これは良いニュースか、悪いニュースか。多くの人がそれさえ理解できないまま、おぼろげな不安だけを感じたのではないか。長期金利の指標となっている10年物国債がきのうの市場で初めてマイナスになった。

 本来なら正常な取引でマイナス金利はありえない。お金を貸した者が借りる者に金利を払うくらいなら、自分でお金を抱えている方が減らないだけましだからだ。

 にもかかわらずこんな異常な金利が生じたのは、先月29日に日本銀行が発表した「マイナス金利政策」の影響である。

 日銀の黒田東彦総裁は、これまで実施してきた大規模な量的緩和政策にマイナス金利政策を加えることで「これまでの中央銀行の歴史の中で、おそらく最も強力な枠組み」になると強調した。

 その狙いはある意味で想定以上に効果を発揮した。もともと歴史的低水準にあった住宅ローン金利は一段と下がった。わずかばかりの定期預金金利もさらに圧縮された。金融機関は利回りの魅力が乏しいファンド商品の発売を取りやめた。

 だが、こうした動きが日本経済を好転させるのかといえば、むしろ逆ではないか。

 貸出金利が一段と下がったとしても、国内需要が盛り上がりを欠く中で、企業が急に投資意欲を増すとは考えにくい。銀行が預金金利をゼロに近づけ、さらにマイナス金利にしたとしても、先行きへの不安が解消しないのに人々が急に消費に走るわけでもなかろう。

 マイナス金利政策で先行するスイスやスウェーデンなどでも景気浮揚効果はほとんどなかった。むしろタンス預金の増加や銀行の収益悪化といった副作用のほうが心配されている。

 強力な金融緩和が経済を押し上げるというアベノミクス路線に乗って走り出した黒田日銀の異次元緩和も開始からまもなく3年になる。円安と株高はもたらしたものの、経済成長率や物価はほぼ横ばいで目立った効果はうかがえなかった。その手詰まり感からマイナス金利政策にも手を広げることになった。

 きのうの日経平均株価は900円超下げ、円は一時1年3カ月ぶりの円高ドル安の1ドル=114円台前半をつけた。これまでの緩和策への反応とは逆である。これは日銀にとっても想定外の異常事態ではないのか。

 このままでは超金融緩和を続けないと回らない経済へと、はまっていきかねない。出口はますます遠くなるばかりだ。早急に政策の見直しが必要だ。