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【社説】

最後の一般教書 オバマ流を貫くべきだ

 残り任期一年のオバマ米大統領が最後の一般教書演説をした。過激派組織「イスラム国」(IS)掃討などの長期的課題を挙げる一方で、多様性の大切さを訴える。理想に一歩でも近づいてほしい。

 大統領は「次の一年だけでなく、五年、十年、さらにそれ以後に焦点を当てたい」と述べ、任期中にとどまらない長期的な課題を語るのに時間を費やした。

 外交の最優先課題にIS対策を挙げ、「米国と世界の直接的な脅威。殺人者、狂信者らは根絶されるべきだ」と訴えた。勢力を拡大しテロを繰り返すIS、ISを生む土壌となったシリア内戦、増大する難民など、国際社会が直面する問題は関係国の思惑も複雑に絡む。オバマ氏の任期中に解決することは困難で、将来に託したのだろう。

 イランとの核合意で「世界が戦争を回避した」ことや、キューバとの国交回復で「冷戦が終わった」ことを成果に挙げた。いずれも、オバマ政権のレガシー(政治的遺産)と評価したい。

 景気回復や国民皆保険を目指した医療保険改革法(オバマケア)成立などの実績も強調したが、上下両院で野党共和党は過半数を占める。日米など十二カ国で大筋合意した環太平洋連携協定(TPP)早期承認、キューバ・グアンタナモ基地のテロ容疑者収容施設閉鎖、移民制度改革など、公約はいずれも実現困難な情勢だ。

 演説会場、ミシェル夫人の隣は空席だった。「銃犠牲者のため」として用意された席だった。

 その前で大統領は「銃の暴力から子どもたちを守るため必要なことを続けたい」と述べた。インターネットによる銃販売業者にも事前登録を義務付ける。共和党中心に本格的な銃規制に慎重な意見も多いが、議会での立法が必要ない大統領令で“強行突破”する。

 十一月の米大統領選で共和党支持率トップの不動産王トランプ氏は「憲法違反」と反発する。そのトランプ氏は、イスラム教徒の入国禁止を訴え支持を集める。

 オバマ大統領は「人種や宗教を理由にして人々を標的にする政治を拒否する必要がある。イスラム教徒を侮辱することは安全をもたらさない」と述べ、トランプ氏の主張に警鐘を鳴らす。

 理想と保守的な主張がかみ合わないまま、分断が広がり、政策実現が進まない米社会。大統領選が激しさを増していく中、オバマ氏はどこまで理想を貫くことができるか、見届けたい。

 

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