相次ぐ番組介入に自律を守れるか
テレビ放送に対する政治の関与の在り方が問われ続けている。自民党の情報通信戦略調査会が昨年4月、番組内容を巡ってNHKとテレビ朝日の幹部を事情聴取し、11月にNHKと民放が設置する第三者機関、放送倫理・番組向上機構(BPO)が「圧力だ」と批判した。放送法が規定する「政治的公平」を巡る議論もあった。放送の自律を守ることはできるのだろうか。【青島顕、樋岡徹也、日下部聡】
元総務相と「意見交換」
昨年12月9日、東京都心のホテル宴会場で開かれた昼食会に、在京民放5局を含むテレビ局幹部ら約30人が集まった。自民党の佐藤勉国対委員長が講演した後、出席者と放送や通信に関して意見交換したという。
佐藤氏の事務所によると、数カ月前から事務所が準備し、支援する政治団体の主催で出席者から1人2万円を徴収した。今回が初めての開催で、政治資金規正法上の「政治資金パーティー」として収支報告するとしている。佐藤氏は元総務相で、自民党情報通信戦略調査会に付属する「放送法の改正に関する小委員会」の委員長を務め、放送行政に詳しい政治家として知られる。
テレビ局幹部はなぜ顔をそろえたのか。日本テレビ、テレビ朝日、TBSテレビ、テレビ東京、フジテレビの広報担当者は取材にいずれも幹部らの出席を認め「意見交換をした」などと答えたが、参加者名や支払額は明かさなかった。日本テレビは「参加は個人の判断だ」と説明した。NHKは「役職員の個別の業務に関する質問には答えていない」と出席の有無も含め回答しなかった。
佐藤氏の事務所は「意見交換の意味合いでやらせていただいた。政治的な圧力といったようなことは全くなかったが、今後は当事務所として携わることはない」としている。
テレビ局は電波法の規定で、電波行政を所管する総務相から5年ごとに免許を受けなければならない。さらに放送法4条は、番組編集に当たって「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」などと規定している。政権や与党が局の姿勢に口を出す際、こうした規定を持ち出すことがある。
メディア倫理に詳しい大石泰彦・青山学院大教授は「一般的な意見交換だったとしても、放送政策に関わる特定の政治家がテレビ局幹部を集め、局側も応じたのは、政治の倫理、メディアの倫理に反する。言論機関なら権力から距離を置き、公平公正な存在であるべきだ」と話している。
「公平中立な報道を」
一昨年以来、テレビの報道番組を巡って政府・与党が口を出し、波紋を呼ぶケースが目立っている。
14年11月、衆院選を前に安倍政権の経済政策の是非を街頭で聞いたTBS「NEWS23」の報道が「偏っていた」として、自民党は在京6局に選挙報道の「公平中立」を要請する文書を渡した。同党は、テレビ朝日「報道ステーション」の経済政策に関する報道を巡っても「公平中立」を求める文書を送った。
昨年4月には、NHK「クローズアップ現代」の「出家詐欺」報道のやらせ疑惑と、報道ステーションに出演した元官僚、古賀茂明さんが「官邸にバッシングを受けてきた」と発言したことについて、自民党情報通信戦略調査会がNHKとテレビ朝日の幹部から事情を聴いた。高市早苗総務相はNHKを厳重注意した。さらに6月、自民党国会議員の会合で出席議員が「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい」と発言したことも明らかになった。
一方で11月、クローズアップ現代のやらせ疑惑について審査したBPOが、この問題に介入する政府・与党の動きを批判した。放送局側にも毅然(きぜん)とした姿勢を求めた。
この春、3局の報道番組の顔が変わる。クローズアップ現代の国谷裕子キャスター、報道ステーションの古舘伊知郎メインキャスター、NEWS23の岸井成格アンカー、膳場貴子メインキャスターが一斉に降板することになった。岸井氏はTBS専属のスペシャルコメンテーターに、膳場氏は同局の「報道特集」キャスターに就任する。