2016年2月8日(月)

原油安 拡大するその影響

原油価格の記録的な安値が、世界経済を揺るがしています。
一昨年(2014年)、1バレル=100ドル台だったニューヨークの原油先物価格は、今年(2016年)に入り、一時26ドル台まで急落。
およそ12年ぶりの安値を更新しました。



原油価格の下落は、産油国の経済を直撃。
サウジアラビアでは財政赤字が11兆円を超える見通しとなり、ロシアでもルーブル安で急激なインフレへの不安が広がっています。
シェール革命によって最大の産油国となったアメリカでも、多くのエネルギー企業の経営が悪化。
大量倒産への懸念が広がっています。


原油価格はどこまで下落するのか。
今後の推移と影響について読み解きます。





香月
「特集・キャッチ!インサイト。
今朝は、原油安が世界経済に与える影響について考えます。
IMFのラガルド専務理事は先週、原油を初めとする資源価格の低迷が長期化するとの見通しを示し、産油国の経済への影響を懸念しました。
ナイジェリアやアゼルバイジャンなど、産油国の財政状況は急激に悪化しており、IMFなどによる金融支援をめぐる報道も出始めています。
まずは原油価格の推移について、徳住さんです。」

徳住
「原油価格の国際的な指標とされているのが、ニューヨーク商業取引所で取引されているWTIの原油先物です。
今も続くこの下落傾向が始まったのは、2014年の秋頃のことです。
直前の7月までは、原油価格は1バレル=100ドル台で推移していたのですが、世界的に供給過剰になるとの見方が強まったことで、その後、下落に歯止めがかからない状態になりました。
今年に入り、リーマンショック後につけた安値を下回る、1バレル=26ドル台まで下がりました。
その後も30ドルをはさんで、依然、安値での取引きが続いています。

こういった状況の中で、世界銀行は先月(1月)、最新の原油価格の見通しを発表しました。
それによりますと、このあと『原油価格の持ち直しは小幅にとどまる』としています。
その理由として挙げているのが、中国の景気減速などで世界の原油需要が伸び悩んでいること、また供給面としては、核開発をめぐる経済制裁が解除されたイランから原油輸出が再開されること、アメリカでシェールオイルの生産の勢いは衰えず、世界的に供給が過剰な状態が続くことなどを挙げています。」

急激な原油安 その要因は

香月
「ここからは、エネルギーをめぐる国際情勢に詳しい、世界平和研究所・主任研究員の藤和彦さんにお話を伺います。
まず、この原油安の原因面なんですが、世界的な供給過剰、あるいは需要の低下があるということだったんですが、藤さんはどのようにお考えですか?」


世界平和研究所 藤和彦さん
「原油の供給過剰につきましては、トレンドを作る材料の1つに過ぎないと思っています。
先ほど、中国の需要の伸び悩みという話もありましたが、一昨年も9%、去年(2015年)も8%ということで着実に伸びています。
ここで1つ押さえておきたいのは、世界の1日あたりの原油生産量が約1億バレルです。
それに対しまして、油価が下がり出す直前の、世界の原油市場の供給過剰が100万バレルだったのが、現在は200万バレル。
100万バレルだけ供給過剰が伸びたんですが、実際の原油生産量の1%の供給過剰量で、原油価格が3分の1になってしまったというのは、多分、やはり別の要因が原油安を引き起こしているんじゃないかと私は考えております。」

香月
「その別の要因というのは、一体何なのでしょうか?」

世界平和研究所 藤和彦さん
「今回の原油安の大きな原因は、原油が『金融商品』になってしまったというところがあると思っています。
具体的に、原油の値段につきましては、先物が原油の実体の値段を決めていまして、原油の先物は、実は2000年代の半ばから、株式、それから債権に次ぐ『第3の金融商品』ということで、先ほどのWTIの先物市場ですが、取引高がNYダウの半分まで拡大しているといわれております。
ですから、実体の原油に比べて、金融で取り引きされるその量が多いものですから、実際は金融の要素で価格が決まってしまっています。
ですから、先ほど言ったように、たかだか生産量の1%の需給ギャップで、原油価格は3分の1まで落ちてしまうという状況になっています。

そこで、ここに図が出ておりますが、実際にリーマンショックの後に、32ドルまで実は原油価格が下がりました。
この時に、アメリカのFRB(=連邦準備制度)が量的緩和を始めますと、グングンと原油の価格が上がりまして、2011~14年まで100ドル超えでした。
この水準というのは、なぜ起きたかといいますと、量的緩和で、要は投資マネーにものすごくお金が入って参りまして、その受け皿として原油の先物市場が使われてしまったということです。
それが、実際に量的緩和をやめ始めるとFRBがアナウンスすると同時に、原油価格が下がってしまいました。
さらには、昨年末にFRBが利上げすることによって、さらに、原油先物の金融商品としての魅力がなくなってしまって、それで一気に原油価格が30ドル割れしてしまったということになるわけです。」

香月
「この後、10年~20年という長期的な見通しというのはどのようにお考えですか?」

世界平和研究所 藤和彦さん
「実は、2004年から2014年の過去10年間がむしろ異常でした。
原油価格の平均が80ドルだったんですが、それを例えば90年代から見てみますと、だいたい原油価格が20~50ドルで推移していました。
ですから、リーマンショック前の147ドル、さらにはこの3年間の100ドルは異常でありますので、ある意味、私はこの先10~15年は、20~50ドルの範囲で原油が推移するのではないかと思っています。」

長引く原油安 世界経済への影響は

香月
「そうした水準が今後続くとしますと、世界経済にはどんな影響が予想されるでしょうか?」

世界平和研究所 藤和彦さん
「私は、非常に深刻な打撃があると思っていまして、私が考えている『原油安が招く“最悪のシナリオ”』については、アメリカで金融危機が来てしまうのではないか、それからその後にサウジアラビア、日本にとって一番の原油輸入国ですが、サウジアラビアに『アラブの春』が来てしまうんじゃないかというおそれを持っています。」

香月
「まずこちらの『金融危機』なんですが、こちらはどういうことなんでしょうか?」

世界平和研究所 藤和彦さん
「まず最初に金融危機の引き金ということですが、実は現在、アメリカのシェール企業を取り巻く環境が2007~2008年のサブプライムローン問題からリーマンショックに至る構図とそっくりであるということをご説明したいと思っております。
現在アメリカのシェール企業というのは、原油価格が30ドルですと大半、ほとんど全てが採算割れの状態です。
原油価格(の下落)が続きますと実はアメリカの場合、4月と11月に金融機関が与信枠の見直しをします。
次の4月ですが、このように原油価格が低迷しておりますと、たぶん金融機関が与信枠を占めるだろうといわれてますが、そうなりますと、ただでさえ売上げ高に占める債務の比率が6倍を占めるといわれているシェール企業が、資金繰りが悪化しまして、シェール企業が大量倒産するのではないかと。」

香月
「与信枠が狭まるということは、借りられなくなるということで倒産してしまうということですか?」

世界平和研究所 藤和彦さん
「ただでさえ赤字操業でありますので。

で、そうなりますと、先ほども言いました、シェール企業が出している『ジャンク債』なんですが、要は格付けの低い債権ということで、債務不履行になるリスクが高いですが、高い利回りである。
要はいわゆるハイリスクハイリターンの商品です。
非常に低金利の時代に、非常に魅力のある金融商品ということでありましたので、最近の市場規模が約1.7兆ドルにまで膨れ上がっております。
その中で実際にシェール企業関連は3割だといわれております。
しかもこのジャンク債というのが、サブプライムローンの時と同じように、非常に世界中の金融商品の中に複雑に組み込まれております。
ですから、シェール企業が大量倒産しますと大量のジャンク債がまず債務不履行になります。
そうなりますと、世界の金融市場の中で自分が持っている投資商品の中にシェール企業のジャンク債があるかどうかということでパニックが起きまして、その混乱を通じて金融危機になる可能性があると。」

香月
「そうすると価格はどれぐらいになりますか?」

世界平和研究所 藤和彦さん
「そうなりますと、その原油市場からさらにお金が引き上げられまして、最悪の場合1バレル=10ドルぐらいまで落ちる可能性があります。」

サウジアラビア 財政悪化が招く危機

香月
「続いて先ほどもう1つ出てました、中東最大の産油国でありますサウジアラビアについてなんですが、これはどういうことなんでしょうか?」

世界平和研究所 藤和彦さん
「先ほど、シェール企業大量倒産で原油価格が10ドル(まで落ちる可能性がある)と。
今でさえ厳しい状況です。



サウジアラビアにつきましては、実際に原油の生産コストは安いんですが、財政予算に占める想定の原油価格が90ドル。
ですから、90ドルの原油価格でないと財政赤字が出てしまうという状況になっています。
さらには収入の減少に加えまして、昨年3月からイエメンに対して軍事介入していますので、非常に軍事費が拡大しております。
これまでサウジアラビアというのは、国民に政治的権利を与えない代わりに、国民に必要な生活物資を安く供給する、いわゆる『ばらまき政策』を展開していました。
ただ、財政難によって補助金がカットされ、今年からガソリンの値段が1.6倍になりました。
早ければ今年から5%の消費税を導入するということになります。」

香月
「そうすると不満がかなりたまりそうですね。」

世界平和研究所 藤和彦さん
「はい。
政治的な権利が無いのに財政負担、さらには国務負担が高まれば、当然、王族支配に対する不安が高まりますので。
ですから、2011~2012年に起きた『アラブの春』が起きてしまいかねないということです。」

原油の安定確保へ 日本の備えは

香月
「相当懸念される事態だと思うのですが、この場合、日本の対応というのはどうするべきですか?」

世界平和研究所 藤和彦さん
「中東の不安というのは、原油の輸入を相変わらず8割、中東に依存している日本からしてみますと最悪のシナリオになります。
最悪のシナリオを避けるためには、本当は減産しなければいけないということですら、なかなかうまくいってないという状況であります。」

香月
「日本としましては、今ほとんど中東から頼っているわけなんですけど、それを例えば別の所から(輸入するなど)、供給源の多様化みたいなことが必要になるんでしょうか?」

世界平和研究所 藤和彦さん
「それも不思議なんですが、ここにあります、ロシア。
ロシアは非常に日本から近く、まだまだ原油輸入の余地があります。
ですから中東依存度を下げるためには、ロシアからの供給を拡大することがまずいちばんですし、さらには日本には『国家石油備蓄』と称する石油がありまして、約3億バレルあります。
この3億バレルの石油というのはサウジアラビアから今33%輸入しておりますが、これが全量ストップしても300日間は供給を確保できるという量であります。
ただ、80年代にこの国家石油備蓄をセーブして以来、1度もまだ放出したことがないものですから、迅速に放出できる準備を今からする必要があるのではないかと思っております。」

この番組の特集まるごと一覧 このページのトップヘ戻る▲