賃金の長期低落傾向が続いています。「はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざり」の一億総啄木化です。
このような事態になってしまった原因は、
- 日本銀行の金融緩和不足(←主にリフレ派による批判)
- 政府の消費税率引き上げ
にあるとして、日銀 and/or 政府を批判する人が多くいます。
しかし、それよりも「主犯」にふさわしい部門が存在します。下のグラフは、その部門の資金過不足の対GDP比です(統計分類が不連続)。
仮にこれが政府部門で、「1990年代以降、大幅な緊縮財政に転じ、財政黒字を定着させた」ことを示しているとすると、「景気低迷の主犯は緊縮財政政策」と誰もが判断するでしょう。ユーロ残留のために緊縮財政を余儀なくされているギリシャのようなものです。
あるいは、これが海外部門で、「化石燃料価格の大幅高のために経常収支が黒字から赤字に転落した」ことを示しているとすると、「景気低迷の主犯は輸入増大による所得の海外流出」と誰もが判断するでしょう。かつての石油危機のような事態です。
もうお分かりでしょうが、このグラフは企業部門(旧:法人企業、新:非金融民間法人企業)を示したものです。素直に見れば、企業部門による「緊縮政策」が家計消費を抑圧して内需拡大にブレーキをかけていることは明らかなのですが、なぜかほとんど問題視されることはなく、代わりに日銀や政府が非難の対象となっています(民間無罪?)。消費税率引き上げを強行した政府はともかく、2000年代以降の日銀はほとんど冤罪でしょう。
「賃上げすると日本が滅びる」などと妄説を唱える人もいますが、人件費に対する経常利益の比率は、バブル期のピークを大幅に上回っています。企業部門全体としては賃上げ余力は十分にあります。
結局のところ、新自由主義的な思想に従って民間企業の自由度を高めたら、経済社会全体にとっては好ましくない均衡に陥ってしまったということでしょう(これが本当の"Japan's trap")。この均衡から脱け出すためには、「国家の責任ある機関による多かれ少なかれ強力な介入」が必要であることは、歴史が教えるところです。*1
ヒットラーの社会革命―1933~39年のナチ・ドイツにおける階級とステイ
- 作者: D.シェーンボウム,大島通義,大島かおり
- 出版社/メーカー: 而立書房
- 発売日: 1988/05
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
新しい中央管理官は修辞的な遺憾の意を示しながらこう言明した。「経験によって確かめられたことだが、経済はその赴くままに放置するならば、現在の諸困難の悪用から生じうる深刻な損害を未然に防ぎうるような、内的権威も規律も生み出しはしない。利潤追求は一般に全体の福利にたいする道徳的義務よりも強力なのである。これまで幾度も、国家の責任ある機関による多かれ少なかれ強力な介入が緊急に必要となったことがあったのである」。*2
- 作者: 脇田成
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2014/02/12
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (1件) を見る
日本経済の構造変化――長期停滞からなぜ抜け出せないのか (シリーズ 現代経済の展望)
- 作者: 須藤時仁,野村容康
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2014/12/10
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る