コミック史に残る二大作品だ。両方とも大好きなマンガだ。
何が偉大かというと、マンガでは、音楽自体を表現できない、つまり、「紙媒体で音楽を奏でることなんでできない」というテーゼに挑戦し、見事打ち破ったところが偉大だ。
特に「ピアノの森」の作者、「一色まこと」は、ページをめくる度に、曲があふれてくる描写を可能にした。
彼女の作品を初めて目にしたのは、スピリッツ連載での「出直しておいで」だったかな。
その時は、なんとなく「男おいどん」に通じるペーソスを感じるな…と思った程度に過ぎなかったが、まさか彼女がこんなスゴイ作品を書くとは夢にも思わなかった。
しかも15年以上かけて、中断しながら、苦しみながらも、昨年、最終話を書き上げた。
エピローグは満足のいく素晴らしい内容だった。
もしも俺が漫画家だったら、彼女の才能に嫉妬したことだろう。良かった。漫画家じゃなくて…
「鋼の錬金術師」の「荒川弘」と言い、「とりぱん」の「とりのなん子」と言い、女性が青年誌に発表する作品で「ハズレ」は無い。彼女たちの眩しい才能を、ただただ称賛するしか言葉を持たない。
前回の続きを書く。
飯場に佐藤さんというヒゲを生やしたお兄さんがいた。30歳弱だったかな。
彼は社長の親戚関係にあり、結構、会社では偉いらしいが、そんなのは全くおくびに出さずに、親しく話し掛けてくれた。
食堂で一緒になった時も、「オマエ、ちゃんとおかず食べないと、ダメだぞ。まだ若いんだから」と言いながら、「おでん」や「焼き魚」を奢ってくれた。
奢ってくれたからじゃないけど、佐藤さんの飾らない優しさが、結構好きだった。
「あんな大人になりたいな」
佐藤さんを見るたび、そう思ったものだった。傍から見たら、多分、俺、憧れの眼差しを彼に向けていたかもしれない(笑)。
そんなある日、いつものように、朝一番で食堂に行き、ボードを見ると、見慣れない現場が。
繁華街の「オフィス天井解体工事」だ。問題は、そこに俺と佐藤さんの名前が書いてあったこと。
思わず、ガッツポーズを決めた。
この現場は、短期間だったが、楽しかった。
天井解体工事だけど、初めはチマチマと金具を外してやってたが、
「これじゃ、らちが開かないな」と佐藤さん、
「どうせ解体するんだし、思い切ってやっちゃいましょうか」と俺、
結局、二人で天井裏に上り、脚で金具を蹴り落としながら、天井を解体した。
一気にスピードがアップし、午前で解体作業は終わり、昼からはのんびりモードだった。
佐藤さんが「ゆう、デパ地下に行って、弁当買ってきて。俺は〇〇弁当(名前は忘れた)、ゆうは好きなヤツ買ってきていいよ」とお金をくれた。
「え~っ!いいんですか?じゃあ、甘えちゃいます」と言いながら、ウキウキしてデパ地下に行った。
当然、ヘルメット、作業服、地下足袋、安全帯のフル装備で、デパ地下の客が、熱帯魚の群れの中を泳ぐ深海魚を見るような冷たい視線を浴びせてきたが、俺は全然気にはならなかった。
高校とかなら嫌だったけど、デパ地下の客は、そもそも俺とは人種が違うもの。
何の問題はない。
スキップしながら、現場に戻り、佐藤さんと雑談しながら美味しい弁当を食べた。
結構、ウマが合った。
佐藤さんが脚立に昇って作業をしている時、「あっ、次はあの工具を使って、この作業をするな」と思い、当該工具を持って待機していると、佐藤さんが笑いながら、片手を差し出してきたので、その手に工具を握らせる、そういう息の合った感じで、楽しく仕事ができた。
佐藤さんもこの解体現場以降、俺のことを毎回指名してくれた。
好きなヒトから認められるっていうのが嬉しかった。勿論、俺はノンケだ(笑)