2014年5月8日(木)

日本人の右傾化はどこまで進むのか

PRESIDENT 2014年5月19日号

著者
山本 一郎 やまもと・いちろう
評論家

山本 一郎1973年生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わり、現在は株式会社データビークル取締役、東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員などを務める。『ネットビジネスの終わり』(Voice select)、『情報革命バブルの崩壊』(文春新書)など著書多数。

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答える人=山本一郎(評論家)
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合理的な思考による「危機意識の現れ」

むしろ、我が国で外国人排斥やTPP反対を訴える大規模なデモや国民運動へと発展しないのは、「右傾化が進んでいる」と喧伝されながらも、さほどの火種が国内にないということの証左です。「日本が右傾化している」という言論の底流を紐解いてみると、結局は朝日新聞・毎日新聞的な社会観で議題設定されているものの、それほどの共感を得ることなく「右傾化」という言葉だけが独り歩きし危機意識として叫ばれている状態に他なりません。

日本国民がナショナリズムを強く感じさせる事案ははっきりしています。尖閣諸島や竹島といった領土を巡る争いです。これらの当事国である中国や韓国に対して極めて鋭い反発を日本人が感じるのは、冒頭で例示した中国や韓国に親しみを感じない日本人が激増した原因に繋がります。当然と言えば当然なのですが、2004年のテレビドラマ『冬のソナタ』の大ヒットから10年ぐらいまで続いた韓流ブームや、1990年代後半からの中国大陸への日本企業の進出ラッシュで日中間の経済関係の劇的な良化で極めて魅力的な経済上の互恵関係にありました。つい最近まで友好的な流れであったことも併せて指摘しなければなりません。

これらの問題を敷衍して考えると、いま日本社会が抱える右傾化という命題は、単に内向きで民族主義的だという観点からの発想ではなく、むしろ国内経済や世界政治の中で日本人が精神の根底に宿した危機意識の現れであり、防衛本能に依拠していると考えられます。つまり、右傾化といっても誰でも彼でも排斥するのではなく、アメリカや台湾、もしくはフィリピン、ベトナムなどのASEAN諸国は友人として迎え入れる。領土問題を抱えるロシアに対しては、関係改善の目処が立つようであればパートナーとして考える。ただし反日的な態度を隠さない中国、韓国に対しては強い反発心を持つ。そうした合理的選択の結果としての「保守的態度の浸透」とも分析されます。

それらは、一面では日本社会への閉塞感に対する現実逃避の側面を持ちつつ、また一面ではいまの日本社会の現実を一人ひとりが受け止めてより良い状態にしたいと考えた結果、そのような態度を取る日本人が徐々に増えてきた、といえるでしょう。

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