TVアニメ化されたことで2000年代後半のアニメブームの火付け役になったとも言われるライトノベル『涼宮ハルヒの憂鬱』((著)谷川流/(イラスト)いとうのいぢ)
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 2000年代半ば頃より急成長していたライトノベル市場だが、2012年にピークを迎えて以降、売り上げが下降傾向にある。一時期はライトノベル発の漫画、小説、ゲーム、アニメといったメディアミックスが盛んに行われ、『涼宮ハルヒの憂鬱』、『とある魔術の禁書目録』など、幅広い層を取り込んでヒットする作品が相次いだが、ここ最近は目立ったヒットもなく、勢いが衰えている感が否めない。ライトノベルはなぜ衰退しつつあるのだろうか?

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■“テンプレ”が飽きられてしまったラノベアニメ

 「ライトノベル」(以下、ラノベ)の明確な定義はないが、一般的には主にティーンをターゲットとしている小説(単行本)で、イラストレーター(挿絵)が参加していること、一般文芸より砕けた文章していること、ライトノベルレーベルから発行されていることなどが基準として挙げられる。当初から大規模なメディアミックスを前提として刊行される作品が多く、書籍だけでなく、CD化、ゲーム化、アニメ化などコンテンツ全体で売っていくのが特徴だ。2000代半ば以降、ラノベ原作アニメの本数は爆発的に増えており、一時期よりも減少しているものの、昨年も1年に約30作品がアニメ化されている。

 なぜラノベ発アニメがここまでもてはやされるようになったのか? まずは単純に深夜アニメ枠急増の波に乗った、ということがある。作品によっては年間3冊、4冊と刊行される作品もあり、漫画連載と比較して、同期間におけるストーリーの進行が速い。そのため、刊行数が少ない段階でもアニメ企画を立てやすく、アニメ枠増加に伴い陥っていた原作の枯渇を見事に補う形となった。また、ニーズが高まった背景として、漫画原作やオリジナル作ではなかなか難しいテーマをラノベが得意とするところもある。「魔法学園」「異世界ファンタジー」「美少女ハーレム」といった“鉄板”のテーマはラノベならではのもので、さらに美少女に囲まれる“冴えない”主人公の自分語り=共感を呼びやすい。そのため、中高生から絶大な支持を得たのだ。

 しかし、ラノベ原作アニメの増加は、ある問題を引き起こした。こうした得意とするジャンルの作品ばかりに偏ってしまい、キャラクターやストーリーなど、設定が似通ったものが量産されてしまったのだ。アニメファンからは“テンプレラノベアニメ”と揶揄される始末。もちろん、個々の作品を見ていくと丁寧に作られているものも多いのだが、こうした傾向は「ラノベアニメ=面白くない」という風潮さえ生み出してしまった。さらに衰退の大きな要因のひとつとしては、中心読者層が広がっていないことも挙げられる。送り手側はかつてのラノベ読者の掘り起しを図り、ラノベと一般文芸の中間に位置する「キャラクター文芸」「ライト文芸」を扱うレーベルを次々と創刊しているが、こうした傾向からも読者層が広がっていないことが窺える。

■大規模メディアミックスはラノベからスマホゲーに移行?

 さらにこの流れに追い打ちをかけたのが、スマートフォンゲームの台頭だ。いわゆるソーシャルゲームバブルの時代から、携帯電話で遊ぶゲームのアニメ作品は作られてきたが、ほとんどの作品がヒットしたとは言い難い状況だった。しかし、スマホの時代になり、携帯電話におけるゲームの可能性も飛躍的に広がったことで、体感としては家庭用ゲームとそん色ないボリューム感覚で遊べるようになった。さらにティーンをターゲットとしているラノベと違って、作品のテーマやジャンルの自由度も高い。サービス開始当初から主題歌やボイスを実装するなど、将来的な大規模メディアミックスを見据えたゲームも増加(アニメ部署を立ち上げた会社もある)。アニメ化され、一定の成果を上げる作品も増えてきており、かつてのラノベのような動きを見せているのだ。

 作品が乱発され、ラノベ市場が衰退してきているとは言え、根強いファンを持つ西尾維新による「物語」シリーズの劇場版アニメ『傷物語〈I 鉄血篇〉』(1月8日公開)は公開から4日間で3億円を超える興行収入を記録するなど、今後もアニメファン以外を巻き込んだ大ヒット作品が生まれる可能性は十分にある。同作のように、量よりも質を追求した良作が増えることで、再びラノベ市場の活性化に期待したいところ。アニメファンにとっても、漫画、ラノベ、スマホゲーム……様々な原作のバラエティ豊かなアニメがバランスよく存在していることで、お気に入りの作品との出会いの確率も高くなるはずだ。

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