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祇園はテーマパークじゃない 訪日客急増の摩擦

三が日のさい銭に交じる外国紙幣。京都市内でインバウンドは急増しているものの、受け入れる地域との摩擦も起きている(4日、京都市伏見区・伏見稲荷大社)
三が日のさい銭に交じる外国紙幣。京都市内でインバウンドは急増しているものの、受け入れる地域との摩擦も起きている(4日、京都市伏見区・伏見稲荷大社)

 大量の日本円に、米ドル、中国人民元、タイバーツなど各国の紙幣が入り交じる。1月4日に行われた伏見稲荷大社(京都市伏見区)のさい銭開き。世界的な口コミサイトで国内観光名所として2年連続1位となり、境内は新年早々、訪日外国人(インバウンド)でにぎわった。

 外国語表記の地図や英語・中国語ができるアルバイトを置くことに加え、近く和式トイレの一部を洋式に替えるなど、外国人対応を進めてきた努力の結果でもあるが、岸朝次禰宜(61)は「少し外国通貨のさい銭は増えたが、全体の1%に満たないですよ」と冷静にみる。

 米国の有名旅行雑誌の世界人気都市ランキングで京都市が2014年から2年続けて1位になったのを機に、強まったインバウンド旋風。同年に市内の外国人宿泊者は過去最高の183万人に達した。だが、地域とのひずみや摩擦が生じている。

 特に宿泊施設の不足は著しい。京都文化交流コンベンションビューローがまとめた15年1月~10月の市内主要ホテルの客室稼働率は、客室がほぼ埋まる88・5%の高水準だ。観光最盛期の昨年秋、通常1泊1万円のホテルが4倍にまで跳ね上がるケースがあった。インバウンドや京都観光に詳しい立命館大の石崎祥之教授(観光マーケティング論)は「訪日客急増で需給バランスが崩れている象徴だが、異常事態だ。国際観光都市を目指すという割には多様な宿泊施設が整わず、インフラが不足している」と指摘する。

 客室の不足や価格高騰のあおりで、空き家などを提供する安い「民泊」利用が増えている。市が昨年12月に着手した調査では、専用サイトにはすでに最大1万人分が登録されている。民泊をめぐっては、旅館業法の許認可がないままの営業や、客によるごみのポイ捨て、深夜まで室内で騒ぐなど、近隣住民が被害を受けるケースが出ている。「市民が観光客を温かくもてなす京都の良さが失われかねない」(北原茂樹・京都府旅館ホテル生活衛生同業組合理事長)と懸念する。

 政府は訪日観光客数について「次なる目標は年間3千万人」(安倍晋三首相)と、東京五輪・パラリンピック開催の20年までに2千万人としてきた目標値を上方修正し、さらに多くの訪日客を呼び込む考えだ。

 昨年12月。「芸舞妓を触らない」「食べ歩きしない」。イラストで外国人にマナーを守るよう呼びかける高札が、東山区の祇園町南側の4カ所に立った。

 「祇園はテーマパークではない。舞妓さんをミッキーマウスのようなキャラクターと勘違いして扱う人がいる」。設置した祇園町南側地区協議会の高安美三子会長(75)は、インバウンド急増で京都文化の一翼を担う花街の風情が失われ、なじみ客が立ち寄りにくくなることを危ぐしている。「芸舞妓が追いかけられたり、勝手にお茶屋や置屋に入り込んでカメラを向けられたり、かなり怖い思いをしている。『祇園は観光地ではない』と宣言をしようか、という意見が内部では出ています」とついため息が漏れる。

■「爆買い」光と影

 訪日外国人(インバウンド)は、京都でさらに増えそうな勢いだ。政府が公表した2015年のインバウンド総数は1900万人を突破。19年ラグビーW杯など国際的なスポーツ大会の開催のほか、アジアの経済成長や円安を背景に、中長期的にインバウンド増加が続くという予測が多い。

 仮に20年に国内3千万人に達すれば、過去の統計を参照すると、京都市内の外国人宿泊者数は20年に最大で約400万人と、現時点から倍増すると推計できる。

 京都市は、観光を人口減少でも伸びる成長産業と位置づけ、20年度までの観光振興計画で「世界があこがれる観光都市」を目指す。インバウンド増加に伴い、外国人観光客1人当たりの観光消費額は、14年に12万4千円と前年から約4万円伸びた。

 観光分野が市内総生産額に占める割合は1割程度だが、同年に約7600億円と前年から約620億円増え、宿泊や土産関連を中心に経済効果を及ぼしているのは確かだ。

 ただ、急増したインバウンドに対し、祇園の飲食店主は「無料で見学できるから訪れている人が多い印象だ。お金を落とさないのに、トラブルに悩まされる。外国人はお断りしたいと思うこともある」と漏らし、恩恵のある地域や業種に限りがあると指摘する。

 市も対策に乗り出す。買い物環境の整備に向けて免税店数の拡大を呼びかけ、15年10月には前年から3倍の千店に。訪日数の増加が著しい中国系は「爆買い」を期待できる半面、マナートラブルも多く、「社寺では大声で騒がない」「畳に土足で上がらない」と注意を促す中国語の冊子を各所で配布している。

 地域の「光を観る」という観光の語源に立ち返れば、市として京都の伝統や文化と外国人をつなぐ橋渡しを行い、市バス混雑など市民生活の負担減にも力を入れないと、輝きは色あせる。

【 2016年01月22日 08時40分 】

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