約5年前、2010年12月17日の朝日新聞の記事から。
菅政権は17日の閣議で、第3次男女共同参画基本計画を決定した。2020年までに男性の育児休業取得率を13%(09年は1.72%)、6歳未満の子の父親の育児・家事時間を1日当たり2時間半(06年は1時間)とするなどの数値目標を設定。男性の育児や介護、地域活動への参加を新たな重点分野として掲げた。
5年の間に自民党の安倍政権に変わり、「イクメン」を増やそうといろんな提言や施策が行われて、少しずつ父親の子育てへの参加が進んでいますが、2014年の男性の育休取得率は2.3%。また、その大半が1カ月未満という短期の取得者であり、なかなか育休取得が進んでいないのが現状です。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK3100C_R30C13A7000000/ から引用
私も5か月育休を取りますというと、「男性もそんなにとれるんですね」「いい会社ですね」と、珍獣を見るような目で見られることがしばしばです。
男性の育休取得が進まない原因はいろいろ言われていますが、そもそも「なぜ男性が育児に参加しなければならないか」という本質的な理由は何なのでしょう。
この基本的なことが、実は世間で共有されていないことも、育休取得が進まない一因だと思います。「奥さんが育休を取るから、君は育休取る必要ないよね」と上司に思われ、父親になった本人も「ママが赤ちゃんの面倒を見るから、パパは一生懸命働くぞ」となってしまいます。
この男性が育児に参加するようになった理由について、柏木惠子さんの「父親になる、父親をする」で家族心理学の観点から説明されていたので紹介します。
目次
- 子育てしようとする力が人間には備わっている
- 人間の子育ては高コストかつ長期間。母親だけでは無理
- 人間は「父親をする」ように進化した
- 父親に育児はできるか。できます。
- 妻には夫、子には父親が必要です
- まとめ
子育てしようとする力が人間には備わっている
人間は子供が生まれれば当たり前のように子育てをします。
当たり前のことですが、実はこれは人間に近いサルにもない能力なのです。
人間には「養護性」という独特の仕組みが備わっています。
幼いものや弱いものを放置できず、守ってやりたい、喜ばせたいという心と、それを実行する力です。人間だけが、他人の感情や心理状況を察知して、行動できる能力を持つのです。
赤ちゃんが泣いたら、あなたはどうしますか。
お腹が減ったのかな、おむつが濡れているのかな、眠たいのかな、それともさびしいのかな、とあれこれ考えて、赤ちゃんの求めているものをくみ取って、赤ちゃんの快適になる、つまりは喜ぶことをしてやると思います。これが養護性です。
人間の子育ては高コストかつ長期間。母親だけでは無理
他の動物の場合は、自力で歩いて、エサを取り、目や鼻などの感覚器官が成熟すれば立派な一人前になり、親から離れて生きるようになります
一方で人間は、歩行や感覚器官の成熟だけでなく、言語、知識、道徳、社会性、価値観など、多種多様な力を備えなければ一人前として生きていけず、一人前になるまでにはるかに長い時間が必要です。
さらに、他の動物の場合は一匹の子の養育に専念しますが、人間は上の子が自立する前に次子が生まれ、同時に養育します。さらに家事もこなしながら、職業を持つこともあります。
人間の子育ては、高コストかつ長期間にわたるため、母親だけでは不可能であり、母親以外による育児が昔から行われてきました。乳母がその一例です。
親以外の人も子育てに参加することも、人間の子育ての特徴です。
人間は「父親をする」ように進化した
他の動物では、子育てはメスだけがすることがほとんどですが、オスも育児をする例外的なものもいます。
サルの仲間マーモセットは父親も育児に参加します。マーモセットは一定の場所に定住せず、移動して生活します。そして、マーモセットは双子が生まれるのが通例のため、母親だけでは2匹の子を運べないため、父親も育児に参加するよう進化したのです。
鳥類を初めてして、子がたくさん産まれる、外敵が多い、エサが乏しいなど子育てのコストが大きい場合、オスも子育てをして繁殖を成功させます。オスの育児参加は子育て・繁殖の成功戦略なのです。
人間の場合も同様に、困難で長期にわたる子育ては母親だけでは無理なので、男性を自分とこのもとに引き留めて子育てにかかわるように働きかけ、それに巻き込まれて、父親は母子の下にとどまるように「進化」したのです。
父親は母親の策略に乗ってしまったようですが、他者の心を知って、共感し協力する人間だからこそ、妻と子への愛情を持ち、「父親をする」ようになったのです。
父親に育児はできるか。できます。
photo by Hammonton Photography
「父親をする」ように進化した経緯があったとしても、子を妊娠できず、出産もせず、母乳も与えることのできない父親に、子育てがそもそもできるのか、と思われるかもしれません。
子育てについて、母親が食事や衣服など子供の世話をして、父親は遊び相手になることが、父親・母親の役割分担と考えている方もいると思います。
でも、育休をとって、家事・育児をした身としては、男性でも子供の細やかな世話役はできます。やらなければならない状況に追い込まれれば、娘の髪をといて、三つ編みを編むことだってできるようになりました。
子供への接し方も、妻に似てきました。母親が子供に話す場合は、声が高くなったり、抑揚をつけたり、語尾を変えたり、独特の話し方(マザーリーズ、母親語、育児語というそうです)になりますが、私もマザーリーズが多くなっています。
過去の研究でも、子育ての第一責任者になっている男性は、母親と同じように、高調音での話しかけや、微笑反応をすることが示されています。
子育ての主担当となることで、子の世話もできるし、子供に対する効果的な振る舞いも自然に学習するのです。
妻には夫、子には父親が必要です
本書では、まめに育児をする父親と、育児をしない父親を選んで、その妻たちが育児に対してどのような感情を持っているか調べた研究も紹介されています。
夫が育児をしている母親は「子供がかわいい」「育児は楽しい」といった肯定的な感情が強くみられる一方で、夫が育児しない場合は、肯定的な感情は乏しく「イライラする」「育児がつまらない」「子供がいなければよかったと思う」といった否定的な感情が強くみられます。
好きになって一緒に暮らしているパートナーにこんな悲しい思いをさせてもいいのでしょうか。こんな状況では子育てはもうたくさん、子供は一人で十分と思うでしょう。
また、父親の育児不在が逆に、母親の子供への過剰介入を招くことも多いです。一例は教育ママです。本来子供には「育つ力」があるにも関わらず、過剰な介入が、それを阻害してしまい、子供の将来に悪影響を及ぼします。
父親も育児に参加することで、母親とは違う視点で子供を見たり、他方のやり方を修正・補完することで、子育てのストレスを和らげ、心理的余裕をもって子供に向き合うことができます。
子供の父親に対する評価も、育児する父親とそうでない父親では全く違います。
まめに育児をする父親と、育児をしない父親を選んで、その子供に父親のようになりたいか、結婚したいかを尋ねた研究があります。
その結果は、まめに育児をする父親では76%の子供が「そうなりたい、結婚したい」と評価した一方、育児をしない父親では66%の子供が「そうなりたくない、結婚したくない」と評価しました。
子供からの評価が父親のすべてではありませんが、そんな父親と思われてもいいのでしょうか。
まとめ
photo by Pink Sherbet Photography
ここまでに紹介したように、人間の子育ては高コストかつ長期間にわたるため母親だけでは無理なため、人間は「父親をする」ように進化しました。父親の育児参加は、子育て・繁殖の成功のために必要なものです。
また、性差を超えて父親も母親と同様に育児はできます。
父親が育児参加することで、父親・母親ともに心に余裕をもって、補い合いながら子供を育てることができ、子供の成長にもいい影響を与えることができます。
仕事の都合、職場の都合、お金の都合など、いろいろな大人の事情はあるかもしれませんが、妻、子は今後の長い人生を共に歩むパートナーです。
長い目で見れば、目先の事情より、家族の安寧の方が大切なはずです。
この辺で父親の育児参加に対する心構えを変えてみてはどうでしょうか。
父親になる、父親をする――家族心理学の視点から (岩波ブックレット)
- 作者: 柏木惠子
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