堀込泰三 - アイデア発想術,ニュース・コラム,仕事術,教育,社会 11:00 PM
クリエイティブになるには、学校で習ったことを忘れましょう
Inc.:ビジネスには矛盾がある。多くの起業家がイノベーションの重要性を認識しているにもかかわらず、学生を社会に送り出すための教育は、アイデアの創造を妨げる習慣ばかりを教えているのだ。実際、学校で成績のいい人ほどクリエイティビティが低いというのが、大学で教鞭をとっている筆者の実感である。
職場でクリエイティビティを発揮するには、学校で植え付けられた4つの習慣を捨てたほうがいいだろう。
1. 答えが1つあります。それを見つけて次に進もう
近代教育では、試験が重要な役割を果たしている。試験では、教師が提示した教材への理解度を測るために、一連の質問に答えなければならない。そのため学校では、教師が知っている質問に対する答えを、反復することに時間が割かれる。そして、ほとんどの試験においてベストアンサーは1つだけ。教師の思惑通りの答えを書くことだけが、単位の取得を意味するのだ。
それだけではない。大半の試験は、たくさんの問題を短い時間で答えなければならない。次々とベストアンサーを見つけながら新しい問いに答えていくことが、いい成績につながるのだ。
こんなやり方では、クリエイティビティは育たない。
第一に、クリエイティビティとは、誰も答えを知らない質問に答えることだ。だから、出題者の意図をくんで答えを見つけるなどというマインドセットは、捨て去らなければならない。
第二に、イノベーションを必要とする問題には、たくさんの解決策が考えられるはずだ。それを見つけるには、複数の選択肢を考え、ひとつひとつ検討していく必要がある。それは、1つのベストアンサーを手早く見つけて次に進むこととは正反対の作業だ。
2. できるだけミスを減らそう
学校での成功は、成績によって決まる。いい成績を取ることは、ミスを減らすことと同義だ。なぜなら、ミスは減点になる。そのせいで、ミスは悪いものであり、全力で避けなければならないという信念を植え付けられている人が多い。
そのような戦略は、既知の解決策を、そつなく実行し続けることが求められる仕事であれば、間違っていない。しかし、イノベーションを目指すのであれば、一見役に立たないようなアイデアでも、避けるべきではないだろう。
そのためには、学校で植え付けられた2つの習慣を改める必要がありそうだ。
1つ目は、ミスを減らすためには、ミスを犯しやすい状況をできるだけ避けるという習慣。この習慣のせいで、クリエイティビティが必要とされる状況を避けたがる人があまりにも多い。誰もが、ミスを犯したくないからだ。この傾向は克服しなければならない。
2つ目。イノベーションにはたくさんの失敗体験が必要であることを認識する必要がある。最初のアイデアにはたいてい、不備があるものだ。それに、どんなにがんばったところで、イノベーティブなプロジェクトは失敗に終わることがある。しかし、真のイノベーターは、失敗から学ぶ。間違いを避けるのではなく、受け入れることが大切である。
3. 試験範囲を勉強しよう
学生はたくさんの授業で忙しいため、効率的な勉強を余儀なくされる。その結果、試験に出る範囲を知って、そこだけに注力することになる。誠に残念だが、大学教授である筆者は、大嫌いな質問を受けることが多い。「これは試験に出ますか?」と。
人生において、過去に学んだ情報が、いつどこで次のすばらしいアイデアにつながるかは誰にもわからない。ジェイムズ・ダイソンは、製材所での経験からバッグ不要の掃除機を発明した。ジョルジュ・デ・メストラルは、ゴボウの実を見てベルクロ(面ファスナー)を生み出した。フィオナ・フェアファーストは、サメの肌のミクロ構造を応用して抵抗の少ない水着を設計した。
すでに発明された今でこそ、それらの関係は自明であるかのように思える。しかし、何が関連するか不明な中で、発明者たちはたくさんのことを学ぶ必要があっただろう。
最近では、例の質問にはこう答えることにしている。「出ますよ。でも、私の試験には出ないかもしれない」と。
4. 常に前進しよう
最後に、成績がいい学生は、勤勉であることが多い。早めにタスクに着手し、時間通りに終わらせるような学生だ。
だが、クリエイティビティはそのような流れにはならない。書物を読み、熟考し、アイデアを練り、想定される解決策を1つずつ試す。これらの工程には、とてつもない時間が必要だ。きっと、ちっとも前に進めていないように感じるかもしれない。いつか本当にすばらしいアイデアにたどり着いたとき、初めて視界が開けたような感覚が得られるのだ。
クリエイティブな取り組みが実を結ぶまでは、前進できていない感覚に耐えなければならない。ついToDoリストの安易な項目に走りたくなるかもしれない。でも、その衝動は抑えてほしい。たとえ堂々巡りでも、歩みを止めてはならない。
4 Things You Learned in School That Make You Less Creative | Inc.
Art Markman(訳:堀込泰三)
Photo by PIXTA.
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