itou - アイデア発想術,仕事術,働き方,生産性向上 11:00 PM
解決策ではなく、「質問」をブレインストーミングする
99u:スタートアップ企業を立ち上げたり、顧客から相談を受けたとき、あなたはまず何をすることから始めますか?
あなたがかつての私みたいな人間なら、問題解決に向けてただちに行動を起こすことでしょう。持てる創造力をすべて注ぎ込んで、すばらしい解決策を創りだそうとするはずです。なぜそうするのでしょうか? 私たちは創造が大好きであり、創造こそが自分に活力を与えてくれるからにほかなりません。しかし、ここに落とし穴があります。問題解決に臨むとき、何が問題であるのかはもうわかっていると決めつけてしまうことです。解決のための解決が、プロジェクトの初期にやるべきことなのでしょうか?
ある銀行から、ユーザーの満足度とエンゲージメントを向上させるために、モバイルアプリを作りたいとの相談があったとします。あなたはただちにワイヤーフレーム作りにとりかかりますか? 「問題発見」のプロセスを経ることで、本当に取り組むべき、より込み入った問題が明らかになることも多々あります。たとえば、銀行と顧客との主要なタッチポイント(接点)であるATMは使いやすくなっているでしょうか? カスタマーサービスは低下していないでしょうか? フィジカル(物質)とデジタルを統括する戦略は存在するでしょうか?
私の製作会社におけるこれまでの仕事を振り返ると、クライアントや同僚が、私たちのチームに、あらかじめ決められた問題を押し付けてきた事例をいくらでも挙げることができます。
しかし、今にして思えば、こうした問題のほとんどは、解決するには定義があいまい過ぎるか、近視眼的過ぎるものばかりでした。業界の有名な格言に、ユーザーは問題を嗅ぎつけるのは得意だが、正しい解決策にたどり着くのは苦手だというものがあります。私たちが変えるべきだったのは、新しいプロジェクトへの取り組み方だったのです。
簡単に言えば、解決すべき最初の「問題」とは、「本当の」問題をあぶり出すことなのです。
私たちはなぜすぐに行動を起こそうとするのか?
絶え間なく変化する世界に住んでいるせいか、私たちは、ただちに解決策を提示してくれる人をほめたたえる傾向にあります。そうした早急な解決策は、一見、論理的で、うまくいきそうに見えます。しかしそれは、空腹のときに一番近くにある食べ物に手を伸ばすのに似ています。食べるものは慎重に選ぶほうが身のためなのは言うまでもないことです。
私たちはどうしてこれほど、スローダウンし、問題を問い直すことを避けたがるのでしょうか? おそらく、スローダウンすると権威者をおこらせたり、弱さの現れだとみなされたりしてしまうからでしょう。
しかし、新しい問題に取り組むときに、立ち止まって精査することなく進み続けるのは、とても危険なことでもあります。問題をきちんと消化するプロセスを経なければ、創造性も制限され、解決策の射程も狭くなってしまいます。
心理学者のJacob W. Getzels氏とMihaly Csikszentmihalyi氏(ふたりは40年以上、創造性について研究している)が行った研究により、業界のトップに立つ人たちは、優れた問題を設定する能力があることがわかりました。
では、あなたが次に取り組むプロジェクトに「問題発見」プロセスを導入するにはどうすればいいでしょうか?
ステップ1:一歩下がって、現状分析を行う
銀行のモバイルアプリの事例に戻りましょう。直感だけに頼らず、問題をよく吟味するにはどうすればいいのでしょうか? 「本当の」イシューを見つけるにはどのようなステップを踏めばいいのでしょうか?
問題を与えられたら、私はまず一歩下がって、問題を分解することから始めます。与えられた問題の周囲にあるネガティブスペースに目を凝らして、問題の生態系を把握しようと努めます。
問題を調査する方法として、たとえば以下が挙げられます。
- その問題の根底にある前提を問い直す(自分自身の考えも含めて)。
- 受け手のニーズをより詳しく理解する。
- 全体像は? 問題の広範囲の影響をつかむ。
- 周囲の人々がそれぞれに問題をどのように受け止めているかを深く理解する。
- その問題に関してこれまでに試みられてきたことを把握する(何かあれば)。
- 現在問われている論点を問い直す。
Instagramの共同創設者、Kevin Systrom氏は、スタンフォード大学の講義の中で、このプロセスを詳しく解説しています。
Instagramを始めるとき、彼と共同創設者は、腰を下ろして、当時のモバイル写真アプリが抱えている問題点を「すべて」書き出してみました。すると、モバイル写真に関する最大の問題点は、パっとしない写真、長いアップロード時間、貧しいシェア機能であることがわかりました。これらの問題にフォーカスして、ふたりはモバイル写真の流れを一変させるアプリを設計したのです。
同じプロセスを銀行アプリの事例にあてはめてみます。まず、顧客満足の向上に関して、銀行がこれまでにどんなことを試してきたのかを調べることから始めます。チーム全員で、その銀行が現在提供しているデジタルツールを試用し、観察結果を書き出していきます。
ほかにも、顧客満足度が低下している理由を分析するために、次のような情報をあたってみることができます。一般的な顧客は支店でどれくらいの時間を過ごしているのか? 毎月どれだけの顧客がATMを使っているか? 最近の12カ月ではどうか? 貯蓄と負債に関して、顧客の状況はどうなっているか?
ステップ2:質問をブレストする
現状分析が終わったら、ブレインストーミングに入ります。通常、ブレインストーミングはたくさんの解決策を生み出すために行いますが、ここでは逆のことをします。質問をブレインストーミングするのです。(解決策ではなく)質問を生み出そうとするとき、人はより自由に、より創造的に思考します。そこは、完璧な解決策を思いつくことを要求されない場であるからです。
Warren Berger氏のすばらしい著書『A More Beautiful Question』で紹介されている、The Right Question InstituteのQTF(質問形成テクニック)は、高品質の質問を大量に生み出すためのシンプルなフレームワークを提供しています。
- セッションリーダーを任命する。
- セッションリーダーは質問の焦点となる領域を設定する(「モバイル写真の未来について」など)。
- チームは、10分間を使って、できるだけ多くの質問を生成する(「何が...を阻害しているのか、何が...を止めているのか、なぜ...なのか)。
- 次の10分間で、メンバーでペアを作って、お互いが出した質問をシェアし、ブラッシュアップする。
- 各ペアは、次の5分間を使って、出された質問に優先順位をつけ、チームにプレゼンする。
- チームはその中から探求したい質問を3つ選び出す。
チーム全体で50くらいの質問は簡単に生成できるはずです。そこから3つに絞ります。
たとえば、「銀行における顧客満足および顧客体験の未来」のブレインストーミング・セッションなら、以下のような質問が出てくることでしょう。
- 私たちの銀行を真にデジタルファーストにするために、アプリを作るより大切なこととは?
- 現在の慣習を破りつつ、顧客の基幹的なニーズに答える、まったく新しいサービスとはどんなものがありえるか?
- 私たちの銀行で将来の収入源となるものは何か?(たとえば、ATMまで行かなくても現金を宅配してくれるサービスなど)
ステップ3:問題を定義し、問題解決を始める
今あなたは、チームとパートナーを奮い立たせる、示唆に富んだ3つの質問を手にしています。これらの質問について実験したり、参考文献を調べたり、調査を行ったり、ディスカッションに使ったりできます。
さらに、3つの質問から得られた情報により、最終的な問題ステートメントを導き出せるはずです。問題ステートメントとは、あなたとチームが取り組むべき問題を、明白かつ簡潔に記述した文章です。
問題ステートメントは以下の形式をとります。
- ビジョン:その問題が解決されたら、世界はどうなるか?
- イシュー・ステートメント:特定のイシューを使ってその問題をどう説明するか?
- メソッド:どうやってその問題を解決するか?
Instagramの例をあてはめると、問題ステートメントは次のようになります。
- ビジョン:ユーザーの写真すべてが、私たちのアプリに円滑にアップロードされ、どれも非常に美しく見える。どの写真も、いかなる障害もなく、コメントをつけたり、共有したりできる。
- イシュー・ステートメント:現在、あまりに多くのアプリが、写真家の視点が欠如した貧相な写真であふれている。また、写真をアップロードしたり、テキストメッセージで送ったりするのに多大な時間がかかっており、そのことが友人や家族と写真をシェアするのを難しくさせている。
- メソッド:私たちは人間中心設計プロセスで、ユーザーの最終的なニーズを発見する。リーンメソッドが製品を継続的に改善するのを助けてくれる。
銀行アプリのステートメントは次のようになるかもしれません。
- ビジョン:私たちは重要顧客のエンゲージメントと満足度を向上させるデジタルツールを必要としている。
- イシュー・ステートメント:デジタルツールが欠けているせいで、ほかの銀行や新興企業の後塵を拝している。特に、人々が普段使っているようなデバイスやツールに訴えかけるために、サービスをもっとデジタルにフォーカスしたものにする必要がある。
- メソッド:私たちは、高額支出顧客とのコンタクトを回復するための、もっとも効果的な道筋を見つけ、再活性化する。また、私たちが持つ設計専門知識をユーザーリサーチに活かし、顧客体験における障害を取り除く。
問い続け、好奇心を持ち続けること
私は頭が良いわけではない。ただ人よりも長い時間、 問題と向き合うようにしているだけである。
アルバート・アインシュタイン
問題発見は、あらゆる業界のクリエイターにとって不可欠なスキルと言えます。問題発見のプロセスが、皆が単純に見逃しているたくさんのドアを開けてくれます。
飽くなき好奇心、見分けにくいものを見分ける能力、問い続ける意志。こうしたものが、今日の変わり続ける世界を生き抜くために必要な、問題発見スキルを構築する基礎となります。
Brainstorm Questions, Not Solutions|99u
Levi Brooks(訳:伊藤貴之)
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