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維新の党、崩壊のきっかけは?安保法制が引き金を引いた、第三極の「終わりの始まり」

筆者は安保法案はこの国の政治の歴史を10年ほど遅らせたのではないかと考えている。多くの国民に55年体制を思い出させたのではないかと感じた。つまり、政党の対決論理と憲法をめぐる手続き論に終始した結果、本質的な安全保障政策に係る議論がほとんど行われることがなかったのは残念だったと感じている。

まず、安倍政権の責任は重い。自ら推薦した有識者が違憲を表明するような法案を強行したことは、議会人として本来許されないはずである。しかし、そこまで振り切ってしまったがゆえに、自民党は緊張関係の強まる東アジア情勢に現実的な政策を取りうる「唯一の」政党であることを右寄りの有権者にアピールできたことは、安倍政権にとって実質的なプラスになったに違いない。つまり、安倍政権は憲法と言った縛りを無視ししてでも、国民の安全を守ろうとする政党であるというアピールである。ある意味心強いかも知れないが、そこはかとなくおそろしいそんな政権をこの国は戴いているのである。

そのような強行策は野党にとって当然許されるものではない。結果として集団的自衛権そのものに賛成する立場と思われる、維新の党のような保守的な第三極ですら反対に回らざるをえない結果となった。本来自民党同様に多様性が売りの一つであって、党内にそれなりの保守派をそろえる民主党も、徹底的な抵抗を見せた結果、55年体制の再現ともいうべき国会乱闘劇場が出来上がってしまった。55年体制下でしばしば観察された、この国で神格化された憲法論とイデオロギーに存在価値を見出す野党と、現実的な対応性を元に無言ながら圧倒的な国民の支持をまとめつつ暴走する与党という歌舞伎が楽しめたといえる。

思い起こせば、小選挙区導入の政治改革が目指していた将来像は、政権交代可能な政治システムのはずである。つまり自民党に変わる「現実的な」対抗勢力を構築することが目的だったはずだ。その役割を担う民主党にとって、今回の一幕はかなりの悲劇だった。いささか同情されるべきことではあるが、暴走する安倍政権に対峙するために、民主党のリベラル色は強まったように思われ、一部の左翼労組に牛耳られた政党のように国民に理解されてしまった可能性もある。民主党単独として政権復帰するシナリオは少し難しくなった。とはいえ、民主党はすぐにはなくならないし、我が国で最も有力な政治団体である、労働団体に支持される「確かな野党」政党として一定の影響力は漸減しながら維持されていくだろう。

第三極の筆頭としての維新の党は自身の意味不明な党内事情もありかなり追い込まれている。これも筆者から見たら同情の対象だが、暴走に対抗するために本来の立場をうまくアピールできず反対に回ってしまった。このことは、本来の第三極の支持層である、中間的な保守層、無党派層からみてどう見えるだろうか。これらの保守的無党派層の政治的態度は一概には言えないが、あえて一言でまとめると、憲法をめぐる手続き的な争点よりは、現実的な対応を求めているといえる。しかしその一方で政治には競争が必要であり、自民党の古い体質は受け入れられないという層が多いと思われる。これらの層に対して今回の維新の反対は(議会人として当然の対応ではあったが)選挙に与えた影響としてはネガティブではなかったかと思われるのである。実際にNHKの世論調査でみると、8月に2.5%あった支持率が9月は1.3%、10月になると0.7%へと低迷してしまっている。これは社民党を下回る数字である。

もっとも、維新の党が窮地に追い込まれているのは国会の事情だけではない。いわゆる東西分断をめぐる一連の騒動や偽物維新といった橋下氏の主張は、これまでの支持者にとって意味がわからない。どちらかと言うと第三極を支持していた筆者にとっても全く意味不明であると感じる。もっとも、この点は長くなったので稿を改めよう。

一方で支持拡大した共産党のような政党もある。得意分野である安全保障政策をめぐるイデオロギー政治に舞台が移り、得意満面の存在感を示したのが元祖確かな野党である。しまいには国民連合政府構想をぶちあげて、野党間連携を呼びかけるほどには勢いが出てきた。NHK世論調査でも、ライバルの与党公明党を上回る、第三党となる支持率を確保し、暴走する安倍自民党に対する確かなアンカー野党として存在感を発揮しているといえる。

以上、安保法制が野党各党に残した小さいとはいえない傷跡をまとめてみた。それほどまでに安倍自民党の暴走は議会政治の危機だったともいえるし、逆に言えば、戦後政治の枠組みでは扱いが難しい、敗戦国という縛りの中、台頭する中国の脅威に向き合うという大きな政治課題に直面しているともいえる。この局面をうまくまとめられる自信もないが、安倍自民が舞台の右袖に走ったばかりに、接近しつつあった自民党と野党との距離感が拡大した結果、細かな第三極の立ち位置は本当にわかりにくくなってしまった。この国の政治が暫くの間左右に大きく分断して行くことになるとしたら、一体誰がこのような事態を望んでいたのだろうか。

選挙ドットコム取締役CTO 佐藤哲也

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