堀込泰三 - こころ,コミュニケーション,メンタル,人生,仕事術,生活 08:00 PM
大切な人の愚痴を聴きつつ自分は疲弊しない「聴き上手」になるには
友達や恋人、家族など、怒っている人の話を聞いてあげると、関係が深まります。でも、ただうなずいているだけでは聴き上手とは言えません。大切な相手を安心させ、理解して、認めてあげることが必要です。
誰しも、頭の中に溜まった蒸気を噴き出す機会が必要です。そのときに重宝されるのが、聴き上手な人。仕事でつらい経験をしている友人、家族のいざこざに翻弄されている恋人。大切な人の怒りに耳を傾けるのに、なにもプロのセラピストになる必要はありません。正しいアプローチをすれば、あなた自身は疲弊することなく、相手の気持ちを吐き出させることができるのです。
安心させる
歓迎のボディランゲージを示すだけで、相手を安心させられることがあります。頭を低くしたり傾けたりする、腰をかがめて見下ろさないようにする、目をじっと見つめる、微笑みかけるなどの方法で、相手は安心して気持ちを打ち明けてくれるようになるでしょう。恋人や非常に親しい間柄なら、軽いボディタッチも効果的です。カリフォルニア州立大学バークレー校で人間関係、紛争帰結、瞑想などを研究しているGregorio Billikopf氏によると、相手に座るように勧めるのが良いそうです。ジェスチャーだけでもOK。そうすることで、相手に関心を持っていて、話を入念に聞く準備ができていることを伝えられます。
相手が安心したところで準備完了。心を解きほぐす工程に入りましょう。Harold H. Dawley氏とMike Frazier氏の共著『Friendship: How to Make and Keep Friends』によると、シンプルな質問をするのが効果的だとか。恋人が何かにイライラしているなら、まず「あれ、何か気に障るようなことしたかな?」という質問から始めます。自分が原因なら、これでイニシアティブを示したことになり、関係を修復しやすくなるはずです。自分以外が原因なら、「何かに怒ってる?」「何か嫌なことでもあるの?」といった質問を続けてください。
Billikopf氏は、行動に移す前に、起こりうることを想定しておくように勧めています。相手の怒りを吐き出させる行為は、ダムの水門を開けるのと同じこと。溜まりに溜まった感情、怒り、ストレス、不満を、できるだけ安全に放水させるのがあなたの仕事です。
感情を溜め込んでいる人は、吐き出す必要があります。そのような人はたいてい、課題について明確に考えていないか、他者からのインプットを受け入れようとしていません。聴き手の役割は、溜まった感情を抑えている堰を切らせてあげること。あとは、水があふれてきます。放水中も、相手にはたくさんのプレッシャーがかかっています。放水が済んで2つの区画の水位が等しくなったとき、ようやく水の行き来が可能になるのです。
聴き上手になるには、覚悟が必要です。怒りを静めることに執着しすぎると、相手の不満を軽んじているように思われ、火に油を注ぐ結果になりかねません。堰を切らせたら、感情のプレッシャーが等しくなるまで、しっかりと立ち合うことが必要です。
傾聴する
怒りが静まるまでの間、相手の話をきちんと聴いていなければなりません。Mark Goulston医師は、著書『Just Listen』において、怒っている人の話を聴いている間に陥りやすい2つの罠を紹介しています。
1つ目の罠は、話に割って入ってアドバイスをしてしまうこと。これでは聴き手とは言えません。相手にしてみれば、「とにかく話を聴いてよ! いちいち命令しないで」となるでしょう。
2つ目の罠は、ただ何も言わずに座っていること。1つ目の罠にはまったあとに、やりがちです。これでは、ネガティブな感情を吐き出すことに積極的に役立っているとは言えません。
大事なことは、ただ聴くだけでなく、ちゃんと聴いている態度を相手に示すこと。そのためには、名前やストーリーの一部を繰り返すのが効果的。これは、「リフレクティブ・リスニング(聞き返し)」と呼ばれている方法です。とはいえ、オウム返しではいけません。相手の言葉を吟味して、自分の言葉で返すのです。たとえば、どんどん仕事を振ってくる上司の愚痴を言っている同僚には、「そんなにやることがいっぱいなのに、さらに仕事を押し付けてくるなんて、フェアじゃないね」と言い換えてみてはいかがでしょうか。
話題を変えるのはNGです。嫌な仕事の話を映画の話題にすり替えても、相手は拒絶されたと感じるだけで、承認欲求が満たされません。マルチタスクもやめましょう。傾聴中は、一石二鳥はありえません。いったん怒りが静まったかのように見えても、ただ言葉を探しているか、解決策を模索しているだけかもしれません。ですから、相手を中断しないように気を配りつつ、あなたの傾聴も中断しないように注意が必要です。
非常時の感情サポートを受け持つ赤十字では、言葉以外による勇気づけも推奨しています。うなずき、心からの笑顔、相づちだけでも、話を聴いている姿勢を示すことができます。できるだけ多くを吐き出させたほうが、早く感情のプレッシャーが安定し、気持ちが落ち着くのも早まります。Billikopf氏は、「宙ぶらりんの質問」を勧めています。たとえば家族への不満をぶちまけている友人に対しては、「そっか。家族のせいで、君の気持ちは...」と言いながら、「気持ちは」の部分を伸ばします。すると相手は、あなたの言葉をきっかけに気持ちを語り始めるでしょう。同時に、あなたの聴き上手ポイントも上昇するはずです。
理解する
怒っている人の多くは、承認を求めています。具体的な解決策ではなく、理解をしてほしいのです。『Attractive Communication』の著者、Michael Rooni氏は、「解決策なし」の傾聴を勧めています。
怒っている人は、傷ついた感情を解放して、胸をなでおろしたいだけかもしれません。そんな相手に必要なコミュニケーションは、解決策ではありません。ただ耳を傾けて、傷ついた心に理解を示してほしいだけなのです。
相手の感情を自由にしてあげましょう。ウォータール大学レニソン・ユニバーシティ・カレッジの心理学者、Denise Marigold氏は、相手の感情を無理に変えようとして、ポジティブ・リフレーミングや誤った勇気づけは避けたほうがいいと言います。気を取り直してほしいという気持ちはわかりますが、仕事に対する不満を言っている恋人は、「あなたはすばらしい」「あなたは十分がんばってる」「すべてうまく行く」なんて言葉を聞きたいわけではないのです。とにかく耳を傾けてほしい。仕事に対して持っている懸念を、真剣に受け止めてほしい。もっと根深い問題がからんでいないかぎり、相手は自分で結論にたどり着くでしょう。だから、感情を整理するための時間を作ってあげてください。
助けが必要なら、相手のほうから求めてくるはずです。Rooni氏によると、あなたの意見を言ったり、自分だったらこうするという話はしたりしないほうがいいそうです。相手のニーズを、自ら言わせるのです。それでも言いづらそうにしているなら、「私にできることはある?」といったオープンクエスチョンをしてあげましょう。グリーフ・カウンセラーで『The Art of Comforting』の著者Val Walker氏は、アドバイスや助けを求められたら、できるだけ具体的な提案をし、提案したことは最後までやり遂げ、現実的でない約束はしないことを勧めています。たとえば、「なんでもするから言ってね。大丈夫、すべてうまく行くから」という曖昧な言い方はやめてください。それでは、どうやって助けるのか相手に伝わらないばかりか、すべてうまく行くかどうかなんて、あなたにはわからないはずです。それよりも「明日の夜、電話するね。このことについて、少し話そう。しっかりするんだよ」と言うのがいいでしょう。あなたがどうやって助けてくれるのか(話を聴いてくれる)が明確に伝わり、余計な期待を持たせずに相手を鼓舞することができるのです。
度が過ぎたら止める
怒りを吐き出させるのはいいことですが、限度があります。ずっと不満を聴いていればあなたにも不満が溜まり、結局、あなたが誰かに吐き出すはめになるでしょう。それでは、終わりのない不満のチェーンが生まれてしまいます。恋人、ルームメイト、同僚など、長い時間を一緒に過ごす人とそうなってしまうと最悪です。それに、不満を言う人にとっても、それが癖になってしまうのは問題でしょう。書籍『Paradoxical Stratgies in Psychotherapy』を書いた心理学者Leon F. Seltzer博士は、不満を吐き出すことが問題解決だと思われることを危惧しています。そうなると、本当の問題解決に取り組まずに愚痴ばかりになりかねません。
同僚の愚痴があまりにもくどいようなら、傾聴のタイムリミットを決めるといいでしょう。これは『Forbes』のKevin Kruse氏が勧めている方法です。5分間、集中して聴く時間を設けます。嫌味にならないように、タイムリミットを相手にほのめかしましょう。たとえば、「紅茶を作っている間に話を聴こうか」「5分後に電話/会議/レポートがあるから、それまで話をしよう!」と言ったり、「コーヒーを飲みながら話そう」と言って、コーヒーを飲み終えたら失礼したりします。
恋人やルームメイトなど、よく知った仲の相手なら、終わりのラインを決めやすいかもしません。相手が大好きなことを利用するのです。たとえば、「ちょっと話を聴かせてよ。で、そのあと○○(相手の好きなテレビ)を見よう」と言えば、話が短くなる可能性があります。『How Can I Help?』の著者、June Cerza氏は、エクササイズの併用を勧めています。散歩やジョギングをしながら、あるいはジムでのトレーニングの合間に話を聴くのです。
書籍『Verbal First-Aid』の共著者、Judith Acosta氏は、愚痴を言われ過ぎであなたの感情に悪影響が及ぶようなら、注意深く線を引くことを勧めています。Acosta氏は『Huffington Post』の記事に、こう書いていました。
健全な関係であれば、こう言うことができるはずです。「愚痴ばかりで何もやらないのなら、もう失望するしかないよ。助けてあげたいけど、空回りしているようにしか見えないし」
最初は言いにくいかもしれませんし、瞬間的に相手は傷つくかもしれません。でも、これで健全な制限を敷くことができます。でも、相手の不満の対象が深刻な問題の場合は、プロの助けを借りるように勧めてください。本当に話を聴いてくれる人か、あなたができないような具体的な助けを必要としているかもしれません。
一方で、そこまで仲が良くないのであれば、相手を黙らせるしかないとAcosta氏は言います。耳を傾けるのは優しい行為ですが、相手があなたの優しさにつけ込むようなら、自分の心を守ることを優先してください。最後に、あまりに誰かの愚痴が負担になっているなら、あなた自身も誰かに助けを求めたほうがよさそうです。
Patrick Allan(原文/訳:堀込泰三)
Illustration by Sam Woolley.
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