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【私説・論説室から】

悲しみ探す猫

 「一人泣く子はいねが〜」。漫画家の深谷かほるさんが毎日、ツイッターで更新する8コマ漫画「夜廻(まわ)り猫」が心に染みる。主人公はどてらを着た猫、遠藤平蔵だ。人知れずつらい思いをしている人を探し出し、助ける。

 「むっ。涙の匂い…!」。第九十話で遠藤は橋の上にたたずむ高校生、卓也を見つける。大学入試センター試験で「国立に入れるぐらい点数とれた」と親にウソをついたという。「親は貯金全部使って、塾に行かせてくれたのに…。地元の国立でなきゃ進学できない。今さらまともな就職はない。一家で生きていけなくなるかも」と卓也は打ち明ける。

 遠藤は「一緒に言おう。おまいさんは悪くない」と励まし、卓也の家に行き土下座する。父親は言う。「卓也が生きていけないとすれば世の中がおかしいんだ。嘘(うそ)つかせてごめんな」。窓の明かりを背景に遠藤は「安心しながら、生きられますように」と祈る。

 百回を超える連載の中で遠藤は、貧しさからいじめにあう高校生や、上司のパワハラに心の中で泣くサラリーマンに寄り添う。

 翻って現実の社会は、殺伐とした空気が広がっているように感じる。本紙の読者投稿で見かけるのは、バスの中で泣く五歳児に「うるさい」と怒鳴る高齢男性。レジで会計に手間取る体の不自由なお年寄りの買い物かごを無造作によける若い店員…。この世の中に遠藤は、どこにいるのだろう。 (上坂修子)

 

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