『SMAP×SMAP』生放送翌日の中居正広の一言
大谷ノブ彦(以下、大谷) 今回はまずSMAPの話をしたい! 年明けからの騒動はさすがに落ち着きましたけれど、僕はやっぱりSMAPの音楽が好きだし、そこについて語りたいんですよね。
柴那典(以下、柴) ですね!
大谷 でも、その前にちょっと話したいことがあって。俺、中居さんに会ったんですよ。例の『SMAP×SMAP』の生放送があった次の日に。
柴 ええっ!? すごいタイミングじゃないですか!
大谷 中居さんのラジオ番組の収録があったんですけど、ちょうどその時に僕もニッポン放送で番組をやってたんで、スタジオの前で終わるのを待ってたんです。
柴 ははは! 出待ちしてたんだ。
大谷 そうそう。もちろん建物の外でファンが出待ちしてるんですけど、その全然前の段階で一番に僕が出待ちしてた(笑)。
大谷 それがね、収録が終わってスタジオから出てきて「おお! 大谷くん!」みたいに声をかけてくれて。「お久しぶりです!」って言ったら一言目に「大谷くん、いま、大変なんだって?」って。
柴 ははははは!
大谷 一瞬でツッコミましたよ。「いやお前だよ!」って。
柴 なんていい話なんだ。
大谷 そしたら、ちょうどその日、大リーグの上原投手も特別番組の収録でニッポン放送に来てたんですよ。だから上原さんも会いに来て。そうしたら中居さんが上原さんに声をかけたの。「お! 上原くん、聞いたよ、アメリカで大変なんだって?」って。そしたら上原さんも即座に「お前だよ!」って。
柴 すごい!(笑)。
大谷 もう掴みのギャグみたいになっちゃってて。その場も爆笑ですからね。
柴 普通に考えたらめちゃくちゃ気を遣うタイミングですもんね。そんな状況でも「お前だよ!」って言わせることで一気に空気がゆるむ。
大谷 そういう気遣いもそうですし、人間としての中居さんの懐の大きさを感じましたよ。そこにもグッときましたね。
SMAPはアイドルの発明だった
大谷 で、これはもういろんな人が言ってますけれど、やっぱりSMAPは日本のアイドル文化を変えたんです。今の日本では当たり前になっている「カウンターカルチャーとしてのアイドル」というものを初めて提示した。アイドルがやらないようなこと、一見矛盾しているようなことをやって、そのことで国民的なアイドルになった。
柴 そもそも「歳をとってもアイドルでいられる」ということ自体、SMAP以前は考えられなかったわけですからね。
大谷 それもSMAPの発明でしたね。結果的に40歳を超えてもいまだにアイドルグループとして第一線でやっているわけだから。
柴 SMAPの曲は歌詞が象徴的ですよね。それ以前のジャニーズ系のアイドルではそんなことなかったけれど、カラオケで同世代の男が自分の共感を込めて歌える内容になっている。
大谷 そうそう。僕は木村拓哉さんと中居正広さんと同い年なんですよ。だからまさに同世代なんですけれど、ウチの相方の大地も「SMAPは男が歌っていいジャニーズだ」って言っていて。「がんばりましょう」なんて、僕らの世代のいけてない日常を過ごしてるヤツの歌ですからね。
柴 〈Hey Hey Hey Boy かっこわるい 毎日をがんばりましょう〉。たしかに。
大谷 「$10」も衝撃でしたね。この曲の歌詞はお金と性愛のことを歌っている。SMAPは93年の頃からフリーソウルを取り入れて「よくこんな人達を揃えたな!」っていう、ジャズやフュージョン系の名だたるミュージシャンをバックに本格的なサウンドを作っていたんです。だからブラック・ミュージックとしては当たり前のテーマなんですけれど。
柴 でも、それまでのアイドルグループは、そんなアダルトなことは歌のテーマにならなかったですもんね。
大谷 で、98年に「夜空ノムコウ」が出る。この曲がすごい。
柴 これは本当に歴史的な曲になりましたね。この「夜空ノムコウ」って、1998年のオリコン年間ランキングの2位なんですよ。今のような握手券商法もない時代に、シングルで160万枚以上を売り上げていた。
大谷 あの頃はミリオンヒットが当たり前でしたからね。いい時代だったなあ。
柴 宇野維正さんが『1998年の宇多田ヒカル』という本で書いてますけれど、この年は日本でCDの売り上げがピークになった年なんです。みんなヒットチャートに夢中になっていた。いわば音楽シーン自体にものすごく勢いがあった時代の象徴でもある。
大谷 宇野さんが本の中で書いていて「なるほど、たしかにそうだった」と思ったんですけど、あの頃、昨日まで渋谷系を聴いていたようなおしゃれな子たちが急に「最近のSMAPいいよね」とか「『夜空ノムコウ』、いい曲だよね」って言い出したんですよね。音楽好きほどハマってた。
柴 で、この曲の何にグッとくるかって、やっぱりスガシカオさんが書いた歌詞なんですよ。いろんな風に読み解けるんですが、僕はやっぱり「何かが終わってしまった」という情景を描いているように思える。
大谷 喪失の歌ですよね。
柴 そう! 〈あれからぼくたちは 何かを信じてこれたかなぁ……〉という言葉の重さたるやですよ。かつては信じられるものがあった。しかし、今はもうそれがわからない。そういう切なさを歌っている。
大谷 しかも、すごいのは、この「夜空ノムコウ」も含めて、いろんな曲が2016年の今のSMAPのテーマソングになっているってことなんですよ。
柴 ね! 本当にそうなんです。今のSMAPが直面している状況に完全に当てはまる。〈つまらない常識など つぶせると思ってた〉〈全てが思うほど うまくはいかないみたいだ〉。
大谷 すごい! 未来が見えている人が書いた曲だ!(笑)
柴 はははは! あとは「しようよ」もそうですよね。〈正直に とにかく何でも隠さずに 話をしようよ〉。
大谷 「がんばりましょう」だってそうですよ。〈うしろ指さすのなんてさ 好きな人も多いでしょ〉〈仕事だから とりあえずがんばりましょう〉。
柴 いやもう、ホントに全部あてはまる(笑)。あとは「STAY」という曲もすごいですよ。〈この先どうしようもなくすれ違ったり言い争いがあったりしても どうか道の途中で 手を離そうとしないでよ〉。
大谷 こないだ中居くんがラジオでこの曲をかけてましたね。
柴 「STAY」って、もともとは結婚式の定番ソングになっているような曲なんですよね。〈あなたと共に歩こう いろんなことを乗り越え〉という、パートナー同士の長い愛情を描いている。普遍的な人生の機微を歌う曲が、やっぱりSMAPのことに結びついてしまう。
大谷 中居くんのラジオでは「世界に一つだけの花」と「夜空のムコウ」と「STAY」の3曲をかけていたんですけれど、おもしろいのは、これ、全部歌い出しが中居くんか木村くんなんです。そういうことも含めて、いろんなことを深読みさせる。ほんと、SMAPっておもしろいなって。
柴 ですよね。しかも「STAY」で中居くんの歌うラインが〈Let you know 大事なのは続けること〉ですからね。
大谷 いやあ、グッときちゃうな。
SMAPがタモリから受け継いだ覚悟
柴 でも、今回改めて感じたのは「俺、こんなにSMAPのことが好きだったんだ!」ってことですね。僕の周囲にも、今回の解散危機の報道をきっかけに改めてそう思った人が本当に多くて。
大谷 いやあ、まったく同じですね。SMAP好きな自分に改めて出会えた。
柴 ずっと追ってきたファンが悲しむのは当たり前だと思うんです。でも、それだけじゃなかった。いろんな世代、これまで関心なかったような人も心を痛めることになった。
大谷 国民的な関心事になりましたからね。
柴 で、僕としては、このタイミングでもう一つ思ったことがあるんです。2014年に『笑っていいとも!』が終わったじゃないですか。その時にSMAPがタモリさんから何かのバトンを受け取った気がするんですよ。
大谷 何かのバトン?
柴 今思うと、『笑っていいとも!』って、いわば僕らにとっての「終わらない日常」の象徴だったと思うんです。お昼にテレビをつけたら、なんとなくやっている。そういう風に暮らしの中で30年以上もずっと共にあり続けてきた。誰もが終わらないだろうと思っていた。でも、タモリさんは軽やかに「いいとも!」を終えてみせた。
大谷 終わったときには喪失感がありましたよね。
柴 その『いいとも!』の最終回で、とても感動的なスピーチをしたのが20年間出演し続けてきた中居さんだったんです。歌の世界にはライブがあって、そこには最終日がある。映画やドラマにはクランクアップがある。でも、バラエティは終わらないことを目指す覚悟を持たないといけないジャンルだ、と。しかも、ゴールに向かって進むんじゃなくて、ゴールのないところで終わらなければいけない。こんなに残酷なことがあるのかな、って言ってたんですよ。
大谷 そうか……。俺、なんか泣きそうだわ。そういう中居さんが、今、SMAPを続けるという選択肢を選んでいる。そう考えると泣けてきますね。
柴 僕らは今「いいとも!」の終わってしまった後の時代を生きてるんですよ。そこにおいて「終わらない日常」の象徴であり続ける覚悟を受け継いだのがSMAPだった。だからこそ、「SMAPが解散するかもしれない」という第一報がこんなにも国民的な関心事になったと思うんです。
大谷 まさに時代を背負ってきた記号ですからね。いなくなったら何かの時代が終わってしまう、っていうことなんでしょうね。
次回、スペシャルゲスト登場!? 乞うご期待ください
構成:柴那典