※この作品はR-18です。

オリシューとISヒロイン達によるR18小話   作:dolph
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めげずに再投稿


シノビなガール1

 夕刻。
 更識楯無はドアの内側に張り付き、スコープを覗き込んで廊下の様子を窺っていた。
 ドアは完全に締め切っておらず、指一本の隙間から外の音を伝えてくる。
 待つことしばし。やがて目当ての足音が聞こえてきた。

「1021号室はここか。確か一夏は1025だったな」
「おう。それにしてもなんで俺達が同じ部屋じゃないんだろう?」
「俺の入学は一夏以上に急だったから仕方ない、か。仕方ないにしてもまさか物置じゃないだろうなあ。だったら俺はホテルに戻るぞ」
「いやいやいや、いくらなんでもそれはないでしょ」

 歩いてきた二人はドアの前で談笑を始めた。
 IS学園で男子生徒なのはドア向こうにいる二人だけ。あとは教職員を除けば全て女子なのだ。男同士、話したいことが色々あるのかも知れない。
 聞き耳を立てていると、特に一夏の方が離れがたい様子だった。
 もう一人が入学に同意しなければ、男子生徒は一夏だけになっていたはずなのだ。内心では救世主のように思っていてもおかしくなかった。

(早く入ってきなさいよ!)

 焦れた楯無の祈りが通じたわけではないだろうが、二人の談笑は終わりに向かっていく。

 今日はハードワークで疲れたよ。ん……そうだな、俺も疲れたし早めに寝るよ。いや、寝る前に一夏は勉強しろ。うぐっ……、先生、僕に勉強を教えてください。はいはい、あとでな。チクショーハクジョウモノー。

 学園寮のドアは全て内開きだ。
 相手がドアノブに触れたと同時に、楯無は勢いよくドアを引いて飛び出した。

「あなたぁ~おかえりなさぁ~い。わたしにします? わたしにします? それともわ・た・し? (はあと」

「………………」
「………………」

 楯無の装備は新婚ほやほやラブラブ愛妻仕様だ。
 具体的には裸エプロン。
 ふりふりのフリルたっぷりの可愛らしいエプロンだけを着けている、ように見える。
 流石にエプロンの下が全裸では恥ずかしいので水着を着用している。ビキニタイプで露出度は下着と大差ないが、下着じゃないから恥ずかしくないもん理論である。

 媚びをたっぷり練りこんだ笑顔の下で、楯無は冷静に二人を観察していた。

 一人が織斑一夏。女性にしか起動できなかった新世代の兵器『インフィニット・ストラトス』を男性にして初めて起動した男の子。
 姉にブリュンヒルデと呼ばれる織斑千冬をもち、知己にISの生みの親である篠ノ之束がいる。
 が、彼自身はどこまでも一般人だ。ISを動かせる以上に注視すべきものはなにもない。
 今も楯無の裸エプロンを見て、顔を真っ赤にしている。

(見ちゃった! なんかすごいの見ちゃった! え? あれ? ここって、え? おかえりなさいってそういうこと!?)

 健全な青少年よろしく妄想を加速させている。

 織斑一夏と話していたもう一人が。

 楯無はもう一人に目を向けて、頬が熱を持ってくるのを感じた。
 彼に見られていることに堪らなく羞恥を覚えたのだ。
 このままではまずい、と。視線と表情を崩さないまま思考に集中していく。

(うっわ~~~、やばいっていうか本物のリーシュ=オリオールなのね。冗談とかびっくりではなくて。写真や映像は絶対加工されてると思ってたのに写真以上だわ)

 楯無は脳内でリーシュ=オリオールの経歴を並べていく。

 リーシュ=オリオール。
 現在17歳にして既に財界の巨人と呼ばれている。
 謎のISが2000発以上のミサイルを防いだ事件。白騎士事件は世界の軍事バランス以上に産業・経済界に大きなダメージを与えた。その混乱を5年で終息させ、事件以前よりも世界経済を活性化させた男。
 ISが女性にしか起動できなかったため、女尊男卑に傾きつつあった世界をたった一人で食い止めた男。
 8歳でアメリカの大学に飛び級で進学し、わずか一ヶ月で自主退学。直後に父の名義を借りて投資会社を設立。
 白騎士事件後の混乱に乗じる形で会社の規模と利益を肥大化させ、今も尚順調に成長を続けている。
 彼の投資に失敗はないと言われ、その資産は――分散化されているために全容は掴めなかったが――日本の国家予算に匹敵するとも噂されている。
 投資と言う性質上、影響力はその10倍以上にもなる。

 じゃ、そういうことだからまた明日。お、おう……。

(う~~~、顔が見れない~)

 楯無は自分が美少女であると自覚している。どう振舞えば可愛らしく、どんな目つきなら妖艶に。人の目を意識して自分の持ち味を磨き続けてきた。
 目の前の人物はそんな努力をしているのだろうか。
 リーシュはスイス出身であるので、主な活動エリアは必然的にヨーロッパ全域となる。
 そこでは彼を讃える異名が幾つもある。
 曰くビーナスの愛し子、ダイアナの写し身、リリスの愛人、などなど。
 きらきらと輝く銀髪とか、左右で色が違う神秘的な赤と青の瞳とか、均整の取れたスタイルとか、やっぱり手足は長いとか。
 誰かが言った。

「リーシュ=オリオールからは神の指先を感じる」

 そして、織斑一夏に続く二人目の男性IS適合者。
 IS学園に入学した二人目の男子生徒。
 それは何故か。
 何故起動できたか、ではない。リーシュ自身は篠ノ之博士の仕業と公言してはばからないようだが、篠ノ之博士の所在は不明。公的な発言も一切ない。よって、真偽は不明。
 リーシュほどの財力と権力があれば、IS委員会の要求など突っぱねることが出来るはず。ISに関心があるとの情報もつかめなかった。
 IS操作の習熟よりもデータ収集に重きを置いた一年間だけのカリキュラムとは言え、何故IS学園に入学したのか。
 経済は楯無の専門ではないにせよ、一年間も現場を離れるのは得策でないことくらいわかる。
 ならば、デメリットを上回るメリットがなければならない。

 更識楯無は、裏に属する対暗部の『更識』家の当主『楯無』だ。IS学園の生徒会長でもある。
 生徒達を、IS学園を、ひいては日本を守るために、利益とするために、リーシュ=オリオールの思惑を知らなければならない。
 そのためなら色仕掛けの一つや二つ。水着姿くらい軽いもの。チラ見せは、ハードルが高い、ような気がするが手段を選んでいる場合ではない。
 仕事柄ゆえ知識だけはある。実践を伴ったことはない。
 それでもやらなければならないのだ。
 ゆっくりと息を吐いて吸って気合をいれ、

「やっぱりお風呂で洗いっ……こ…………?」

 思考の渦から現実に戻ってきた楯無の目の前には、無人の廊下しかなかった。
 楯無が目を伏せて頬を赤らめている間にリーシュと一夏の二人は別れ、それぞれの自室に戻っていた。つまりは楯無の背後から物音がする。
 一人芝居をしていた楯無はまるきりバカそのものであった。誰も見ていなかったのが不幸中の幸いである。
 ターゲットであるリーシュからも見られていなかったのは良かったのか悪かったのか。

 震える心を自制心で鎮め、静かにドアを閉めてロックした。



 一夏はと言うと、出迎える裸エプロン美少女とあっさりと流すリーシュを見て、

(リーシュすげぇ。マジですげぇ。いきなりあんな綺麗なお姉さんとかよ。これがイケメンパワーってやつか……)

 自虐するも一夏の容姿は客観的に見て相当に整っている。ただし、姉の千冬に似て美形ながらも女顔で、平均以上に逞しい身体を誇るも唯一の比較対象が悪すぎた。人種の壁は高く険しい。
 あちらが素敵かっこいいなら、こちらは可愛い飼いたい、だ。
 それが良いことなのか悪いことなのかは一夏の捉え方次第。

 余談だが、もしもこの場に篠ノ之箒が、密かに一夏へ思いを寄せる少女がいたならば、再会の高ぶりに妙な空気を中てられて、行くところまで行ってしまう可能性が無きにしも非ずだった。
 残念ながらこの場にはいない。きっと自室でシャワーを浴びている。
 所詮はありえたかも知れない可能性だった。



 楯無が震える右手を押さえつつ部屋に戻ると、リーシュは自分の旅行鞄を広げていた。
 当面はホテル住まいの予定だったのに急遽入寮が決まったため、所持品を確認しているのだろう。
 それにしても、と楯無は思う。
 一年間も過ごすにしては小さすぎる鞄だ。自分ならきっとあの十倍でもとてもとても。
 リーシュが背を向けているのは幸いだった。
 神秘的ですらあり、間近で見れば眩暈がしそうな顔を見ずに済む。

「ちょっと~。お姉さんがこんなにアピールしてるんだから無視はひどいんじゃないかな?」
「はいはい、後で構ってあげるから大人しくしてなさい」

 まるきり子供扱いだった。
 更識楯無16歳。リーシュ=オリオール17歳。
 学年では二年生と一年生で楯無のほうが先輩になるのだが、お姉さんキャラで行くのは無理があったのかも知れない。
 むくれる楯無にリーシュが極自然に問いかけた。

「君はどっちのベッドを使うんだ?」

 IS学園の学園寮は基本的に二人部屋となる。ワンルームであってもトイレ・バス・簡易なキッチンと生活に必要なものが一通り揃っている。
 ベッドは当然のことながらダブルではなくツイン。二つある。
 ベッドサイズはセミダブルで、寝相が悪くなければ二人で一つのベッドでも問題はない。ほぼ女子高の体をなすIS学園では、二人で一つの仲良しルームメイトがいる、かも知れない。

 ところで、楯無はリーシュのルームメイト、と言うわけではない。
 本来のルームメイトは別にいる。
 リーシュの入学が決定したのは今日より数えて五日前だったので、部屋割りに無理に無理を重ねてどうにもならなかった。
 つまりはルームメイトの引越しが間に合わなかった。
 無茶だろ、と思うのは楯無を始めとする学園の意思が働いているからだ。
 彼女には迷惑を掛けてしまうと反省。
 楯無は様子見に来ただけである。だけであっても、答えないのは不自然だった。

「ええと、それじゃこっちを使わせてもらおうかな」

 リーシュが背を向けている側のベッドを指し示し、座って待とうと足を踏み出したところを突き飛ばされた。

「え?」

 まったくの不意打ちだった。
 犯人は一人しかいない。
 リーシュは楯無の存在を歯牙にも掛けていないように見えた。どうせ熱狂的な一生徒が先走った程度と見ていた。楯無はそう見た。
 事実、楯無の疑似裸エプロンには目もくれず、荷物整理をしていた。
 倒れる楯無は受身も取れず柔らかくベッドに受け入れられる。

「うぁっ……」

 ベッドに倒れこんだと同時に、腰の上に重みを感じた。
 漏れでた言葉に濁点がつかなかったのは楯無の乙女力によるものではなく、上に乗ったリーシュが加減をしたからだ。

「なにを……」

 倒れこんだ姿勢のまま振り向いて文句を言おうとしたところ、待機形態のISを奪われ弧を描いて向こうのベッドに落ちた。
 三歩も歩けば届く。手を伸ばしただけでは届かない。

「さて、用件を聞こうか。更識の楯無さん」

 エプロンと水着だけの楯無の上で、リーシュ=オリオールがいっそ慈悲すら感じさせる柔らかい笑みを浮かべていた。



気の向くままに続くような気がします


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