稲盛和夫がトップに就任して丸3年(2013年時点)がたった。今や世界有数の利益率を誇るJALとはいえ、意識改革が始まった「最初の半年間」は連日、稲盛の叱責が飛んだという。なぜ怒られたのか。役員と各部門の代表者が振り返る。
----------
≪取材に協力いただいた皆さん≫
・専務……大田嘉仁さん(京セラ出身) 社長補佐(意識改革担当)
・常務(1)……乘田俊明さん 常務・総務本部長
・広報……門間鉄也さん 広報部長メディアグループ長
・CA(1)……西原口香織さん チーフキャビンアテンダント
・販売……岸部雄二さん 旅客販売統括本部企画グループ アシスタントマネジャー
・整備(1)……佐藤信博さん 専務・整備本部長、JALエンジニアリング社長
・経理……榎原伸一さん 経理部長
・常務(2)……菊山英樹さん 路線統括本部国内路線事業本部長
・整備(2)……鈴木秀勝さん JALエンジニアリング 人財開発部整備訓練グループ長
----------
安っぽい美談にしてはいけない――。
いくらメディアが「JAL奇跡の再生! 」「営業利益1860億円! (3月期の連結業績見通し)」とはやし立てても、原点を忘れてはいけない。今回の取材でJAL社員の多くがそう語った。
原点とは、「JALは潰れた」ということだ。40万人以上の株主に損害を与え、銀行には大借金を棒引きしてもらった。毀損せず全額返還したとはいえ企業再生支援機構からは3500億円出資(もとは税金)してもらった。そうした処遇は普通の企業の倒産ではありえない。加えてグループ社員も全体で4万8000名から約1万6000名が職場を去った。「V字回復で再上場」と浮かれられるはずがないのだ。
■「JALは倒産した。真摯に考えなさい」
2012年10月末、役員ら約20人による座談会が開かれたのは、そんな戒めの気持ちがあったからにほかならない。この座談会の狙いは稲盛和夫が約3年前に経営トップに就いて以降の社員の意識改革を総括すること。この日、稲盛不在だったからこそ赤裸々に語られた会議の一部始終を誌上再録しよう。
司会役は、2010年2月、会長(当時)に就任した稲盛が京セラから伴った大田嘉仁(専務)。大田に与えられた任務は、稲盛の経営哲学「フィロソフィ」を社員に浸透させることだ。
官僚体質、セクショナリズム、高コスト体質など、JALには改善点が山ほどあった。まずは役員や管理職の意識を変え、それから社員一人一人にフィロソフィの浸透をはかることが再建のキーと考えた稲盛。その指示のもと、大田は意識改革・人づくり推進部長、野村直史と改革に着手した。
その後の業績回復から、改革はいかにもスムーズに進んだように見える。だが、実際は山あり谷ありだった。就任後の半年間は、稲盛が直接社員にカツを入れるシーンもたびたびだった。
【専務(京セラ出身、以下京セラ)】稲盛さんは会長就任直後から、現場視察を重ねましたね。各職場を訪ねて、「ご苦労さん」と声をかけながら。
【常務(1)】就任直後、稲盛さんが空港の視察を終えた後、突然「役員はすぐ集まれ」と言いました。稲盛さんの部屋へ集まると、「空港事務所の整理整頓がなっていない。これからお客さまにサービスを提供するというときに、まず社員が気持ちよく仕事ができない環境は論外だ」と叱られました。
【広報】客室本部のフロアで機内販売用の商品サンプルが無造作に机の上に置いてあるのを稲盛さんが見た瞬間、「もっと丁寧に扱わないと。売りものだぞ」と叱り飛ばしたこともありましたね。
読み込み中…