化粧をしようと思い、鏡を見ていたら、私の髪の毛が太陽の光に照らされてキラキラ光っていた。描写だけだどなんだか天使の輪っぽくてティモテ~♪と言いたくなるところなのだが、そんなきれいなもんじゃなく白髪があったのだ。白髪というやつは光に照らされると「おら、ここにいるだよっ!」ってなぐらい自己主張が強い。白髪は自分が主役だと勘違いしているようで、黒髪の海の中でもアメリカ横断ウルトラクイズの回答帽子並みに「ピコンッ!」と飛び出してくる。もう少し、黒と仲良く交わって欲しいものだが、昔から黒と白はあんまり仲がよろしくないってじっちゃんが言ってたので致し方ないのかも知れない。
とりあえず私はピコンッ!と飛び出た白髪をピンセットで抜いてみた。手に取って白髪を眺めてみると、これは鶴の恩返しが織っていた綾錦か天女の羽衣の糸なんじゃないのと疑いたくなるくらい見事な張りと艶のある白髪だった。それを見てなんだかMOTTAINAIような気もしたけれど使い道もないのでゴミ箱へ捨てた。
だんだん艶のなくなる黒髪が一瞬ですべてこの白髪になるのであればその方が綺麗かも知れないと私は感慨深く思った。
気を取り直して、私はもう少し黒髪を探ってみると、また白髪を発見したので、プチンって引っこ抜いた。すると、その白髪は上が白、真ん中が黒、下が白になっていたのだ。しまうま…いや、うちのお風呂に貼ってある英語レッスン表のように言うとズィーブラ柄だったのだ。これはなんだか許しがたかった。オセロでも囲碁でも勝負は黒か白かで決まるはずなのに、こいつは黒をひっくり返すのではなく、侵してきてしまっているではないか。私は、まず黒髪が自然に抜け落ち、その跡地にいざ、出陣!とばかりに立派な白髪がいちから城を築き上げるように生えてくるのが理想なのだ。むしろ、それが一般的なカタチなのではなかろうか。なのに、こいつはパッカパッカとズィーブラになっちゃったよ!なんなんだよ!ズィーブラな髪の毛はイヤダヨ!おら、嫌なんだよ!
絶望感に襲われ、私は家から飛び出した。
行くあてもないので、私はふらふらと近所のスーパーへ足を踏み入れた。
とりあえず買い物かごを持ち、売り場を虚ろな目で見渡していた。
するとそこでこんな言葉が目に飛び込んできたのだ。
どうした!
横山!
私も今、絶望感でいっぱいだけど「生きぬ」ってなにがあったんだ?
とりあえず横山は生きてくれ!
私は横山が心配になった。私の絶望感は胸に秘めたことであったが、横山は声高に「生きぬ」と皆に告げていたからである。
これはさすがにやばいと思い、私は横山を家に連れて帰ってきたのだ。
家に着き、夕飯の準備に取りかかった私は味噌汁の中へ横山を入れた。夕飯時に私は温かい味噌汁とともに横山を私の中へ流し込んだ。横山は滑らかな肌をしていた。
もう、横山は絶望しないだろう。だって私に取り込まれたのだから。
そして私ももう絶望しない。ズィーブラがあっても絶望しない。
なぜなら、横山はお手頃価格の本当にいいやつだったからだ。