救急患者を搬送する「ドクターヘリ」のヘリポートの整備を巡り、岩手県が病院に近い県立高校の敷地内に設置する方針を示し、論議を呼んでいる。ヘリの効率的な運用につながる一方、騒音や事故を不安視する声も根強い。学校敷地内に設置された例は全国でもなく、保護者の賛否も割れている。
ドクターヘリは、医師や看護師が同乗して出動。診断や治療をしながら医療機関に搬送し「空飛ぶ救命室」と呼ばれている。昨年8月現在で、全国38道府県の46機が運航。四国4県分の広さに匹敵する岩手では、30分以内で現場に到着できるため、救命率の向上や後遺症の軽減に役立っている。
新たに設置が検討されているのは盛岡市中心部にある県立杜陵(とりょう)高校。約50メートルの距離に県立中央病院があり、これまで通常は約2.2キロ離れた県警盛岡東署(地上10階建て)の屋上ヘリポートを使用。冬場は凍結などで使えなくなるため、約2.5キロ先の県営野球場の駐車場を利用している。
県は「年間を通して安定的な救急搬送体制を確保する必要がある」として、2013年から新たな候補地を模索。中央病院の屋上など病院敷地内の11カ所を調査したが、建物の強度不足や十分な広さが確保できないなどの問題があり、杜陵高校の敷地内に設置する方向で検討を始めた。
計画では同校の格技場を移転し、跡地に高さ約15メートルの高架式ヘリポートを建設。融雪装置を設置するほか、教室の窓を二重サッシにするなど、騒音や風圧を防止するための対策を講じる。17年度下半期での完成を目指す。
県は昨年9月、同校に設置を打診。今年1月31日に、同校で初めて保護者らに説明会を開いた。県側は「中央病院への搬送は、10日に1回程度」などと説明。約40人の出席者からは賛成意見もあったが、「うるさくて授業に集中できなくなることが心配」「教育目的以外の施設ができることに違和感を感じる」などの反対のほか、計画の白紙撤回を求める声も上がった。
文部科学省の学校環境衛生基準は、教室内の騒音レベルを「窓を閉めた状態で50デシベル以下」などと定めている。県によると、ヘリの騒音は周囲100~150メートルで80~90デシベル。バスや電車の乗車時と同程度で、県の担当者は「窓を閉めた状態で、国の基準まで限りなく近づけられる」と説明する。
同校の佐々木和哉校長は「ドクターヘリの重要性は理解する」としつつ、「心配や疑問はある。県に丁寧に対応してほしい」と話し、保護者らへの説明会をさらに開くよう求めている。
達増拓也知事は今月1日の記者会見で「教育を守るのも、命を守るのも県。教育、医療担当が現場に根差しながら調整を進める」と話し、保護者らの理解を求めていく考えだ。【近藤綾加】