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[FT]アルゼンチン債務問題に解決の時(社説)

2016/2/9 14:30
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 アルゼンチンが史上最大のデフォルト(債務不履行)に陥ってから実に14年、債権者にとって解決の見通しがひょっとすると視界に入ってきた。

 昨年12月にアルゼンチン大統領に就任したマウリシオ・マクリ氏が、2005年と10年の債務再編に参加することを拒否した「ホールドアウト債権者」に対し、90億ドルの債務に約65億ドルを返済するという提案をした。

 約25%の減免となるこの提案は過去の債務削減よりも緩やかだ。これは、ホールドアウト債権者の強力な法的地位を反映している。彼らは米国の裁判所から、アルゼンチンは返済をしなければ世界の資本市場から実質的に閉め出されることになるという判決を得ている。

米国の債権団と協議を終えたアルゼンチンのカプート金融長官=中央(5日、ニューヨーク)=ロイター
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米国の債権団と協議を終えたアルゼンチンのカプート金融長官=中央(5日、ニューヨーク)=ロイター

 身代金を払わされるのは腹立たしいことに違いないだろうが、マクリ政権がこの提案をしたことは正しい。今のところ、特に戦闘的なエリオット・マネジメントを筆頭にホールドアウト債権者のうちのどれだけが提示条件、あるいはそれに近い条件を受け入れるのかははっきりしない。もし彼らが全額返済、あるいは債務削減の大幅な縮小を要求すれば、マクリ氏の立場は一層困難になり、その決断はさらに繊細に揺れるだろう。

 アルゼンチンがこの状況に至った背景には、米ニューヨークの判事が国債に関する「パリパス条項」(すべての債権者を平等に扱うことを定めた契約内容)に基づいて下した常軌を逸したのに近いような創造的判決がある。この判決と米国法の域外適用により、アルゼンチンは国際債券投資家から切り離されている。

 むろん、この債務を解消した場合でも、アルゼンチン政府は再び借金の積み重ねに走るべきではない。しかし、国際金融システムにおける地位を正常化することは、経済的な正気に戻っていく旅の大きな一歩になる。

■最近160年間で最も妥当な経済政策打ち出す

 アルゼンチンのホールドアウト債権者に対する苦労は今に始まったことではないが、この問題には現在、過去14年間のほぼどの時期よりも大きなものが懸かっている。マクリ政権発足後のアルゼンチンでは、おそらく1853年の共和国誕生後の歴史を通じて、最も際立った形で妥当な経済政策が次々に打ち出されている。

 マクリ政権は即座に資本規制を撤廃して通貨ペソの約30%の減価を可能にし、政治利用されていた中央銀行と国家統計局の独立性を回復させた。マクリ氏は勇敢にも、昨年時点で国内総生産(GDP)のほぼ8%に達した財政赤字の大きな要因となっている的外れな手厚いエネルギー補助金の解体にも着手した。

 現在のところ、このような施策がもたらしている痛みにもかかわらず、マクリ政権は人気を保っている。しかし、10年以上にわたりアルゼンチン政府を人質に取り身代金を要求してきたホールドアウト債権者への全額返済は、財政だけでなく政治的にも高くつくことに疑問の余地はない。また、国外の投資家は当然の疑問として、資金面でも法的手段の面でも豊かで手に負えないホールドアウト債権者が、なぜ早期に協力した投資家よりもずっと大きな返済を受けるべきなのかと問うことになるだろう。

 2001年のデフォルト以後初めて、アルゼンチンはホールドアウト債権者が取引を交わすことのできる賢明な政府を得ている。実際、米国の裁判所がホールドアウト債権者にかくも強力な武器を与えたのは、過去のアルゼンチン政府の理不尽さに基づく部分があった。ホールドアウト債権者と彼らを支持した裁判所は、アルゼンチン政府の姿勢が変わったことを認識し、今回の提案を軸に合意に向かうべきだ。

 これまでアルゼンチンの経済政策は高慢と滑稽の間を揺れ動いてきた。しかし、だからといってアルゼンチンが人質にされることは正当化されない。新政権が堅実で正当な基盤の上に経済政策を据えようとしている時には、なおのことである。マクリ氏が今回の提案をしたことは正しい。ホールドアウト債権者は、それを受け入れるべきだ。

(2016年2月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.


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