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不法入国目的か ビザ取得で不審な申請相次ぐ
2月11日 19時13分

不法入国目的か ビザ取得で不審な申請相次ぐ
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日本で開催される「国際会議」への参加を名目に、ビザを取得しようとする不審な申請がアフリカ諸国などから相次ぎ、去年1年間に合わせて400件余りに上ることがNHKの取材で分かりました。実際に国際会議のためのビザで入国し、不法滞在しているケースも出ていて、専門家は「就労目的だけでなく、凶悪犯罪やテロにつながるおそれもある」と警戒を呼びかけています。
日本で学会やセミナーなどの「国際会議」が開かれる際、主催者は海外の参加者に「招へい状」を送り、参加者はそれを大使館などに提出して日本に入国するためのビザの発給を受けます。
会議の関係者によりますと、このところ「招へい状」を求める不審な申請が主にアフリカ諸国から相次いでいるということです。
中には、申請者が所属するとした組織に在籍していないケースや複数の申請者の生年月日やパスポートの番号がすべて同じケースなどがあったということです。
NHKが、去年1年間に開かれた220余りの国際会議について取材したところ、こうした不審な申請が少なくとも35の会議で、およそ430件あることが分かりました。
去年10月に高松市で開催された国際会議では、ナイジェリアの政府機関の職員を名乗る人物から申請があり、主催者が都内の大使館に確認したところ「不正の疑いがある」と回答があったということです。主催者は「招へい状を悪用して日本に不正に入国しようとしたのではないか」と話しています。
また、おととし首都圏で開催された国際会議では、招へい状を受け取り、国際会議のためのビザで入国したガーナ人が会議には参加せず、不法滞在を続けているケースも確認されました。ガーナ人はNHKの取材に対し「招へい状は仲間のリーダーが入手した。渡航費用もスポンサーが出してくれた。日本で平穏に暮らしたい」と話しています。
専門家は「国際会議への参加という信用度の高い入国方法を装い組織的に手配している。就労目的だけでなく、凶悪犯罪やテロにつながるおそれもある」と指摘しています。入国管理局は、不法入国の手口が巧妙化しているとして、空港や港での審査を厳格に行うなど警戒を強めています。

国際会議 政府や自治体が誘致に力入れる

「国際会議」を巡っては、日本を訪れる外国人の増加に向けて、政府や自治体が誘致に力を入れています。
国際会議協会によりますと、日本では、年間300余りの国際会議が開かれていて、アジア各国の中では最も多いということです。
一方、観光庁によりますと、会議場などのインフラ整備が進む中国が開催件数を伸ばしているほか、マレーシアやベトナムなど新興国の台頭も目立つようになり、誘致競争が激しくなっているということです。
こうしたなか、政府は、横浜市や福岡市など会議場や宿泊施設が整っている全国53の都市を「国際会議観光都市」に認定し、誘致を後押ししています。
また、京都市は、世界遺産の「二条城」を会議場として活用しているほか、横浜市も新たな会議場の建設を進めるなど自治体の間でも誘致を進める動きが広がっています。

招へい状は海外参加者に発行する証明書

「招へい状」は、日本で開かれる会議や催しの主催者が海外からの参加者を招く際に発行する証明書です。
一部の国を除いた海外の日本大使館や領事館では、国際会議などへの参加申請者に対して招へい状の提出を求め、この内容を踏まえ、ビザを発給するかどうかを審査します。つまり、招へい状は、ビザを取得するうえでの重要な証明書となります。
しかし、NHKが去年開かれた国際会議の主催者に取材したところ、会議への参加料さえ支払われれば発行しているケースなど、申請者に対する十分な確認をしないまま招へい状を発行するケースがみられました。
各国の大使館や領事館では、招へい状が無断でコピーされ、乱用されるおそれもあるとして警戒を強めています。

招へい状発行も姿見せず損害

国際会議を巡っては、「招へい状」を発行したにもかかわらず、参加メンバーが会議に現れなかったケースもたびたび出ています。
去年4月に首都圏で開かれた医療系の国際会議では、ナイジェリアからの申請に対し、14人分の招へい状や身元保証書を発行しました。しかし、予定日になってもナイジェリア人は来日しませんでした。
NHKが、申請した代表者が所属するというナイジェリアの政府系機関に取材したところ、「そのような職員は在籍してない」とコメントしました。
会議を主催した団体は、ナイジェリア人が会議に現れなかったことで、彼らのために予約していたホテルのキャンセル代金、およそ30万円を負担することになりました。団体の担当者は「準備に追われ、招へい状の要求を疑うことはなかった。悪用されていたとすれば、とても残念です」と話しています。

ビザ取得し会議参加せず不法滞在も

主催者が発行した招へい状を提出してビザの発給を受け、日本に入国しながらも会議には参加せず、不法滞在を続けているケースが確認されました。
現在、都内で生活している40代のガーナ人の男性はおととし、首都圏で開催された国際会議に参加するとして、ビザの発給を受けました。手続きは国際会議の仕組みに詳しい現地の仲間が行ったといいます。
男性は当時、ガーナの日本大使館に提出された招へい状のコピーを残していました。書面には「国際会議の出席」が来日目的だと記されていて、会議を主催する大学教授が発行したとされています。
さらに、この教授は、男性の日本滞在中の生活を保障するとした「身元保証書」なども発行していて、こうした書面の提出によって、ビザが発給されました。しかし、男性は国際会議には参加せず、現在も不法滞在を続けています。
男性は「招へい状は仲間のリーダーが入手した。渡航費用もスポンサーが出してくれた。母国は治安が悪く、日本で平和に暮らそうと国際会議の機会を利用した」と話しています。
招へい状を発行した大学教授はNHKの取材に対し「参加費が支払われれば、招へい状を発行していた。身元の確認には限界があった」と話しています。

大使館が無視勧める

去年10月に高松市で開かれた「東アジア環境史学会国際大会」では、ガーナやナイジェリアなどから、学会への参加や招へい状の発行を求める申請が、13件、20人からありました。
しかし、主催する学会の事務局が申請内容を詳しく調べたところ、不審な点が数多く見つかりました。このうち、ガーナからの申請では、参加費を支払うためとして記載されていたクレジットカードの番号が、別人のものであることが分かりました。またナイジェリアからの申請では、4人分の学歴証明書類について、書式やサインの筆跡がどれも極めて良く似ていて、不正を疑ったということです。そして、この4人が政府機関に所属していると名乗っていたため、事務局側で東京のナイジェリア大使館に確認したところ、「政府機関の人間による定められた手続きに見合っていない。無視することを勧める」と回答があり、参加を認めない判断をしたということで、その後、連絡が途絶えました。
学会の代表を務めた香川大学教育学部の村山聡教授は「当初は、アフリカからの参加申請を好意的に受け止めたが、不審な申請が来たことは驚きだった。こうした申請は当然受け入れられない」と話しています。

東大に不審な申請相次ぐ

防災に関する国際会議を主催した東京大学には、170件に上る不審な参加申請が相次ぎました。
およそ3分の2がアフリカからの申請で、多くが「州政府」に所属すると名乗っています。しかし、申請の際は公的機関のメールアドレスは使わず、ほぼすべて「フリーメール」を使っています。
例えば、ナイジェリアのコギ州の職員だと名乗る申請では、本来、コギ州が公式に使っている「kogistate.gov.ng」というドメインは使わずに、フリーメールが使われています。
またガーナのNGOを名乗る人物は、延べ11人分の招へい状を要求してきましたが、7人はパスポート番号と生年月日が同じでした。不審な申請では、招へい状の送付を執ように迫ることが多いのも共通しています。
ナイジェリアの州政府に所属するという人物からは、英文の招へい状に加え、日本語の招へい状も要求し、必ず押印を入れて発行するよう繰り返し強く求めてきました。東大側は「招へい状は英文で十分で、押印も必要ない」とたびたび伝えましたが、ナイジェリア側は一向に譲らず「日本語の招へい状を送らないなら、参加してほしくないことを意味する」などと、高圧的に迫ってきたといいます。
大学側はガーナのNGOを名乗る申請者について、ガーナ政府の防災部局の保証書が添付されていたとして招へい状を発行しましたが、会議には姿を現しませんでした。大学側では申請者がビザを取得したのか、日本に来たのか、確認できなかったということです。
会議の代表を務めた東京大学大学院の小池俊雄教授は「非常に残念だ。招へい状を別の目的で使われたのであれば今後、身元の確認はより確実にしなくてはならない」と話していました。

ナイジェリア大使館は

「招へい状」を求める不審な申請が送られた35の国際会議のうち、半数以上の会議でナイジェリア人を名乗る人物からの申請がありました。
これについて、東京・港区のナイジェリア大使館は「ナイジェリア人を名乗る人物が招へい状を求める不正なビジネスは、よく知られている。日本の企業からも申請者が実在するか問合せが相次いでいて、中には偽の申請も見つかっている。会議の主催者は、不審な申請があれば大使館に確認してほしい」と話しています。

専門家「制度熟知し組織的」

元法務省入国管理局長で、日本大学の高宅茂教授は、「海外から多くの参加者を招きたいという主催者の思いにつけ込んだうえ、正規の招へい状を使い、国際会議という非常に信用度が高い入国方法を選んでいる。入国制度に詳しい組織による手口だ」と指摘しています。そのうえで、「日本で働きたい人を募り、不法就労によって利益を得ようというブローカーが組織的に動いてビザを手配している可能性が高い。それだけでなく、犯罪やテロのためにも利用されるおそれもあり、危険な問題だ」と話しています。

専門家「不正入国産業の横行」

移民問題に詳しい筑波大学の明石純一准教授は、「途上国の人々は、仕事が欲しい、収入を増やしたいといった動機で国境を越える。多くの収入を得られるなら合法かどうかは関係ない。それがブローカーの仲介など、日本への入国や就労を指南する不正ビジネスの横行につながっている」と指摘しています。
そのうえで、「できるだけ入国しやすい先進国として、国際会議名目によって入国できるチャンスの広がった日本が目をつけられた。地位のある主催者が発行する招へい状によってビザを取るのが容易なことが手口の増加の背景にある」と話しています。

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