オデッセイ」公開記念 火星のことならこれを読め!

2月5日の「オデッセイ」公開を記念して、SFマガジン2016年2月号に掲載した「火星SFガイド」を再録! 火星をテーマにした海外・国内のSF作品を刊行年順(海外作品は原著の刊行年)に並べました。「オデッセイ」で火星SFに興味をもったみなさま、これを読めば火星のことはわかったも同然! ……のはず。

《火星》シリーズ エドガー・ライス・バロウズ(1917~1964)厚木淳訳 Barsoom
 火星を舞台にした古典といえば、本作は外せまい。主人公が活躍できる理由や惑星改造ネタといった随所の科学的な視点が興味深く、登場人物たちは脇役にいたるまで生き生きと描かれている。 (片)

『火星の黄金仮面』O・A・クライン(1933)井上一夫訳 The Outlaws Of Mars
 著者はパルプ時代の人気作家。アメリカ陸軍中尉が、タイムマシンで百万年前の火星に転移、黄金仮面との抗争を経て王女を射止める。当時流行したバロウズの亜流ながら、手練れた読みやすさがある。 (岡)

『沈黙の惑星を離れて マラカンドラ』C・S・ルイス(1938)中村妙子訳 Out of the Silent Planet
 地球の言語学者が生け贄として拉致され、火星へと辿り着く。そこは知的異生物が存在し、鮮やかな色彩に満ちた美しい世界だった。異言語を知ることで異文化理解を進めていく言語SFでもある。 (冬)

『火星兵団』海野十三(1939)
 蟻田老博士は独自の発見から火星兵団が地球を征服に来ると警告するも精神異常と思われ、病院に入れられてしまう。しかし火星人は実際に地球に襲来し—火星と地球の闘いをハードに描く侵略SF。 (冬)

『レッド・プラネット』ロバート・A・ハインライン(1949)山田順子訳 Red Planet
 火星への植民が進む未来。ジム少年は普段なら住居が分かれ交流を持たない火星生物と信頼関係を築き、火星開拓民を脅かす陰謀を知ってしまう。異文明との交流と冒険を描いたジュブナイルSF。 (冬)

『火星年代記』レイ・ブラッドベリ(1950)小笠原豊樹訳 The Martian Chronicles
 北米開拓をなぞらえたフロンティア、あるいは未来において怪奇幻想の宿る最後の地。26篇の短篇を重ね、地球人や火星人、機械や怪物の視点から多様な味つけでブラッドベリの火星を描き出す。 (坂)

『火星の砂』アーサー・C・クラーク(1951)平井イサク訳 The Sands of Mars
 火星探査を終え、本格的に植民を目指す移民船の搭乗員にSF作家のギブスンが選ばれる。過酷な火星環境をSF作家(ギブスン)ならではの想像力を駆使してドキュメンタリータッチで描いていく。 (冬)

『リアノンの魔剣』リイ・ブラケット(1953)那岐大訳 The Sword of Rhiannon
 火星の遺跡を調査していたカースは、思わぬ事故によってはるか昔の時代にタイムスリップしてしまう。水で満ちた火星のパノラマが美しく、ヒロインのツンデレぶりにもニヤニヤが止まらない。 (片)

『火星人ゴーホーム』フレドリック・ブラウン(1955)森郁夫訳 Martians, Go Home
 突如、世界中に現れた緑の小人たち。絵に書いたような火星人像そのままの姿の彼らは神出鬼没で傍若無人。ただただ迷惑な「火星人」に振り回される人類の姿を描いたスラップスティック群像劇。 (坂)

『宇宙人フライデイ』レックス・ゴードン(1956)井上一夫訳 No Man Friday
 実験ロケットの事故で一人の男が火星に不時着する。僅かな資源で熱機関と水と酸素を作り、電動モータで電気を起こし、過酷な火星環境を科学知識でサバイバルしていく『火星の人』の先駆的な作品。 (冬)

『火星にさく花』瀬川昌男(1956)
 五十代後半以上の元少年少女なら、本書をよく覚えているだろう。2034年、独立を目指す火星は、太陽系をよぎる惑星級天体を捕らえようとする。著者ならではの、正確な科学解説も過不足がない。 (岡)

『ダブル・スター』ロバート・A・ハインライン(1956)森下弓子訳 Double Star
 失業俳優ロレンゾは顔が似ていたことから火星で政治家の替え玉を引き受けることに。やる気もないまま権力をふるうが、やがて自分なりのヴィジョンを獲得し、本物の政治家となる覚悟を決める。 (冬)

『異星の客』ロバート・A・ハインライン(1961)井上一夫訳 Stranger in a Strange Land
 火星で保護された青年の正体は、失敗した探検船クルーの子だった。だが彼は火星人に育てられたためか、地球人とは異なる死生観を持っていた……。火星の過酷な環境が本作の基礎にある。 (片)

『恐怖の火星争奪戦』リイ・ブラケット(1961)五味寧訳 The Nemesis from Terra
「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」の脚本家でも知られる著者の初SF長篇。太古からの種族が住む火星に、採掘権の独占を目指す企業が進出、そこで一人の地球人が、予言により抵抗の指導者となる。 (岡)

『火星のタイム・スリップ』フィリップ・K・ディック(1964)小尾芙佐訳 Martian Time-Slip
 古代文明の残した運河には泥とヘドロが流れ、地球からの移民が慢性的な水不足に苦しむ暗黒のフロンティア、火星。そこは分裂病の少年の内的世界と重ねあわされ、さらなる悪夢へ落ち込んでいく。 (坂)

《火星の戦士》(『野獣の都』『蜘蛛の王』『鳥人の森』)マイクル・ムアコック(1965)矢野徹訳 Warriors of Mars / Blades of Mars / Barbarians of Mars
 物理学者ケインは物質移送機の実験によって巨人や人間が国家を作り戦争をする太古の火星へと飛ばされてしまう。ケインは科学知識と勇気を武器に、戦争の英雄として活躍していく。痛快冒険活劇。 (冬)

『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』フィリップ・K・ディック(1965)浅倉久志訳 The Three Stigmata of Palmer Eldritch
 火星開拓者たちは幻覚剤と人形によって共有された幻覚を構築し、過酷な現実から逃避していた。謎の男パーマーが持ち込んだ新式幻覚剤を巡る策謀の中で、現実か妄想か人類の変革が垣間見える。 (坂)

『シャーロック・ホームズの宇宙戦争』マンリイ・W・ウェルマン&ウェイド・ウェルマン(1975)深町眞理子訳 Sherlock Holmes Versus Mars
 コナン・ドイルの生んだ二人のヒーローが、ロンドンに現れた火星人の歩行機械に立ち向かう。巧みに取り入れられたホームズものの小ネタが楽しく、チャレンジャー教授による後日談もみごと。 (片)

『スペース・マシン』クリストファー・プリースト(1976)中村保男訳 The Space Machine
 偶然タイムマシンに乗り込んだ19世紀の英国人男女が辿り着いたのは火星だった。ウエルズへのオマージュを込めた冒険活劇であり、19世紀の視点で語られる火星人社会は20世紀の風刺でもある。 (坂)

『マン・プラス』フレデリック・ポール(1976)矢野徹訳 Man Plus
 過酷な環境の火星に植民するため、サイボーグ技術が実験される。だが火星での活動が優先された結果、主人公は悪魔じみた姿となり、心も人からかけ離れていく。ひねりの効いたラストも良い。 (片)

『マーシャン・インカ』イアン・ワトスン(1977)寺地五一訳 The Martian Inca
 火星の土を採取して帰還した探査機が南米山中に墜落。接触した現地人は認知思考力が拡大し、人々を扇動しインカ帝国再興の火種となる。一方そのころ、火星探検隊にも同様の変化が起きていた。 (坂)

『二重の影』フレデリック・ターナー(1978)大瀧啓裕訳 A Double Shadow
 はるか未来の火星を舞台として、愛と裏切りに満ちた物語が紡ぎ出される。惑星改造後に作られた火星の文化や、鮮やかな色彩感覚が良い。語り手の設定から枠物語として読んでも面白いだろう。 (片)

『火星戦線異状なし』(ビッグ・ウォーズ2)荒巻義雄(1979)
 宇宙に進出した人類と、かつて彼らを創造した「神」との戦争を描く《ビッグ・ウォーズ》の第二巻。スパイ戦と最前線の火星での戦闘がメインだが、随所に挟まれる火星発展史も読みどころだ。 (片)

『反在士の鏡』川又千秋(1979)
 開発の進む火星へと降り立ったライオンを自称する男は、二勢力の抗争により故郷を滅ぼされた復讐者だった。観念を操作する技により虚と実が入り乱れた戦闘が展開する幻想的なスペースオペラ。 (冬)

『火星人先史』川又千秋(1981)
 テラフォーミング中の火星植民地で労働力として導入された改造カンガルー。彼らは自らを火星人と定義し、人類に反旗を翻した。イマジネーションが刺激される、『火星年代記』への返歌だ。 (片)

《ビッグ・ウォーズ枝篇》(『神撃つ朱い荒野に』『精霊荒野に咽きて』『響かん天空の梯子』)荒巻義雄(1981~1998)
 神々と人類の戦いを描いた《ビッグ・ウォーズ》の外伝的作品群。火星植民地を舞台に、その始まりと発展、及び戦争が語られる。各作には有機的な繋がりがあり、大河小説的な面白さもある。 (片)

《火星三部作》(『あなたの魂に安らぎあれ』『帝王の殻』『膚(はだえ)の下』)神林長平(1983~2004)
 火星への植民を背景に、現実と幻覚の境界や、人とは似て非なるアンドロイドたちとの関係の揺らぎが描かれる。人類が絶対者として振る舞えない、特殊な環境がひと役買っているといえよう。 (片)

『火星甲殻団』『ワイルドマシン』川又千秋(1987/1989)
 テラフォーミングが途中放棄された火星。人間は知性を持つ作業機械と共生し、毎日を生き残るため悪戦苦闘している。泥臭いアクションとともに、機械の自意識というテーマが楽しめる作品だ。 (片)

『火星人類の逆襲』横田順彌(1988)
 英国侵略に失敗した火星人が、今度は帝都東京に攻め込んできた。この未曾有の危機に、押川春浪ら当時の人物が立ち向かっていく。史実と空想の巧みな融合、火星人の正体と目的が読みどころ。 (片)

『火星夜想曲』イアン・マクドナルド(1988)古沢嘉通訳 Desolation Road
 荒野に生まれた小さな町が、革命戦争に巻き込まれ消えていくまでの半世紀。悪魔や革命家が行き交い、愛憎劇が生じ、クローンや電脳技術が魔法のように扱われる、幻想の火星が濃密に描き出される。(坂)

『赤い惑星への航海』テリー・ビッスン(1990)中村融訳 Voyage to the Red Planet
 ハリウッドが映画撮影のために中止された火星有人飛行計画を再スタートするという異色の宇宙開発SF。SF的大ネタも用意されているが、火星への長い旅をメインにすえたほのぼのとした一作。 (坂)

『火星の虹』ロバート・L・フォワード(1991)山高昭訳 Martian Rainbow
 火星遠征軍を組織した国連は、火星各地に築かれた新生ソヴィエト連邦の基地を急襲する。当時最先端の科学知識と火星開発計画の詳細を物語の背景に盛り込んで、精緻に火星移民と宇宙戦争を描く。 (冬)

『昔、火星のあった場所』北野勇作(1992)
 会社勤めと鬼退治や化け狸が入り交じる不思議な日常を描きながら、その端々から自己増殖機械を用いた火星開拓計画とその悲劇的結末が透けて見える。喪失を抱えながら生きていく北野SFの原風景。 (坂)

『レッド・マーズ』『グリーン・マーズ』キム・スタンリー・ロビンスン(1992/1993)大島豊訳 Red Mars / Green Mars
 21世紀、植民船を送りこみ人類は火星を生存可能な環境へと変える闘いを開始する。火星での軌道エレベータ建設やそこで起きるテロまでをリアルに描いた傑作だが完結篇 Blue Mars は未訳。 (冬)

『火星転移』グレッグ・ベア(1993)小野田和子訳 Moving Mars
 22世紀、火星へ移民した人々は最先端技術を手に入れていた。一方地球は行き詰まりを感じ、火星の従属化を図るが……。政治ゲームを描くかと思えば最後は予想だにしない光景を見せてくれる。 (冬)

『火星縦断』ジェフリー・A・ランディス(2000)小野田和子訳 Mars Crossing
 雄大な火星の情景とともに、探検隊のサバイバルが活写される。主な筋立ては帰還船までの移動で、情景描写は過酷かつ迫力満点。複数人ならではのサスペンス展開もあり、読んでいて飽きない。 (片)

『イリアム』『オリュンポス』ダン・シモンズ(2003/2005)酒井昭伸訳 Ilium / Olympos
 火星の最高峰オリュンポス山をギリシャ神話の神々の世界オリュンポス山と重ね、未来の火星で謎の存在が神や英雄となってトロイア戦争を演じる。神話からSFまで自在に引用したスペクタクルだ。 (坂)

『火星ダーク・バラード』上田早夕里(2003)
 局所的なテラフォーミングにより火星移民を果たした社会で、人類を進化させんとする計画が進行していた。種としての進化と自由を問い、火星を超えその先へと向かう意志を感じさせる骨太な作品だ。 (冬)

『火星の挽歌』(《タイム・オデッセイ》)アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター(2008)中村融訳 Firstborn
 2069年、人類は異星生物による宇宙論的兵器が地球へ向かっていることを知る。対抗手段はなく滅亡寸前のそのとき、火星人への救援信号を送るが……。太陽系全土を巻き込むスケールが圧巻だ。 (冬)

『量子怪盗』ハンヌ・ライアニエミ(2010)酒井昭伸訳 The Quantum Thief
 宇宙監獄を脱した元太陽系一の怪盗は、まず己の記憶を取り戻すべく火星の移動都市を目指す。ポスト特異点の超技術を基礎に築かれた理想都市に潜んだ陰謀が、怪盗の帰還とともに動き始める。 (坂)

『火星の人』アンディ・ウィアー(2012)小野田和子訳 The Martian
 火星探検隊の一人が、撤収の際に事故で置き去りにされてしまう。環境の厳しさ、惑星上に自分だけという悲惨な状況に直面しつつも、ユーモアを失わずサバイバルを頑張る主人公の姿が感動的だ。 (片)

『クリュセの魚』東浩紀(2013)
 24世紀、異星文明が遺したワームホールゲートが発見され火星と地球の行き来は容易になるが、地球では火星植民地化を望み対立が勃発。激動の異星間政治を少年と少女の恋愛を通して描いていく。 (冬)

『レッド・ライジング 火星の簒奪者』ピアース・ブラウン(2014)内田昌之訳 Red Rising
 植民の進んだ火星では、資源採掘者を最下層とする階級制が取られていた。その状況を打破するため、一人の少年が過酷な戦いに身を投じる。火星労働者の悲惨さを描く序盤は非常に濃厚である。 (片)

『エクソダス症候群』宮内悠介(2015)
 火星植民地の精神病院にて、新任医師は流行病との孤独な戦いを強いられる。火星という荒涼とした空間の中で精神医学の歴史が語られ、静謐さと荒々しさのコントラストが読者を圧倒していく。 (片)

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コメント

aki_nao  おお、後で参考にしよう 約2時間前 replyretweetfavorite

yuusakukitano これは『昔、火星のあった場所』のなかなかうまい紹介だと思う。なるほどなあ。https://t.co/m83sc9OilI 約3時間前 replyretweetfavorite

RappaTei SFマガジン「火星SFガイド」、cakes版では雑誌版で取りこぼされていたイアン・マクドナルド『火星夜想曲』レビュウが補完(執筆は坂永雄一)されているので要チェックだ! https://t.co/F0VKvmxheE 1日前 replyretweetfavorite

gern 火星SFガイドなんじゃ。 https://t.co/rfPwDd817y 1日前 replyretweetfavorite