選挙改革自民案 先送りでお茶を濁すな
毎日新聞
自民党が衆院選挙制度改革に関する基本方針をまとめた。しかし、焦点となっていた定数の削減は4年後2020年に実施される大規模国勢調査の結果を踏まえて10議席減らすという内容だ。実態は、自民党内の調整が難しいから定数削減は先送りすると言っているのに等しい。
方針は(1)当面は定数は変えずに小選挙区の「1票の格差」是正を優先して、格差が2倍以上になる選挙区は都道府県内で区割りを見直す(2)先に衆院議長の諮問機関が答申した定数10削減(小選挙区6減、比例代表4減)は20年の国勢調査の際に実現する−−が柱だ。
取りまとめの中心となった細田博之幹事長代行は「安倍晋三首相が断腸の思いで定数削減を提起した」と語り、「10削減」は「政治的宣言として国民に約束する」とも語った。
当初、党内では定数削減に反対論が強かった。理由は簡単だ。削減対象となる選挙区の現職議員が多いからだ。それを考えれば、諮問機関の答申を尊重するよう党側に求めてきた安倍首相の顔も立てた妥協案ではあろう。
だが、20年の国勢調査結果が出た後に検討を始めるとすれば、国民への周知期間などを含めれば実際の衆院選に適用されるのは22年以降になるとみられる。その間、何回衆院選があるか分からないし、政治情勢がどうなっているかも見通せない。
さらに諮問機関の答申に盛り込まれた小選挙区の「7増13減」案は10年の国勢調査に基づくものだ。今後の人口変動によっては削減対象の選挙区が変わる可能性がある。その際、再び調整が手間取って、結局、定数削減は口約束だけに終わる可能性さえなしとはいえない。
確かに欧州各国などと比べ、日本の国会議員の数は多くはない。定数を減らせば国会の機能が向上する保証もない。ただし12年秋、自民、公明と民主3党は消費増税に伴い、「自ら身を削る」と定数削減で合意した経緯を忘れてはならない。党内事情や議員の事情を優先した今回の方針を国民が「身を削る約束を果たした」と評価するとは思えない。
自民党の方針に対し、諮問機関の答申を尊重する考えを示している民主党などが反発するのは確実だ。これに対して自民党は公明党の同意が得られれば、当面の「1票の格差」是正策を盛り込んだ公職選挙法改正案を今国会に提出し、与党単独でも成立を目指す構えも見せている。
与野党が一致せず何もできない事態は最悪だ。だが、選挙制度に関してはせめて与党と野党第1党との合意を目指すべきだ。そのためには答申に沿って早急に実現をはかるのが近道だ。自民党の再考を求めたい。