【「3・11」からもうすぐ5年目を迎えるが,甲状腺ガンがいよいよめだって発症しはじめる時期になっている】
【東電福島第1原発事故現場における放射性物質のダダ漏れ問題は,解決するメドがついていない。対策としての凍土壁は,あいもかわらず「進展なし」(全面解決への見通しがつかないでいる)】
【原子力村には魔法使いの弟子たちはいるが,その師匠は「幽明(ゆうめい)界(さかい)を異(こと)にしており,その東電福島第1原発事故現場における放射性物質のダダ漏れ状態は,これからもさらに「処置なし」の状況が続くばかりである】
①「凍土壁の凍結『待った』規制委、汚染水漏れ懸念 福島第1原発」(『朝日新聞』2016年2月10日朝刊3面「総合3」)
東京電力が福島第1原発の汚染水対策の柱として建設している凍土壁が,凍結を始められない事態に陥っている。地下水の動きによっては汚染水の増加を抑えるどころか,逆に汚染水が漏れ出すおそれがあるとして,原子力規制委員会が凍結開始を認可しないからだ。東電は9日,工事の完了を発表したが,規制委を納得させられるかどうかは見通せない。
凍土壁は1~4号機の建屋地下を長さ1500メートルの「氷の壁」でとりかこみ,地下水を遮断する計画。計1568本の凍結管を約1メートル間隔で深さ30メートルまで埋め,零下30度に冷やした液体を循環させて周りの土を凍らせる。9日,最後に残った温度計の取付作業が終わり,スイッチを入れれば凍結できる状態になった。
福島第1原発では,溶けた燃料が落ちている建屋地下に地下水が流れこむことで,高濃度汚染水が生まれ続けている。凍土壁は抜本対策の柱として経済産業省の委員会が2013年5月に導入案をまとめ,東電が2014年6月に着工。約345億円の国費が投入された。稼働すれば,建屋そばの井戸で地下水をくみ上げるなど他の対策とあわせて,1日約400トンとされる地下水流入を100トンほどに減らせると東電は期待する。
だが,凍土壁を認可する立場の規制委は当初から効果を疑問視してきた。「氷の壁」で囲んで地下水位が下がりすぎると,建屋にたまっている高濃度汚染水が逆に地中へ漏れ出してしまうリスクがあるからだ。
安全に運用できるか審査する検討会で,東電に再三説明を求めてきた。凍土壁の早期凍結にこだわる東電への不信感もあり,田中俊一委員長は昨春,「凍土壁ができたら汚染水の問題がなくなるかのような変な錯覚をまき散らしているところに過ちがある」と述べた。
実際,昨春に始まった試験凍結では,予想外に水位が下がる場所がみつかった。流速や流れる向きも未解明な部分が多い。いったん凍らせると溶けるまでに2カ月ほどかかるといい,問題が起きてもすぐに後戻りできない。
東電は「地下水の予測には限界がある」と認めるものの,水位が下がりすぎてもくみ上げ用の井戸から水を注入するなどして漏れを防げると主張している。
昨〔2015〕年12月。規制委は,建屋から汚染水が漏れ出すおそれが少ない凍土壁の部分凍結を文書で「提案」する異例の対応をとった。東電は全面凍結をめざす姿勢を崩さないが,提案の検討も進める。広瀬直己社長は2月9日,規制委を訪れ,田中委員長に「ご意見を踏まえ,しっかり(回答を)返していきたい」と話した。
②「福島第1,凍土壁準備が完了 汚染水を抑制 規制委,認可を慎重に判断」(『日本経済新聞』2016年2月10日朝刊38面「社会1」)
東京電力福島第1原子力発電所で〔2016年2月〕9日,2014年6月から汚染水対策の柱としてとり組んできた「凍土壁」の設置工事が完了した。政府や東電は凍土壁で汚染水の発生を減らす計画だ。一方,原子力規制委員会は凍土壁の効果や影響をみきわめ,認可するかを慎重に判断する方針。2011年3月の事故後,廃炉作業を妨げてきた汚染水との闘いは終わりがみえない。(1面参照 ↓ )
〔ここで,38面「社会1」に戻る→〕 〔2月〕9日午後1時ごろ,福島第1原発4号機の近くでは,真冬の太陽を浴びて銀色に光る配管が地面に張りめぐらされていた。セ氏マイナス30度の冷却液を地中に流しこみ,土壌を凍らせて「氷の壁」を築く設備だ。
1~4号機の建屋を囲むように全長 1.5キロメートルにわたって造成する凍土壁は,建屋に流れこみ,汚染水の発生源となる地下水を遮断するのが目的だ。「地下水の流入量を現在の1日約150トンから50トンほどに減らせる」と東電は説明する。9日に計器の取付けなどを含む設置工事が終わり,凍結の準備が整った。
現時点で完成のメドは立っていない。実際に凍結を始めるには,原子力規制委の認可が必要だからだ。規制委は凍土壁が地下水の流れや水位に及ぼす影響を慎重にみきわめる姿勢を示す。水位が急に下がれば,建屋から汚染水が外に流れ出してしまう恐れがある。
規制委は15日の検討会で対応を話しあう。東電が明確な説明ができるかが焦点だ。敷地内には汚染水を浄化処理した約60万トンの水を保管しているが,トリチウムという放射性物質が残る。このため海にも流せず,最終的な処分方法は未定だ。
③ なにが処理・解決できており,なにが未処理・未解決なのか?
① と ② の報道は同じ取材対象であるから,その内容に大きな差はない。『朝日新聞』にせよ『日本経済新聞』にせよ,この記述から汲みとれるのは,間違いなく「悲観的な展望:未来」である。まさしく,魔法使いの弟子が師匠を失った状態を想像させる。どうしようもないほど絶望的な事態が,いまもなお,東電福島第1原発事故現場では続いている。
『ラジオフォーラム』と名のるネット系の放送局があるが,これは「ジャーナリズムの広場をつくりたい - 独立系報道・教養ラジオ番組」であり,「YouTube,Podcast,一部AM・コミュニティFM局で放送中!」といったふうに,自己紹介されている。
この『ラジオフォーラム』は,「第155回 小出裕章ジャーナル」2015年12月26日において,「汚染水処理の現状『トリチウムという放射性物質についてはまったくなすすべがないまま,いずれは海へ流すということになってしまうわけです』」という《冒頭見出しの文句》から始まる,つぎのような内容の対談をおこなっていた。
今日〔2016年2月10日〕から46日前に放送された番組である。この対談に関しては,文字起こしがなされている。これを以下に紹介する。
註記)http://www.downloadmovieandmusic.net/watch?v=H8DP68eYL78
★ 汚染水処理の現状「トリチウムという放射性物質
についてはまったくなすすべがないまま,いずれは海へ
流すということになってしまうわけです」★
=第155回 小出裕章ジャーナル(2015年12月26日)=
=ラジオ放送日 2015年12月25日〜2016年1月1日=
=Web公開 12月26日=
についてはまったくなすすべがないまま,いずれは海へ
流すということになってしまうわけです」★
=第155回 小出裕章ジャーナル(2015年12月26日)=
=ラジオ放送日 2015年12月25日〜2016年1月1日=
=Web公開 12月26日=
◆ 矢野 宏(司会者): 事故から5年近くになります。この東京電力福島第1原発が,いまどうなっているのか。この大阪にいてもまったく伝わってこないんですよねえ。
◇ 小出裕章: そうですね。
◆ 矢野: いま,1号機から4号機までのプラントというのは,どんな状態にあるという風に考えたらよろしいんでしょうか?
◇ 小出: 4号機というのは事故の当日,定期検査で動いていませんので,炉心が溶け落ちるということは,辛うじて避けられたのです。
ただし炉心にあった燃料も,すべてが使用済み燃料プールというプールの底にあって,そのプールが崩れ落ちる。あるいは水が干上がるようなことになってしまえば,東京すらがもう人が住めないといって,当時の原子力委員会の委員長だった近藤駿介さんという人が報告書を出したのです。
でも,その4号機の使用済み燃料プールはかなり奇跡的な出来事もあって,辛うじてもちこたえました。そしてプールの底にあった燃料も,すでに隣にある共用燃料プールというプールに移し終えましたので,4号機の危機は一応は去ったと考えていただいていいと思います。
残りは1号機,2号機,3号機なのですが,いずれも当日運転中で原子炉が溶け落ちてしまいました。そして5年近く経ったいまも,溶け落ちた炉心がどこにどのような状態にあるかすらが分からないという状態が続いているのです。( 次段:青文字部分は途中での挿入段落。↓ 画面 クリックで 拡大・可)
出所)http://www.aki-alltech.co.jp/japanese/right9.files/news9_earthq.htm
解説)2011年10月時点で「工程表では使用済み核燃料プール内の燃料棒は3年後,炉心の燃料棒は10年後をメドに取出しをはじめ,完了までに数十年の期間が想定されているとのことです」といわれていた。註記)http://www.aki-alltech.co.jp/japanese/right9.files/news9_earthq.htm
そのうち「福島第1原発4号機,核燃料取出し完了」という報道が “ nikkei.com 2014/12/20 13:37 ” においては,つぎのように説明されていた。
東京電力は20日,福島第1原子力発電所4号機の使用済み核燃料プールからすべての核燃料を取出す作業を終えた。重要な工程のひとつが計画通りに完了したことで,30~40年かかる廃炉作業が一歩前進した。ただ,放射線量の高い1~3号機からの核燃料取出しは簡単ではなく,円滑に進むかは不透明だ。
註記)http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS19H7L_Q4A221C1MM0000/
「4号機,核燃料取出しのための作業」は,事故現場でのことであって,また放射性物質で汚染されてもいる状態である点を除けば,通常の作業と同じとみなせるので,当初,工程表で予定されていた〔ほぼ〕3年後にその作業を終えていた。
だが,1・2・3号機の後始末も含めて全基(全機)の「廃炉作業」については,「円滑に進むかは不透明だ」としかいいようがなく,ただ 「一歩前進した」といいうるのみであった。
〔対談に戻る。 ◇小出の続き→〕 その場所には,人為的に炉心をこれ以上溶かさないということで水をかけつづけていますし,巨大な地震に襲われたがために,本来は外部と繋がっていてはいけないはずの原子炉建屋もおそらく至るところで破損してしまっていて,地下水がどんどんと原子炉建屋の中に流れこんでくる,それらすべてが放射能汚染水になってしまうという状態が,いまだに続いているということなのです。
◆ 矢野: なるほど。汚染水に対して,いまどのような対策をとってるんでしょうか?
◇ 小出: 当初はとにかくどんどんどんどん増えるに任せていたのですけれども,1年ほど経った段階から汚染水を浄化して,それを循環して炉心の冷却に使うというようなシステムができました。ただし浄化するといっても,汚染水のなかからとり除けた放射性物質はセシウムという物質ただひとつだけだった。
◆ 矢野: ひとつだけですか?
◇ 小出: はい,だったのです。それでは,残りの放射性物質がすべて汚染水の中に残った状態が続いていたわけですけれども,それをなんとかしなければいけないということで,アルプスと私達が呼んでいる装置を東京電力が新たに造りまして,それでセシウム以外の放射性物質,一番重要なのはストロンチウムという名前の放射性物質なのですが,それを捕まえようとしてきたのです。しかし,アルプスも造ったものの,まともに動かない。
◆ 矢野: 動かない。
◇ 小出: はい,という状態が続いていまして,造ってみては止まってしまう,つくってみては止まってしまうということを繰り返しながら,今日までやってきているのです。まあそんなことを繰りかえしながら,なんとか少しストロンチウムも捕まえることができるようになったというのが,いまの状態です。ただし,セシウムを捕まえた,ストロンチウムを捕まえたといっても,トリチウムという名前の放射性物質もあるのですが,それは仮にアルプスが完璧に動いたとしても,完璧にとれない。
◆ 矢野: とれないわけですね。
◇ 小出: まったくとれない。ですからいまのような状態が続くかぎりは,トリチウムという放射性物質についてはまったくなすすべがないまま,いずれは海へ流すということになってしまうわけです。
◆ 矢野: なるほど。あと問題の1号機,2号機,3号機のこの使用済み核燃料,まずとり出さなければいけないわけですが,これは結構,至難の技ですよねえ。
◇ 小出: それは,私はできない〔と考えている〕。
補注)〔 〕内の補足は引用者。
◆ 矢野: できない〔!?〕。
◇ 小出: はい,〔そうだ〕と思って〔います〕,ですからチェルノブイリ原子力発電所でやったように,石棺というかたちで封じこめるしかないのですが,チェルノブイリ原子力発電所の場合には,地下の構造物はまだ壊れずに維持されていたので,地上だけに石棺を作れば済んだのです。
けれども,福島第1原子力発電所の場合には,もう地下が先程も聞いていただいたように,ボロボロに壊れてしまっているわけですから,地下にも石棺を造る,地上にも石棺を造るということに,結局はなるだろうと思います。
そのために10年では到底できませんでし,何10年か経った時に,ようやくにして石棺というものができるということなんだろうなと,私は思います。
◆ 矢野: なるほど。しかし,いまもこうした事故を起こしながら,東電の責任者は誰1人その責任を追及されてませんよね。
◇ 小出: これだけ酷いことをやっても,誰も責任をとろうともしないし,処罰もされないという,こんなことが起こりうるんだろうかと思うようなことが,いま起きているわけです。
◆ 矢野: そうですよねえ。だから平気で再稼働に動いていくんでしょうね。
◇ 小出: はい。私が福島第1原子力発電所の事故から学んだ教訓というのは,万が一でも事故が起きてしまえば大変悲惨な被害が出るので,もう原子力発電というのはあきらめて止めるというのが,私がえた教訓なのです。
だが,原子力を進めてきた人達がえた教訓というのは,私がえた教訓とはまったく違っていて,どんな酷い被害が出たとしても,誰1人責任をとらずに済むし,処罰もされないという教訓を彼らがえのです。
そうなればなににも怖いものはないので,これからは原子力発電所を再稼働してまた金儲けをしたいという,そういう選択を彼らがするようになったのです。
◆ 矢野: なんとも本当にもう悔しいし,いまも福島の人達は10万人以上の方が家を追われてるわけですよねえ。
◇ 小出: そうです。
◆ 矢野: そういった人達のことを考えれば,もう私達のとるべき道は,原発を再び動かさないということだと思うんですけれども。
◇ 小出: おっしゃるとおりだと,私は思います。
◆ 矢野: 小出さん,どうもありがとうございました。
◇ 小出: はい,ありがとうございました。
註記)http://www.rafjp.org/koidejournal/no155/
つぎにかかげる小出裕章の著書は,2010年12月12日に発行されていた。本ブログ筆者の購入した本書の奥付には「2011年5月25日」第8刷となっている。④ 原子力工学者の原発推進論-原発大事故にもめげない原子力村の「代表的な正会員」:山名 元のいいぐさ-この本の内容に関する一定の感想を的確に述べた文章を,つづけて紹介しておきたい。
--ここ1・2ヶ月小出裕章氏の本を何冊か読んだが,これがベストだった。いっていることは同じなのだが,この本がもっともバランスがとれていて,原発に反対する理由に感情的なところがほとんど入ってこないところに説得力を感じたからだ。
他の本に書いていないようなことが2つあって,ひとつは発電後に発生するゴミ(いわゆる「死の灰」)の処分に関する問題。
これには六ヶ所村や,セラフィールド(イギリス)の再処理工場について,他の本にも出てくるが,いかに処分がむずかしく,保管にかかるボリュームが膨大であるか,保管するための時間がどれほど長いか(プルトニウムの半減期は2万4千年)。
そして処分しきれなかったこれらのゴミを利用して,アメリカが劣化ウラン弾を作り,湾岸戦争で320トン,ボスニア・ヘルツェゴビナで3トン,コソボで10トンを使用(アメリカが認めている数字らしい)。アフガニスタンで1000トン,イラクで2000トンを使用したと推定されている。
補注)劣化ウラン弾の問題については,「もう1つの放射能汚染,『劣化ウラン弾』の事実」を参照されたい。この稿文の副題は「原発事故で深刻な放射能汚染が広がりつつあるが,世界にはその他にも深刻な放射能汚染の問題が存在する。人類がそれを「武器」として利用した劣化ウラン弾である」。
もうひとつが,原発が全然効率的ではない発電であるということ。発熱の30%ほどしか使用できておらず,残りの熱は海に排出している。そして海は,二酸化炭素を水のなかにためているが,これが温められて空気中に放出されてしまう。
また,そもそも冷たい水を温め生態系を破壊するもので,原発とは「海暖め装置」にほかならないということ。100万キロワットの原発の場合,1秒間に70トンの海水の温度を7度上げる。原発周辺の海が暖められていることはしっていたが,ここまでか,という事実を突きつけられると愕然とする。
「もんじゅ」がようやく仕分けの対象になりそうだが(あそこに費やしたカネを普通の発電所に投資していれば全然間に合っていたのに・・・),そもそも,六ヶ所村の再処理工場ですらテストの域を出ていないし,そもそも,保管もままならいゴミをつねに生み出すという仕組じたいが破綻しているというのがよく分かる。
註記)http://vamos11.exblog.jp/17047314/ (2012-01-08 02:24)
あるブログ(『ざまあみやがれい!』)における発言であった。東電福島第1原発からちょうど1年が経過した「2012年03月11日14:07 に投稿」〔公表〕した以下の文章をもって,原子力工学者で京都大学原子炉実験所の元教授だった山名 元(やまな・はじむ)を,こう批判していた。
★ 山名 元・京大教授はアホだろう。原発事故を
「アッパーカット」にたとえ,ダジャレで
原子力を守ろうとしている ★
「アッパーカット」にたとえ,ダジャレで
原子力を守ろうとしている ★
山名 元・京大教授はアホだろう。原発事故を「アッパーカット」にたとえ,ダジャレで原子力を守ろうとしている(『ざまあみやがれい! メールマガジン』vol.131)。僕は人をアホとなじることはあまりしたくないが,今回はしかたがない。京都大学の教授山名 元氏が,ボクシングをたとえに使って,これからの原子力について持論をぶっている。
補注)原発推進派の面々は,このように「アホ」だと罵倒されるような「〈お面〉をかぶっての演技をする」ことすら,まったくいとわない人生を過ごしている。彼らは「原発安全神話」がまかり通っていた時期も,福島第1原発に事故が発生した以後の時期も,自分たちの人生をこざかしくも有意義に生き抜いてきた。
彼らはどう転ぼうと,自身の利害最優先の生き方をするだけでなく,その生き方じたいを周辺に垂範してきた。ただし,子どもたちには絶対教えたくない彼らの処世術である。学者であるかぎり最低限は尊重し,敬意を払うべき真実からは「ずいぶん遠くに位置した場所」に居ながら,したがって科学・学問に従事する人間とは思えない人生の行路を歩んできている。
〔『ざまあみやがれい!』本文へ戻る→〕 この山名 元氏は,新原子力大綱の策定委員で,原子力業界から巨額の寄付を受けている人物だ。原子力業界から計1800万円寄付を受けていた「新原子力大綱」策定委員3人のいいわけが酷すぎる。巨額の寄付をうけていたことについて山名氏は,以下のように述べていた。
出所)画像は山名 元,http://www.sankei.com/column/news/141210/clm1412100001-n1.html
「原子力を前にすすめるための寄付なら受ける。癒着ではない。よい原子力のためには業界との協力は必要だ」。〔つまり〕「よい原子力」というものがあるのだという。いったい,なにが「よい原子力」で,なにが「悪い原子力」なのか。そして「普通の原子力」とはなにを指すのか。
勝手な価値観で,善悪があるかのように語り,言葉をもてあそぶ山名 元氏。このような安易な表現をしてふんぞり返っている人物に,巨額な寄付金を渡しつづけるお気楽な原子力業界には,未来はない。
その山名元氏が,先日,産経新聞で,またもや持論を展開していた。そのなかで,また,特殊な才能を発揮している。
註記)「【正論】震災1年に思う」,京都大学原子炉実験所教授・山名 元『MSN産経ニュース』。http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120309/dst12030903030001-n1.htm
a)「脱原発のボディーブローを防げ」 先日,福島第1原子力発電所を視察する機会をえた。1年前の危機的状況から格段に改善が進み,廃炉への長い道筋に向け修復作業が進みはじめていることがみてとれた。事故で不自由な生活を強いられてきた方々も,多くの困難に立ち向かいながら,生活の立て直しに向けた歩みを加速している。
b)「電力供給の余力ほとんどなく」 このように,現地における修復段階への移行を実感できたのであるが,対照的に,わが国のエネルギー戦略については,混乱から収束への道筋がみえない。福島県では,「アッパーカット」を食らいながらも立ち上がる底力と復興への意思が伝わってくるのに,国のエネルギー危機については「ボディーブローの影響」 がじわじわ進行しているようにみえるのだ。
以上,産経新聞と山名氏のコラボ作品である。福島第1原子力発電所の事故を「アッパーカット」を食らったという表現で表わしたがっている。それもどうかと思うが,そのレトリック〔表現の方法〕に乗っかって表現するならば,福島原発はディフェンスが甘かったということになる。
レトリックが甘い。このような容易なレトリック,しかも稚拙で,拙いレトリックを用いて,必死に原子力をかばおうとしているのだ。山名元 氏は,作家ではない。原子力の専門家だ。原子力の専門家ならば,科学的に論理的に原子力事故を振りかえって,今後の原子力について述べるに留めるべきだろう。
言葉も,正確で科学的な言葉を用いればよいのだ。なまじ,うまいことをいおうとするから,こんな稚拙な展開の文章になってしまうのだ。おそらく,とり巻きは,「アッパーカット」の表現をする山名 元氏に「うまいっすね!」「さすがっすね!」とかもちあげているのだろう。そういう土壌がなければ,このような恥ずかしいレトリックを新聞紙面で発表できるとは思えない。
つまらない芸人たちのとり巻きを眺めるときに感じる虚しさと売りふたつだ。大橋弘忠氏もそうだ。 --後略--
註記)http://blog.livedoor.jp/amenohimoharenohimo/archives/65794430.html
山名 元は,元京都大学原子力実験所教授で,専門はアクチニド化学,核燃料サイクル工学である。前段に登場した小出裕章が同じその実験所で助教(助手)の職員で定年を迎えたのとは対照的に,日本における原発事業の進展とともに,それも京都大学教授の立場から華やかに生きてきた人間である。
そしていまは,原子力損害賠償・廃炉等支援機構理事長として,東電福島第1原発の事故現場に関与している。原発に関係する著作もあるが,いずれも推進派の立場から書いている。
・『間違いだらけの原子力・再処理問題』ワック,2008年。
・『それでも日本は原発をやめられない』産経新聞出版,2011年10月。
・『放射能の真実-福島を第2のチェルノブイリにするな-』日本電気協会新聞部,2011年10月。
「福島を第2のチェルノブイリにするな」という副題には笑わされるが,「福島は福島で独自に,21世紀に原発の大事故を起こした《第1そのものである福島》になっている」のだから,そのような副題の表現「第2」をつけたのには,なんらかの含み:意図があったはずである。つまり,福島原発の大事故はチェルノブイリの原発大事故とは違うのだ,「たいしたとこではない」とでもいいたいらしいゆえ,まさに笑止千万の屁理屈である。
山名 元は,原子力村のピエロである。ただし,なかなかの演技派であって,高給とり,ギャラは相当に高い様子とみてとる。そこまでやるのだから……。
日本の原発事業はアッパーカットを食らい,ノックダウン状態に追いこまれていたのである(山名はそのセコンドの1人であったはず)。山名はまた,国のエネルギー危機については「ボディーブローの影響」 がじわじわ進行しているようにみえるといって,当時のまだ「火力発電に急に負担がかかっていた電力事情」を踏まえてなのか,自然再生エネルギー事業が進展する事実(時代の潮流)を,まともな理屈もなしに妨害したい意識を遠慮なく披露してもいた。
⑤ アーニー・ガンダーセン『福島第1原発-真相と展望-』集英社,2012年2月
本書は第2章「福島第1原発の各号機の状況」のなかで「前代未聞の汚染水」という項目を設けて,こう解説していた。
「今回の事故では,通常および非常用の冷却システムが機能し」ておらず,「溶融した核燃料は,圧力容器の底を通り抜けて格納容器の底へ到達してい」る。「冷やし続けるしかないので」ある「が,格納容器ごと水で満たすにしても破損した箇所から水が漏れ出してしま」っている。
「そこで,格納容器の底から浄化装置につなげてい」る。「仮にそのまま循環させてしまえば配管やポンプに誰も近づけなくなるほど,放射性が強い」。これは「誰も想定していなかった事態で」ある。
「1号機では底のどこかから水が漏れているだけでなく,側面にも穴が開いてい」て,「格納容器を水で満たすことはでき」ず,「しかも炉心は穴より高い位置にあり,冷却は非常に困難で」ある。
「格納容器が破損しているということは,水が圧力容器から流出しているだけでなく,格納容器から外に漏れているわけで」,「この状態が何年間も続き」「建屋地下の放射線量が高すぎて誰も近づけず,解決できない」。
出所)http://blog.livedoor.jp/amenohimoharenohimo/archives/cat_60249594.html
「冷却の問題は長期に及び」「3~4年が経ってようやく,空気中で冷ませる水準まで核燃料の温度が下がる」。しかし「それまでは水で冷やすほかに方法がなく,それは汚染水が漏れ続けることを意味し」ている。
「格納容器が破損し,建物の割れ目から汚染水が地下水へ流れこんでおり,止めることができ」ない。「いったん地下水に入ってしまった放射性物質を完全にとり出す術はなく,他の号機もで共通の問題で」ある。
註記)アーニー・ガンダーセン,岡崎玲子訳『福島第1原発-真相と展望-』集英社,2012年2月,51-52頁。
今日は2016年2月10日である。いずれにせよ,東電福島第1原発事故現場はいまも,ガンダーセンが予告したように「地下水に入ってしまった放射性物質を完全にとり出す術はない」ままにある。
新聞などマスコミは,福島原発事故現場の「放射能に汚染された地下水」の問題(凍土壁対策のこと)を,あれこれとりあげては報道してきているものの,その真相・実態については,このあとどのくらいの時間をかけていけば解決するのか,その見通しじたいがついていない事実を伝えているだけである。
本ブログ『社会科学者の随想』は,福島第1原発現場における汚染水問題を,なんどかとりあげてきた。その関連があっての今日の話題であった。
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