退職にあたりこの金を耳を揃えて返さなければならぬ。しかし、僕の表向きの財力では到底無理な話だ。裏金を使えばたちまち家族に露見し今後の人生に支障が出る。そんな、裏金的なもの、ないけどね。不義理のあまり金を借りれそうな裕福な友人からは縁を切られ、残っているのは金に余裕のないアテにならないならず者ばかり。返済の相談を妻に持ちかけたら、妻は下顎を突き出した人殺しのような顔をしたため、僕は「聞かなかったことにしてくれ」と言うしかなかった。僕は金の奴隷だ。金を稼ぐため、返すため、生きているようなものだ。金を返さなければ自由に会社も辞められないなんて。きっつー。
僕は悪魔になるしかない。不義理に加え、人でなしの悪魔になるしか。僕には親がいるではないか。七十過ぎの、シワだらけで、白髪の、年老いた、親の、カネを、借りる。なんて最低なのだろうか。しかし背に腹はかえられぬ。親の余生よりも自分の返済。善は急げ。僕は会社から電話を掛けた。お袋ぼくが有り金全部出せっていったらどんな顔するだろう?
「もしもし俺だけど。ちょっと会社でトラブってしまって…悪いけど金を貸してもらえないかなっ。今から…」と僕が手続きについて説明するのを遮るように母は「息子はまだ小学生です!」と言って電話を切ってしまった。この世には悪魔と人でなしばかりで、どうやら神はいないらしい。金の奴隷はもういやだ。生まれ変わったら、人間でも真人間でもなく、私は金になりたい。金に困らない金になりたい。
(この文章は泣きながら13分で書かれた)