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ダークファンタジーで乙女ゲームな世界で主人公のルームメイトが生き残りをかけてあがいております(書籍版:ダークな乙女ゲーム世界で命を狙われてます) 作者:夢月 なぞる

5章 迷走

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16. 催促

 紅原と聖さんを見送った日、帰ってきた聖さんは猫について鼻息荒く語りたがっていたが、あたしは疲れを理由に断った。
 聖さんは心配そうな顔をしてたが、やはり誰かに語りたかったのか、外に出て行った。
 それに悪いと思いつつ、その日はそのまま就寝した。

 ◆ ◇ ◆

 あの黒歴史を増産した猫騒動から数日。
 あたしはあの出来事について、あまり考えないようにしていた。
 聖さんはあの日から猫にはまりきったらしく、暇があれば会いに行っている。
 紅原が何か行ったのか聖さんは特にあたしを誘ってきたりはしない。
 そのため、当然の様に別行動することが多くなっていた。
 紅原が一緒なのか気になったが、なぜだか聞くのをためらわれた。

 そんな六月中旬。曇天。本日は、思い出したかのような体育祭だ。
 裏戸学園は元々あまり運動が盛んではなく、運動会も文化祭や他のイベントに比べれば、ほとんど力を入れていなかった。
 学園からしてそうなので、生徒の盛り上げようという意識も低い。
 競技は短距離、長距離にわかれた、ごく平凡な陸上競技が主で、大半の生徒がやる気ない。
 体育祭のいい加減さはこの運動場に設置されたスタンド席を見てもわかるだろう。
 基本競技に参加しない生徒は競技の見える範囲ならどこで休んでいても構わないので、屋根付きとはいえ、スタンド席にいる女子はほとんどいない。
 六月の日差しを嫌がるお嬢様がたは、自分の競技が終わると早々に窓から運動場の見える教室などに避難して、おそらく優雅にお茶でもしているのだろう。
 時々聞こえる声援は、一部の運動部が頑張っているに過ぎず、運動場は非常に閑散としており、盛り上がりにかけるものだった。
 そんな中、あたしはスタンドの一番後ろの席にいた。
 体育祭は競技に出る出ないにかかわらずジャージ着用なので、ジャージにハーフパンツの出で立ちだ。
 ちなみに近くに聖さんはいない。
 彼女は運動神経を買われて、一人で出られる制限数ギリギリまで出場しているので、忙しそうだった。
 あたしが周囲を見回せばスタンドにいる人の殆どは応援を目的にしているので、前の方にいるので、近場に人の姿はいない。
 それをいいことにあたしは持ち込んだオペラグラスで、運動場を見た。

「あ、いたいた」

 運動場の奥で今まさに、八百メートル走が始まった。
 その先頭集団に竜くんの姿がある。
 さすが竜くん。陸上部のエースとか言う、三年生にもついていってる。本当にすごいな。
 昔から藤崎家の姉弟は本当にびっくりするくらい運動ができた。
 お陰で遊ぶときもついていくのが、大変だった。
 あたしとしては必死でついていっていたが、今思えばいろいろとろかったあたしに二人はかなり気を使ってくれていたのだとわかる。
 まあ、それはいいとして、竜くんはトップ集団から外れずに走っている。
 本当は大声で応援したいのだが、残念ながら、この学園で彼との関係を秘密にしているので出来ない。
 それでも竜くんの様子は気になるので、こっそり状況を見ていた。
 学年も違うので、それほど頻繁に確認は出来ないんだけど、彼の愛想はないが、誠実で真っ直ぐな人柄はどこでも通用する用で、教室内で孤立することなく、割りと上手くやっているみたいだった。
 一芸推薦で入ったため空手部に所属しているようだが、別の部に掛け持ちで入ったとかきいたが、どこの部活までかはわからなかった。
 だが、ともあれ、普通に学校生活が送れているようでホッとした。
 でも順調な竜君の様子をみていると自分との際に少しだけ落ち込むこともあるけれど。
 ま、ともあれ、あたしの弟分は今日も大丈夫なようだ。
 それに満足しながら、オペラグラス越しの竜くんを小声で応援していれば。

「何を見てるの?」

 突然、隣から聞こえた声にぎくりとする。
 慌ててオペラグラスを外せば、翔瑠がいた。

「か、翔瑠様!? な、なんで……うぐ!」

 思わず声を上げれば、手で口を塞がれた。

「しい、静かにして。僕と一緒にいるところを見られたいの?」

 それは勘弁してほしい。
 とは言え、スタンドに居る人間は応援に夢中なのでこちらに目を向けるものはいない。
 目立ちたくないのは同意なので、あたしが首を縦に振れば、翔瑠は手を離してくれた。
 なんでここに彼がいるのだろう。
 月下騎士会は確か、本部に詰めて運営で忙しいと真田さんに聞いていたのに。

「なんでここに?」
「君が見えたから」

 理由になっているような、いないような。

「あたしに何の御用ですか?」
「この間の返事を聞きたい」

 返事って、親衛隊に誘われた時のことか?

「こ、こんなところで?」

 いくら人が閑散としているとはいえ、見える範囲に他の生徒の姿はある。

「この状況なら君は逃げられないでしょう?」

 確かに、ここで逃げれば、下手な注目が集まり、翔瑠と二人で話していたという周囲からの誤解は避けられない。

「僕はあの時の答えがほしいだけ。でも答えてくれなきゃ、騒いで周りの注意をひくよ」

 君も悪目立ちしたくないでしょ、と言われれば顔が引きつる。

「……脅して、答えを強要するのはどうかと思うんですけど」
「脅しているわけじゃないよ。ただ、冗談だって答えをはぐらかすのをやめて欲しいだけ」
「そんなこと言われましても。あたしは別に翔瑠様に好かれるようなことを何もやった覚えはないので」
「君になくても、僕はあるよ」
「でも、それって夢の話でしょ?」
「だとしても僕がずっと君を夢見てることは変わらないよ」

 徐々に前のめりになってくる翔瑠にあたしは押され気味になる。

「ちょ、翔瑠様?」
「ねえ、君の好きの定義って何?」

 突然聞かれたことの意味がわからず首をかしげてしまった。

「僕はね、人を好きだと思うのは段階があると思ってる」

 友達にしたいと思う定義、恋人に望む定義と指折る翔瑠に呆然とする。

「目を逸らさないでよ。それに照らして、本当に僕の親衛隊になるのを考えられない?」

 真剣な翔瑠の様子にあたしは呆然とするしかない。
 どうしてここまで、執拗にあたしを親衛隊にしようとするのだろう。
 それが好意からというのはどうしても信じられない。
 だって、今まで翔瑠はあたしに何をした?
 誘拐事件の時だって、脅していうことを聞かせようとしてきたし、今だって、脅してないと言いながら、あたしに答えを強要しようとしている。
 おそらくあたしが断っても翔瑠の納得の行く理由がなければ、諦めないだろうことは目に見えた。
 あたしは必死で考えた。もちろんそれは好きの定義なんてロマンチックな話ではなく、とにかく翔瑠が確実に諦めてくれるだろう理由を。今はあたしの脳内はゲームの知識も総動員して、めまぐるしく検索し続けた。
 そして--、ようやくあることを閃いた。

「分かりました」
「え? それじゃ、僕の親衛隊に?」

 翔瑠が顔を明るくするが、あたしは首を横に振った。

「そうじゃありません。考えた結果翔瑠様の親衛隊にはなれないことがわかったんです」
「なんで?」
「……だったら、翔瑠様は、あたしを一番に考えてくれますか?」
「そんなの、当たり前じゃ……」
「翔瑠様、天城さんより?」
「っ、……それは」

 あたしのだした条件に思わず言葉を詰まらせる翔瑠にあたしは内心微笑んだ。
 彼は己の命を狙う一族に思うところはあるものの兄や家族同然の天城さんなど、家族を一番大切にしている。
 その絆は強固で、たかだか知り合って三ヶ月と立たない相手のほうを優先するなど嘘でも言ってほしくなかった。
 そして、翔瑠は統瑠を真似ている時以外は、基本嘘が吐けない質で実直で真面目な性格だった。
 ゲームでもそんな家族思いの翔瑠を聖さんは愛するようになるのだけれど、彼の家での立場や家族との板挟みで苦しい恋を強いられる。
 そんなゲームでの印象が裏切られず、ほっとする。

「あたしはあたしをいつだって最優先にしてくれる人じゃないと嫌です」

 ヒロインに対しても、即答できないだろう条件だ。
 モブでしかないあたしに対しては絶対に飲めるわけがない。
 しかも翔瑠は統瑠を真似る以外で嘘は言えない。
 意地悪と知りつつ、あたしと統瑠と天城さん、三人の命が危ない時、あたし一人を助けられるかと聞けば、翔瑠は顔をしかめた。

「そんなのずるい。家族と恋人を天秤にかけられるわけがないじゃない」
「だったら、諦めてください」

 極力、感情を押し殺して告げれば、翔瑠が悔しそうに睨んでくる。
 それに負けじと睨み返せば、翔瑠はふてくされたように口を尖らせた。
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>2015/10/26 こっそり拍手SS更新。



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