで聴くことができます。ツマミが表に出ているので、ギター・アンプのような感じで直感的に操作できる。もちろん、このルックスもセールス・ポイントです。

——— 今後、バリエーション・モデルが登場する可能性は?

池上 これがうまくいけばバリエーション・モデルという話も出てくると思うんですが、我々としては初めて取り組む分野の製品なので、まずは「JC-01」のユニークさをしっかり伝えていきたいですね。

——— 海外の楽器メーカー、例えばMarshallなどはブランド力を生かしてリスニング用スピーカーだけでなく、ヘッドフォンやスマートフォンといった商品も販売しています。ローランドとボスもそういったメーカーに負けないくらいブランド力がありますし、JAZZ CHORUSのようなアイコニックな製品をたくさん持っている。リスニング用スピーカー以外の商品に取り組む考えはありますか?

池上 今回のBluetoothスピーカーは新しいチャレンジではあるんですが、音が出る商品という点では楽器と同じなんです。音が出ない、楽器とはあまりにもかけ離れたものには手を出すつもりはありません。我々のブランドやアイコンが生きる形であれば、いろんな可能性を考えてみたいと思います。

——— それにしてもローランドもボスも、ここ数年で変わってきている感じがします。AIRARoland Boutiqueといった過去を振り返るような製品は、一昔前だったら絶対にやらないという感じでしたし、ボスのスイッチャーES-8ES-5や新しいWAZA AMPなどもこれまで頑なにやらなかったタイプの製品だと思います。それが今やBluetoothスピーカーにまで取り組むようになって、やはりローランドもボスは変わってきているのですか?

池上 そうですね。結局、我々自身が欲しいと思えるものを作らないと、お客様も欲しいと思われないだろうと考えています。そのためには多少チャレンジであっても、お客様に欲しいと感じていただける商品を作らないとダメだなと思っています。先日のNAMM Showで発表したWAZA AMPも、かなりハードルの高い商品ではあったんですが、頑張って取り組んだ甲斐あって、かなり良い評価を得ることができました。今、社内はとても良い雰囲気ですし、この「JC-01」もだからこそ生まれた商品なのではないかと思っています。

Roland JC-01

ボス株式会社代表取締役社長、池上嘉宏氏(写真左)、ボス株式会社アンプ開発部担当課長、山手弘氏(写真右)