日本がことしの夏の世界文化遺産への登録を目指していた「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」について、政府は、現状での登録は難しいとして、ユネスコに提出していた推薦書を取り下げることを、きのう(9日)の閣議で了解しました。
名越解説委員とお伝えします。
Q、なぜ推薦を取り下げることになったのでしょうか?
A、一番大きいのは、この遺産の価値はいったい何なのか、その認識のズレだと思います。
日本は、国宝の大浦天主堂など、長崎県と熊本県のあわせて14の資産を、ことしの夏の世界遺産の候補として推薦していました。キリスト教の伝来から、信仰を禁じる禁教の時代を経て復活していくまで、4世紀にわたるその歴史を伝える資産です。
ところが、世界遺産にふさわしいかどうかを評価するユネスコの諮問機関、通称「イコモス」は、禁教の歴史に焦点を当てた内容に見直すべきだと指摘してきたのです。
Q、どうして、こういう指摘をしてきたのでしょうか?
A、世界では、すでにたくさんのキリスト教関連施設が世界遺産になっているからです。
日本の特殊性を打ち出すべきでした。
つまり、およそ250年にわたって弾圧を受けながら、ひそかに信仰を守り抜き、復活した歴史を推薦書に書き込まないと、世界遺産としては無理があるということです。
Q、結構、厳しい指摘ですね。
A、背景には、世界遺産の登録をめぐる課題があります。
世界遺産は、毎年審査されますので数は増える一方です。また、例えイコモスが低い評価で勧告しても、ロビー活動で登録にこぎつけるケースも少なくありません。
このため、審査の透明性の確保や、厳格化が課題になり、対策が進められています。
こうした中でのイコモスからの指摘だったのですが、日本は、推薦書の内容がここまで低い評価になるとは思っていなかったのです。
文化庁の幹部も「予想外だった」と話していました。
Q、今後は、どうなるのでしょうか?
A、地元の長崎県などは、再来年の世界遺産登録を目指すため、来月中に、改めて推薦書をまとめ、文化庁に提出する方針です。
イコモスは、登録に向けたアドバイスをするとも言っていますので、世界が納得する遺産の価値とは何なのかを、もう一度見直すチャンスだととらえて、推薦書の見直し作業を早急に進めてほしいと思います。