【新国立競技場を隈研吾が語る(上)】「2つの東京五輪に因縁を感じて」「いかに周囲の杜と溶け込ませるか…」
2020東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場のデザインを手掛ける建築家の隈研吾さん(61)が1日、東京都千代田区の日本記者クラブで会見し、木を多用し「自然に溶かす建築」という自らの理念を語った。
因縁のようなもの
実は私の設計事務所は外苑前駅の近くにあり、いつも自宅から(新国立競技場建設予定地のある)神宮外苑の杜の前を通って通勤しています。学生時代も旧競技場の前のジムで汗を流し、わきのテニスクラブでよくテニスをしていたので、杜は自分の庭のようなものです。
第1回目のコンペのときは、(プリツカー賞やアメリカ建築家協会ゴールドメダル受賞者など)参加資格が非常に厳しく、僕なんかはお呼びじゃないなと思い参加しなかった。その後、(建設計画が)建築界全体を巻き込む議論になって、神宮の杜はどうなるんだろうと気になっていたところ、大成建設から「(梓設計とともに)チームに入ってくれ」ということで、(2回目のコンペに)参加させていただいた。
1964年の東京オリンピックの時、私は10歳でした。丹下健三さんが設計した代々木の体育館を父親に連れられて見て、すごいなと感動し、そこで建築家という職業を知った。それまでは獣医になりたいと思っていたが、建築家を目指すようになる“人生の転機”でした。2020年五輪に携わることができて、何か因縁のようなものを感じています。
杜との調和
競技場を杜と調和させるため、なるべく(建物を)低くすることを考え、私たち(A案)は最高地点で49メートルに抑えた。B案はこれより5メートルほど高く、ザハ・ハディドさんの案は最高75メートルなので、かなり高さを抑えられたことに安堵しました。
(メーンの構造はコンクリートだが)木をなるべく使いたいと思いました。ここ10年ばかり、私は国内外で木を多用した建築をつくってきた。20世紀、工業化の中で木の建築は迫害され、教育の場でも、コンクリートと鉄の建築しか教えてもらえなかった。でもこれからは木。木を使って長く持たせることが、地球温暖化対策として非常に効果がある。そして、木を計画的に使うことは、国内の森に自然な循環を取り戻すことにつながる。人間にとって、木の温かさを感じられる建築をつくることが自分の使命だと思いました。
新国立競技場を下から見上げると、垂木状の軒になっています。この軒のデザインは、お寺や神社に見られる日本伝統建築の技。(法隆寺五重塔の写真を見せながら)こうした日本建築の知恵を現代的なかたちで生かしたいなと思いました。木造建築は、軒などで雨が直接かかりにくい断面構造にして、傷んだところを交換すれば1000年もつ。つまりメンテナンスコストを抑えられる。コンクリートは100年もたすのも大変だと言われますから、木は強い、しぶとい素材。木をもう一度、建築に取りもどしていけたらと思っています。
屋根は木と鉄のハイブリット構造。普通は木を鉄で挟むことが多いが、私たちは逆に木で鉄を挟むことにしました。この方が観客席から木が見えるので、木の温もりが感じられます。最先端の太陽光パネルも(屋根の)ガラスの中に入れることで、観客席から見えるようにします。
著作権「問題ない」
スタジアムの構成ですが、ザハさんの案はスタジアムの両側が高くなる断面形状の「サドル型」なのに対し、われわれは全部同じ断面で回る水平式で、コストと工期を抑えた。水平で8万人を入れる方が、観客席の一体感も出て良いのではと思いました。
<ザハさん側は昨年12月、「われわれが2年かけて提案したスタジアムのレイアウトや座席の構造が驚くほど似ている」との声明を出している>
外観は対照的ですが、中の観客席は(ザハ案と同じ)3段(層)式。でも一番最初のコンペで11社のうち7社が3段式でした。というのも3段式が避難もしやすくユニバーサルデザインの面で良いため。2段式だと上の方から下りてくるのが大変なんです。8万人規模で一番合理的なのが3段式と判断しました。
またトラックの形状、どこまで(観客席から)見えないといけないかなど、あらかじめ決まっていることがある。東京都の安全条例で、通路幅も80センチと指定されている。法律を遵守して緻密に計算すると、誰が設計しても、だいたい同じところに落ち着くと思います。われわれのチームで著作権の専門家に聞いても、まったく問題ないということでした。